映画『SAW(ソウ)』 ――ソリッド・シチュエーション・スリラーの大ヒット作
概要
- 出版社/メーカー: 角川エンタテインメント
- 発売日: 2005/03/11
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情報
SAW(公式情報サイト)
物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
【ストーリー】
【シチュエーション1】 老朽化したバスルームで目覚めた2人の男、ゴードンとアダム。
それぞれ足首に鎖をはめられている。
2人の間には自殺死体。
まったく見当がつかない“状況”に散乱する、テープ・レコーダー、“再生せよ”と書かれたテープ、一発の弾、タバコ2本、着信専用携帯電話、そして2本のノコギリ。
耳障りな秒針の音と共に告げられたのは、「6時間以内に相手を殺すか、2人とも死ぬか」だった。
白く広い浴室につながれた2人。
生きるために相手を殺せ・・・逃げる方法はある。
その【正解】に届いた瞬間、究極の選択を見る!【シチュエーション2】 タップ刑事はいまだ捕まっていない連続殺人鬼“ジグゾウ”を追っていた。
奴の目的は一つ。
命を粗末にしている人間に、その大切さを教えること。
しかし手段は、そのメッセージとは裏腹に、世にも残虐な“ゲーム”の中にターゲットである人間を放り込むのだ。
ジグソウは告げる「生に感謝せず、他人の苦痛を笑う奴らよ、私のゲームに勝て。
そうしたら“違う明日”を与えてやる。
さぁ、生きるために血を流せ」…殺人に直接手を下さないジグソウとは何者か?
そして、捜査上にゴードン医師が容疑者として浮かび上がってくる。
2つのストーリーが巧みに交錯する時、もはや、手も足も出ない。
解説
ソリッド・シチュエーション・スリラーの大ヒット作
「ソリッド・シチュエーション・スリラー」というジャンル*1を、『SAW』とともに代表する作品。グロテスクな描写が多く、日本ではR15指定になっている。
『SAW』シリーズは、『2』〜『6』、および完結編に相当する『ファイナル』まで、7本出ている。長く続いたヒットシリーズだ。CGを駆使したハリウッドの大作と比べれば低予算だが、アイディアで勝利した。
物語の設定は、ふたりの登場人物がバスルームに監禁されるというもの。その主演のひとりには、脚本を書いたリー・ワネルが自ら出演している。顔の知れた大物役者が出るよりも、はじめて見る人物が狭いところに閉じこめられているほうが、かえって疑似ドキュメンタリー的なリアリティが出て良い。
冒頭の10分間は魅力的だ。ソウの世界に引き込まれる。ひとつの部屋でふたりの人物が話すだけ、というシンプルな状況だが、力強いサスペンスを構成している。この部分に大金の掛かるような仕掛けは何もないのに、面白い。それはつまり、脚本が優れているということだ。
そしてまた、結末の10分間が魅力的だ。今までのピースがパチパチとはまって、水が渦を巻いて流れるように物語が収束していく。そして、大きなどんでん返しが用意されている。ハッピーエンドではないが、熱がこもって余韻が残るエンディングだ。
設定をめぐる疑問
そのように最初と最後が良く、すっかり満足したのだが、一方で疑問点も残る。それは3人の主要人物と関係するので、順番に見ていく。
まず、犯人のジグソウから。設定上、銃に空の薬きょうを一発入れておくべきだろう*2。また、テープを巻き戻して、自殺した男へのメッセージを聞く、という場面も欲しかった。
ジグソウは説教殺人犯だが、自らが言わんとすることに反して、自分が最も命を粗末に扱っている。だが、異常犯の心理なのだから、これはこれでいいと思う。関連して、アマンダのゲームは、トラウマを反復した「手術」と見立てられる*3。
つぎに、ゴードン。終盤のゴードンはある重大な決断をくだす。このシーンは説得力が少し弱い。たしかに、ゴードンにとって家族が大事なのは、嘘ではないだろう。だが、浮気のこともあるし、目的地がどこかも分からない。だから、自分を犠牲にしてまで、その行動に出るかと疑問に思った。
これはジグソウと関連するが、足を切らなくて済む選択肢を用意して欲しかった。足を強制的に切られるのは拷問で、足を切らざるを得ない状況は自主的拷問だ。しかし、足を切らなくて済むのに、誤って切ってしまうのが、真の残酷なゲームだろう。体の傷だけではなく、後悔という心の傷が残るからだ。
そして、アダム。アダムの正体について、ジグソウの事件の目撃者や共犯者など、色々と推測が可能だ。しかしここでは、ジグソウと関連して、アダムのゲームについて触れたい。彼のゲームも、鍵が最初に流されてしまうので、やはりたんなる拷問になってしまっている。
自らの落ち度によって罠にはまる*4ほうが、ゲームの完成度が高い。
限定状況の可能性
ストーリーの途中から、バスルーム外部の視点が出てくる。これは説明上しようがない部分もあるが、ジグソウを追うふたりの刑事のシーンは、ややB級感が漂っていた。これは、初代『CUBE』で禁欲していた外部の視点を、『CUBE ZERO』で描いてしまったこととも関連する。
また、(午前)10時の時点で「(午後)6時まで」、つまり約8時間という制限時間が長すぎる。ゴードンは医者なのだし、それだけ余裕があれば、あの秘密に気付かないほうが不自然だ。だから、1〜2時間あればいいと思う。
これらの問題は、閉鎖感の圧力が抜けてしまうところだ。空間、時間、人物などの状況を限定し、限られた中で最大限の可能性を引き出そうとすることが、ソリッド・シチュエーションものの面白さを形成する。
その逆をやると、どうなるか。あちこちに舞台が飛ぶ。ラストに「10年後……」と時間を飛ばす。有名人をカメオ出演させるため、必要のない人物を登場させる。B級映画によくあることだが、たいてい散漫になりがちだ。
ただし、群像劇という手法はある。これは、パニックものであったり歴史物であったり、観客の興味をひきつける壮大な背景を持っていることが、成功する条件になる。そして、壮大な背景を描くには、巨額の予算を必要とする。
だから、『SAW』は『CUBE』より製作費が多いこともあり外部を描けたが、それが必ずしも幸運とは限らない。バスルームに鎖でつながれた状況から、どのように知恵を絞って脱出するかに興味が惹かれたのだが、『CUBE』のような自力で脱出する謎解きが薄い。
また、ジグソウのゲームの設定では、ふたりが殺し合うのが目的だったはずだが、中盤は回想を挟んでわりと穏やかに進行している。相手に殺されるかもしれないと思う機会が、もっと互いに生じるような展開も可能だと思う。
そういうわけで、ソリッド・シチュエーションには、まだまだ描き方の余地があると思う。しかし、それをあれこれ考えるにしろまず、『CUBE』と並んでジャンルを代表する、本作を見ないことには話が始まらないのだ。
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