映画『ひとりかくれんぼ 新劇場版』 ――ネット時代の都市伝説
概要
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物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
ある朝、女子高生・栞(増田有華)は、通学定期をなくしたことに気づく。翌日、栞の通う高校では、降霊術「ひとりかくれんぼ」を誰かがしていたという噂が。
その日、アルバイトのために、母の見舞いに行けなくなる栞。そこで、兄・元也に代わりに行ってもらおうと電話するが、連絡がつかない。
不審に思う栞は、元也が住むアパートを訪ねるが、姿が見あたらない。栞が部屋のパソコンを調べると、「ひとりかくれんぼ」に関するネット掲示板を見つける。
その「ひとりかくれんぼ」について、アルバイト先のマンガ喫茶で調べる栞。そんな栞のもとに、元也の幼なじみ・白石が訪れ、ともに元也を探すと約束した。だが、「河西元也、白石龍二……呪い殺す」と書かれたネット掲示板が見つかる。
そして、栞と白石は奇怪な現象に巻き込まれていくのだった……。
解説
ネット時代の都市伝説
主人公の女子高生・栞を演じるAKB48・増田有華。彼女が本作の華になっているだけでなく、演技も申し分ない。彼女は演技力も歌唱力*1も新人離れしている。
ホラーだから演技に感情の機微は求められず、ひたすら怖がればいいというのはある。しかし、演技で気になったのは、むしろ脇役のほうだった。アイドル映画だと、主演の演技力のなさを脇役が脇を固めてカバーするということはよくある。が、本作は逆で、増田有華におんぶにだっこである。
演出はしっかりしている。少なくとも、アイドル映画だからホラー面はグダグダ、ということはなかった。とくに冒頭は、緊張感があって優れた導入だと思う。また、飛び降りのシーンは、妙な迫力があった。画面の端で落ちる構図は、予測できない事件が突然起きた、という印象を与える。
それは、Jホラーの核である、実話怪談や疑似ドキュメンタリーから来た手法だろう。心霊写真において、霊は端に映っている。事件映像では、犯人や被害者は端に映っている。つまり、カメラの視点から予測できないと感じると、映像の衝撃性が増す。
ただ、全体的に暗い感じなので、明るいシーンを入れて、緩急をつけてもよかった。生と死や日常と非日常の落差を出すためにも、アイドル映画としての価値を出すためにも、主人公の栞が笑顔でいるシーンが、少しくらいあってもいいと思う。
「ひとりかくれんぼ」というのは、「現代のコックリさん」と呼ばれる新しい都市伝説だ。近年、ネットで流行しているということで、作中にも掲示板が登場していた。ネットやケータイはJホラーによく出てくる。科学文明の利器だからそぐわない気もするが、通信相手の匿名性はホラーにとって利点である。
しかし、タイトルにもあるこの「ひとりかくれんぼ」が、冒頭のシーンに出てくるくらいなので、もっと中心にすえて欲しかった。途中から、白い服に黒い髪の幽霊が追って来る話になっている。これだと、貞子や伽椰子など他のJホラーの幽霊と、ビジュアルで差をつけにくい。
いや、降霊術という設定だから、そういう展開でも辻褄は合っているかもしれない。だが、登場人物が「ひとりかくれんぼ」をして、発生した怪奇現象から逃げたり隠れたりする、という筋書きを期待していた。
これが回を重ねているなら、マンネリを避けるのも分かるが、まだ『新劇場版』というタイトルなのだから、「ひとりかくれんぼ」に焦点を絞って欲しかった。映画は尺が決まっているので、脚本でいかに話の要点を絞り込むかが重要になる。
逆に言うと、この設定はまだ絞り尽くされていない。「人形」「かくれんぼ」というモチーフも、素朴なようで意外と新鮮だった。まだまだ見せ方の余地はあると思うので、今後の続編にも期待しよう。
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ほんとうにあった怖い話 第十三夜 ひとりかくれんぼ [DVD]
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映画『オトシモノ』 ――Jホラーのトンネルを走り抜ける暴走列車
概要
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物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
ある日、木村奈々(沢尻エリカ)の妹・範子が、落とし物の定期券を駅の事務所に届けた。そして、行方不明の友達を見かけた、と姉の携帯にメッセージを残して、消息を絶つ。
