ホラーとホラーサスペンスの違い
概要
ホラーとホラーサスペンスには、どのような違いがあるのか?
考察
ホラーとサスペンスの違い
まず、ホラーとサスペンスの違いから見てみよう。文字通り、ホラーとは恐怖であり、サスペンスとは(展開の)宙吊りだ。
単純な例として、ある部屋を想定しよう。たとえば、そこから脱出できなくなり、悪霊に殺されるというのが主題ならホラーだ。いっぽう、幽霊が出ずに、閉じこめられた部屋から脱出できるかどうか、というのが主題ならサスペンスだ。
ここで注意しておくと、こうしたジャンル分類は、生物学的な分類ではない。魚でもあり鳥でもあるというのはなくても、カツとカレーが両方載ったカツカレーはある。じっさい、ホラーサスペンスがあるし、SFミステリもあるだろう。つまり、ジャンル分類は、フォルダの区分ではなく、タグの区別なのだ。
また、ホラーとサスペンスの境界があいまいで、自然と重なる部分があることは否めない。部屋の例で言えば、悪霊に殺される場合でも、助かるかどうかというサスペンスがある。部屋から脱出する場合でも、危険があるかもしれないというホラーがある。そのように重なってしまうのは、読者側には先の展開が分からないからだ。
だが、シチュエーションの繰り返しによって、両者を分離することもできる。悪霊が殺害を繰り返し、部屋からは逃げられず確実に殺される、という規則が示されれば、ホラーに傾いていく。逆に、脱出劇を繰り返して、脱出できるという規則が示されれば、サスペンスに傾いていく。
ホラーとホラーサスペンスの違い
(超自然的な)恐怖があるのがホラー、展開が宙吊りになっているのがサスペンス。そして、その両方の要素を兼ね備えているのがホラーサスペンスだ。部屋の例で言えば、悪霊に迫られながら、部屋から脱出するという展開になる。
シチュエーションの繰り返しによって、ホラーかサスペンスに分離させず、ホラーサスペンス性を維持することも可能だ。ごく単純な例では、屋敷に10人閉じこめられたとして、順番にひとりづつ死亡していけばホラー、ひとりづつ脱出していけばサスペンス、半分が死亡して半分が脱出すればホラーサスペンス、と分けられる。
しかし、ここで注意しておきたいが、人物の生死はひとつの要素でしかない。実際の作品では、ストーリーだけでなく、演技や演出など、多様な要素が関わってくる。誰も死ななくても悪霊ホラーが、全員死亡しても脱出サスペンスが成立しうるだろう。ジャンルの本質とは、読者が作品から読み取る規則なのだ。
Jホラー映画から具体的に示せば、『呪怨』(シリーズ)がホラー、(初代)『リング』がホラーサスペンス、と私は分類している。というのも、『呪怨』シリーズでは伽椰子の呪いから逃げられた例があまり見あたらない。それに対して『リング』では、貞子の呪いから逃がれられるかどうか、というサスペンスが軸になっているからだ。
ジャンルの意義
もちろん、ホラーとホラーサスペンスは隣り合っているから、分類にあいまいなところが残る。分類自体に固執する必要はない。だがそれでも、作者があるジャンルを志向して、読者や視聴者に示すことは重要なのだ。
ふたたび、部屋に閉じこめられる例を使おう。その作品の前半で、暗証番号を入力する金庫、暗号が書かれたノート、工具類などを描写したとする。そうすれば読者は、それらを駆使した謎解き、サスペンスの展開を期待するだろう。
しかし、そうしておいて、後半では謎解きの前に幽霊に殺され、前半の描写がすべてブラフになったとしたらどうか。納得できないという読者が出てくるのではないだろうか。とくに意図がなければ、怪しい物音や人影の幻覚など、ホラーを期待させる描写を最初からしておいたほうが無難だろう。
ジャンルの拘束というのは、作者側にしてみれば、不自由な「かせ」ではある。ホラーなら怖さだとか、ジャンルによって要求が決まっており、それを外すと不評を呼ぶのだから。ただその一方で、制約が工夫を生む面もある。なんでもありの世界では、なにも驚きがない。
人間がテレポートできるSF世界や、空を飛べるファンタジー世界で、人影が瞬間移動したり宙に浮いていたりしても怖くない。それが怖いのは、読者がホラーとして見ているからなのだ*1。
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