一生賃貸の人は老後の家賃をどうする? ← 第三の選択肢、老後購入派がある!
概要
借り家か、持ち家か、は人生を左右する選択肢なので、昔から論争が続いています。借り家派からすると、雇用崩壊でローン返済が破たんするリスクが心配ですが、持ち家派からすると、年金崩壊で老後に家賃を払い続けられなくなるリスクが不安です。
そこで、老後までは賃貸で暮らし貯蓄して、老後からはその貯金で購入した持ち家で暮らす、「老後購入派」*1という選択も有力になるのではないかと思います。この第三の選択肢の可能性を、これから考察していきましょう。
老後購入派とは
冒頭で述べたように、老後までは賃貸で暮らし貯蓄して、老後からはその貯金で購入した持ち家で暮らす。ローン返済のリスクもなく、老後に家賃を払えなくなるリスクもない。それなら、いいとこ取りができるのではないか、という考え方が老後購入派です。
この老後購入派を支える大前提は、賃貸に住みながら貯金できることです。貯金できるように狭くて(駅から)遠い不便な家に住みます。
もちろん、住宅費以外で節約するのでも、収入を増やすのでも、貯金できれば手段は問いません。退職金が出るのなら、それでもかまいません。ここではたんなる分かりやすい例として、住宅の話なので住宅で節約します。
ただし、株などの投資をすると、大きく増える可能性がありますが、一方で元手を失うリスクもあります。余裕資金でやれば少なくとも借金はないので、ローン破たんで家を失い借金を負う*2よりかはまだリスクが低いですが、リスクが嫌いな老後購入派なら、より堅実なたんなる貯蓄でもいいと思います。
そして貯めた貯金を使って、老後を迎えたらキャッシュ一括払いで家を買います。これで、一生ローンを組まずに、老後は家賃なしで住む場所を確保できる、というリスクの低い人生設計が可能になるというわけです。
もちろん、リスクが低いことと引き替えに失うベネフィットもあります。人生前半では、持ち家派のように、内装を自由に変えるメリットは得られません。また人生後半では、いつでも引っ越せる賃貸のメリットも得られません。
しかし、最大幸福より最小不幸を求めるのが、老後購入派の基本方針なのです。ローン地獄とか、ローンが破たんして一家離散とか、住む場所がなくなり老後に放浪、といった大破局のマイナスがすごく大きいので、細かいプラスには目をつぶってもいいだろう、という考え方です。
だから、老後「購入派」という名前ですが、じつは考え方としては購入派より賃貸派のほうに近いと思います。購入派がローンというリスクを取って、土地建物が自分のものになるというリスクプレミアムを求めるのに対して、それを放棄してリスクヘッジするのが賃貸派です。
ただ、賃貸派はローンのリスクはありませんが、老後に家賃を払えるかどうかのリスクはあります。
不動産関連のサイトで、賃貸派と購入派で住宅費の累計を比較したシミュレーションを見てみます。すると、最初は頭金のぶん購入派が損しているスタートになります。30年後くらいのローン返済時で比較すると、だいたい同じになります。50年後までの長期で見ると、購入派が得になります。つまり、前半と後半で逆転する「ウサギとカメ」のグラフになっています。
だから、賃貸派に対しては「一生賃貸の人は老後の家賃をどうする?」という疑問が出てきます。老後は職を見つけるのが難しいでしょうし、年金も崩壊せずにいつまで持つのか不安でしょう。そうすると、一生家賃を払い続けるというのは難しい。
そして、それに答えた第三の選択肢が、老後購入派というわけです。
次は老後購入派のメリットを、箇条書きでかんたんに整理してみましょう。
老後購入派のメリット
- ローンを組まないので破たんリスクがない
- ローンを組まないので非正規雇用でも採用できる
- 老後に家賃を払わず住む場所を確保できる
- 条件によるが後述のリバースモーゲージで老後資金を確保できる
- 立地で通勤を考慮しなくてよい
- 子供部屋などがいらないので広くする必要がない
- 狭いことで固定資産税などのコストも低くなる
- 中古を選んで価格を抑えられる
- 建て替えせずに残り人生を逃げ切れれば得をする
- 逆に言うと死んでから住める期間が残っているのは損
- 買うタイミングを決められる、後出しジャンケンできる
- 購入派のように先買いではないので、賃貸のままという選択肢も残せる
- 購入派の場合、あまり高齢になるとローンを組ませてくれない
- 最初からバリアフリーを考慮して建てられる
- 高齢者住宅や老人ホームを選ぶ選択肢も残せる
老後購入派のメリットばかり並べたので、デメリットもすこし考えてみます。たとえば、一生狭くて不便な住環境というのが挙げられます。人生前半では貯金するために狭い家に住む。後半では、キャッシュで買える範囲で物件を探すため、ローンを組んで買う購入派ほど便利な家にはならないでしょう。
また、結婚して子供ができた場合に賃貸であるため、この時期の家賃は苦しくなります。また子供がいて賃貸だとなにかとガマンすることが多い住環境になることだと思います。
しかし、低リスクと引き替えにしているわけですし、メリットで述べたように、高齢で建てるなら通勤も子供部屋も必要ないはずです。
老後購入派が有利な社会的条件
リバース・モーゲージとは、高齢者が居住する住宅や土地などの不動産を担保として、一括または年金の形で定期的に融資を受け取り、受けた融資は、利用者の死亡、転居、相続などによって契約が終了した時に担保不動産を処分することで元利一括で返済する制度である。
上記引用や引用先でくわしく解説されていますが、「リバースモーゲージ」という金融のシステムがあります。ようするに、家を担保に高齢者へ金を貸し、死んだ時点で担保の家を回収するという仕組みです。とくに子供がいない場合、死んだ後に家が残っていても意味がないので、非常に合理的なシステムだと思います。