奈々のクラスメイト・藤田香苗(若槻千夏)は、恋人からプレゼントされたブレスレットが、手首から外れずに困っていた。じつは、その腕輪は、恋人が拾った落とし物だった。
電車の運転士・久我俊一(小栗旬)は、水無駅トンネルで人影を発見。電車を緊急停止させ、確認しようとしたが、人影はこつぜんと消えてしまった。そのようなことが何回か続き、俊一は運転業務から外され、落とし物の管理業務へと回される。
やがて、奈々、香苗、俊一の3人は知り合い、謎に迫っていく。そして、駅で行方不明になった者たちが、みな青沼八重子という女性の定期券を拾っていた、という事実に突き当たるが……。
解説
幽霊、行方不明、オトシモノ
本作の幽霊は、「オトシモノ」、つまり公的空間から脱落したものの象徴となっている。そもそも、行方不明者というのはある意味で、人間の「オトシモノ」である。
それに、元運転士・俊一と、管理室の先輩・川村(板尾創路)は、幽霊に対して見て見ぬ振りができずに、落とし物の管理業務という閑職に回された。そして、奈々と香苗は、まわりから置いていかれる、という疎外感を語る。これも「オトシモノ」になる恐怖だ。
また、設定には、「深川」「水無」「青沼」といったように、「水」に関係する単語が使われている。たしかに日本のホラーは水と縁が深い*1。だが、もし意味があるのなら、言葉だけでは物足りない。映画なのだから、川や海、雲や雨、あるいは洗面所や浴室など、水のイメージがもっと画面に欲しい。
とくに、人間の生死を表現する水である「血」は、強いイメージ力を持つ。だが、腕を切っても血が全く出ないなど、不自然なまでに血を見せない。ただ、これには、規制か興行上の問題があるかもしれない。
本作は画面構成に凝っている。冒頭にあるトンネルを抜ける電車視点のショット、香苗の恋人が電車にひかれるスローのショットなど、怖いだけでなく、視覚的な快楽を追求している。こうした耽美的ショットは、黒沢清の影響を受けたものだろう。
物語面でも、快さを優先している。女性同士の友情を描いたこと自体は、ホラーというより青春物のテイストだが、これには興行面の事情があるかもしれない。せっかく沢尻エリカと若槻千夏が共演しているし、青春物のカラーを出そうという発想も理解できる。
それに、物語面の視点でみると、「オトシモノ」になりそうな奈々が、なぜ助かったかと言えば、それは脱落者同士で団結したからだ。「捨てる神あれば、拾う神あり」といった感じで、上記の疎外感をフォローして、視聴後の後味が良くなっている。これはこれでアリだろう。
Jホラーのトンネルを走り抜ける暴走列車
全体的に、わりとテンポよく進行するが、謎が回収されないまま進んでいく。たとえば、川村が話しかけたトンネルの謎がまるまる残った。
最後に「見た」というだけでは、決着がついていない気がする。対立が解決しないため、俊一の存在感も薄くなっている。ただ、説明しないほうが怖くなるとか、次回作のために謎を残す、といった思惑もあるかもしれない。
ただ、劇場ではまず見逃すだろうが、推測を可能にする伏線も入っていた。たとえば、青沼八重子が落とした定期券には、昭和44年、31歳とある。したがって、彼女は昭和13年生まれ。物語における現在が2006年だとすると、その子供が生きていれば37歳。そこからある人物の正体が推測できる。
物語は中盤まで、Jホラー的演出が続く。すなわち、実話怪談や心霊現象ものの枠組を利用した演出をほどこしている。具体的には、ビデオに霊が映ったり、写真の顔に影が落ちたりする。無関係な人々が呪いの連鎖に巻き込まれる、という話の大筋も、Jホラーではおなじみだろう。
だが、終盤の展開は、Jホラーを大きく逸脱している。終盤で突如、大風呂敷が広がる。これには意表を突かれた*2。その終盤の設定は、クトゥルフ的な世界観を思わせるが、公式では鬼子母神という設定らしい。
日本のホラー映画において、駅という舞台はわりと珍しいが、終盤の設定も珍しい。Jホラーというトンネルを、暴走列車で突き抜けた一作だった。
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映画『劇場版 怪談 新耳袋』 ――実話を元にした短編怪談集
物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
- 夜警の報告書
- とある解体中の廃ビル。そこを担当した警備員たちが、次々に辞めていく。そのことに業を煮やした上司は、とうとう自ら警備にあたることに……。
- 残煙
- OL三人組は、宴会を抜け出して、ドライブに行く。だが、山道で迷ってしまう。車を降りて休憩すると、三人は何かを感じ……。
- 手袋
- OLが仕事から帰ってくると、昔同棲していた彼氏がアパートで待っていた。彼は一晩泊まって帰っていく。しかし、その夜から、手袋で首を絞められる……。
- 重いッ!