金融や不動産の専門ブログではないので、ここでくわしくは述べませんが、一戸建てでない分譲マンションではダメとか、評価額が何千万円以上とか、細かい条件がいろいろあります。これについては、これから普及して利用者が増えてくるにしたがって、条件もしだいに緩和されていくだろう、という見通しだけ示しておきます。
メリットのところで説明しきれなかった、老後購入派が有利な社会的条件として、ほかには人口減少による土地余り現象があります。これからの時代、少子高齢化で人が少なくなっていき、土地が余るのだから、後出しジャンケンできる老後購入派は安く買えるのではないか、という考え方です。
しかし逆に、これが成立しない不利な状況も考えられます。たとえば移民(受け入れ政策)です。人口が増えて土地が余らないとなると、老後に職もなく家もないという、最悪の状況も容易に想定できます。だから、移民は老後購入派の天敵といえます。
ただし注意しておくと、これはあくまでリスクを見落とさないように説明しておくためであって、移民政策に関する是非を読者の方に押しつける意図ではありません。
もうひとつ有利な社会条件として、ネットの普及が挙げられます。これが昔なら、老後に不便なところに住むと、さぞ買い物に困ったことだと思います。今はネット通販がありますし、ネットの娯楽もたくさんあります。
老後購入派に必要な個人的条件
老後購入派に必要な個人的条件があります。それは貯金ができることです。貯金できない人はダメです。あまりに当たり前ではないかと思うかもしれませんが、これが購入派の場合はローンで強制的に取り立ててくれます。
老後購入派は、今を多少犠牲にしてでも未来の自分にマイホームを贈る、という意志の強さが必要になります。パーッと飲んで使ってしまったり、パチンコやらソシャゲやらにつぎ込んだりせず、ガマンして貯金する必要があります。
老後購入派が老後を迎えた時点で、家賃を節約するために貯まっている貯金で家を建てますが、このときの額がそのまま家のグレードになります。たくさん貯まっていれば豪華な家、そこそこ貯まっていれば普通の家、あまり貯まっていなければ不便な家、もしぜんぜん貯まっていなければ、山奥に小屋を建てて住んだり、放浪したりすることになります。
もし、「今年は貯金できなかったな。来年すればいいか」などといっているうちにズルズル老後を迎えてしまっては、絵に描いた餅になります。といっても、たとえば月3万円の貯金を30年続けたら1,080万円、5万で1,800万円、10万で3,600万円なので、立派な家を目指さなければ、そんな極端に重い負担でもないでしょう。
ただ、年金がもらえないと想定した場合、住宅を用意する以外にも生活費を貯めておく必要があることを考えると、かなり重い負担になるかもしれません。また、家を建てれば一生タダかと言えば、固定資産税やリフォームなどの費用が発生します。この負担も考慮して、かなり控えめに建てる必要があります。
そして、これはじつは賃貸派も、老後に家賃を払うためには貯金が必要だろうから、結局同じことです。そして、額面の計算的には同じなのですが、まだ重大な違いがあります。賃貸派の老後の天敵はインフレです。インフレ時に物価と賃金が連動して上昇している場合は問題になりません。しかし、老後は収入がなく貯金で家賃を払う場合、インフレになると家賃が上昇して破たんします。
あるいは、年金などの社会保障が崩壊せず機能するか、生涯現役で働ける仕事を見つけられれば、貯金なしでも大丈夫でしょうが、それに頼りきりなのは不安でしょう。
また、老後購入派は一生狭い家に住み続けるので、整理整頓する力、こまめに物を捨てる力というのが非常に大切になります。何かのコレクションを集めている人には向かないかもしれません。また極端な例ですが、汚屋敷に住んでいる人は住宅リソースを浪費しているのが分かると思います。老後購入派はこじんまりと住みたいので、この逆をやるわけです。購入派のローンのリスクを、老後購入派は物の保管コストとトレードオフしているのです。
さて、最後にまとめると、ローンは組まないが老後に住む場所だけは確保する、という老後購入派の選択は目立った弱点が少ないように見えます。今の時代、雇用崩壊、年金崩壊と、不安な時代なので、地味ではありますが有力な選択だと思います。
付録:老後海外派
老後購入派の派生として、老後海外(在住)派をかんたんに解説します。
老後に海外、とくに物価の安い東南アジアに住むことで、住宅費を含めて支出を減らせます。老後購入派と比較して、食料など生活費全般が安くなるのがメリットです。
デメリットとしては、英語など外国語のマスターが必要なこと、国によって不動産購入や滞在の制限があること、日本人の老人は犯罪者に狙われやすいこと、日本のサービスや文化を享受できないこと、などが挙げられます。
賃貸派がかなり高齢になってから老後購入派に回ろうとすると、貯金が足りなくてキャッシュによる物件購入が成立しない場合というのも出てくると思います。そんな場合、老後海外派は物価が安いことで成立するかもしれません。
購入か賃貸かではなく、国内か海外か、という違いになっていますが、これも老後準備のひとつの選択肢としてはありえると思います。
ただあくまで、これが成立するのは、今の日本が豊かで東南アジアとの経済格差が存在するからです。何十年か先に国際情勢の変化によって、東南アジアのほうが日本よりも豊かになってしまっていては成立しません。
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