- 子どもと布団を並べて寝ていた母親の上に、謎の男がのしかかる。男は一時は退散したものの、ふたたび現れ、母親を押さえつける。母親は必死で消えろと念じるが……。
- 姿見
- 卒業間近の学生二人が、体育館でバスケットボールをして遊ぶ。ふと、はずみでボールが転がっていく。そのボールを取りに行った倉庫には、不審な噂のあった姿見が置いてあり……。
- 視線
- 由加里は、学校の課題のため、自分の将来を語るビデオを撮影していた。ビデオを再生すると、そこに霊らしき影を発見。クラスメートに乗せられて、学園祭で上映することになるが……。
- 約束
- 叔父の出張の間、マンションの留守を任された青年。叔父から言いつけられた約束は、名前を呼ばれたら必ず返事をすること。そして留守番中に、「かずのりさん」と呼ぶ女性の声が……。
- ヒサオ
- 母親は息子のヒサオに話しかけるが、彼は反応しない。話しているうちに母親は、ヒサオをいじめていた2人の男子生徒のことを思い出し……。
解説
実話を元にした短編怪談集
全8編のオムニバス形式。原作となったのは、実話怪談集『新耳袋』。この『新耳袋』は取材した実話をもとに書かれている。ちなみに、「耳袋」というのは、江戸時代の旗本・南町奉行の根岸鎮衛が書き記した随筆「耳嚢(みみぶくろ)」から取ったもの。
その原作者の木原浩勝と中山市朗が、『怪談の学校』という書籍でも語っているのだが、解釈を見る側にゆだねるのが「怪談」というジャンルなのだという。すなわち、オカルトや妖怪物と異なり、怪奇現象すなわち「怪」の提示が主眼になる。
つまり、たんに人が消えるとか、声が聞こえるといった現象を語ったのが怪談。それに霊や妖怪の仕業である、という解釈を加えるとオカルトや妖怪物になる。そして、「怪」に襲われる場面を中心にすると、ホラーになるというのだ。
怪談を名乗った本作では、その前者を重視している。怪奇現象の原因があまり説明されないところはたしかに特徴的だ。視聴者が想像する余地を残しており、想像力のある人は解釈を楽しめる。
ただ、単純な怖さで言うと、そうは言ってもやはり、ホラーの襲われる恐怖というのは大きいし、サスペンスの軸が全体を通っていると求心力がある。『リング』がヒットしたのは、その両方の理由があるからだろう。
だが、本作の原作も映像化シリーズも長く続いている。それは、怪談に根強い支持があるからだろう。そして、なるべく説明しないというスタイルは、実話怪談の手法を踏襲しているJホラーにも当てはまるところがある。
さて本編だが、短編のオムニバスということで、各話へのコメントも短くつけていく。
全体を見て、最も完成度が高いと思ったのは「視線」。主演の堀北真希も良い。最もアイディアが面白いと思ったのは「約束」。「視線」と「約束」をもとに作られた長編を見てみたい気がする。
- 「夜警の報告書」
- 皆が辞めていく中ひとりだけ残っている、ひょうひょうとした警備員を描いたホラーコメディ。
- 「残煙」
- 怪奇現象の背景が全く分からず、謎めいている。さらにもし、3人とも消えていれば、残された者の想像になる*1。
- 「手袋」
- 首を絞められるだけならよくある怪談が、なぜ手袋をはめているのか、という謎解きがある。
- 「重いッ!」
- 意図的なのか、夜中に襲われてうなされるタイプの話が2回続いたので、既視感を覚えた。
- 「姿見」
- 「視線」
- 短いながらも、本格的な物語を展開。『リング』や『呪怨』にもあったが、映像を使った演出は怖い。
- 「約束」
- 「ヒサオ」
- 社会的題材を扱ったヒューマンドラマ。やや重苦しいが、熱と情感がこもった話で、全体を締めくくった*2。
関連作品
- 作者: 木原浩勝,中山市朗
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映画『仄暗い水の底から』 ――水が叙情的に描くウェットな恐怖
概要
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紹介
『リング』で日本中を世紀末ホラー・ブームへ巻き込ませた中田秀夫監督が、再び鈴木光司・原作に挑戦したホラー作品。夫と別居し幼い娘と一緒に古びたマンションに引っ越して来た淑美(黒木瞳)。しかし、まもなくして恐るべき怪奇現象の数々が、じわじわと母子に襲いかかっていく…。
単に恐がらせるだけの作品ではなく、子を護ろうとする母親の心情に焦点を当てたエンタテインメントに仕上がっており、ドラマが進行するにつれて恐怖度が増していくのはもちろんだが、比例してヒロインのせつなさや哀しみも増幅していく。黒木のきゃしゃな体躯(たいく)が、さらにか細くもたくましい母の存在感を際立たせてくれている。全編、水を意識させた中田演出も『リング』より一段とゆとりを感じさせてくれる。(的田也寸志)
物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
松原淑美は、夫・浜田邦夫と離婚調停中で、5歳のひとり娘・郁子の親権をめぐって争っていた。
彼女と娘が入居したマンションでは、雨漏りにはじまり、水道に髪の毛が混入していたり、子供用のバッグが落ちていたりと、奇妙な現象が起こる。さらに、姿の見えない友達と会話するなど、郁子に奇行が見られた。
郁子と同じ幼稚園に通っていた女子児童・河合美津子は、2年前に行方不明となっている。そのことを知った淑美は、淋しがっている彼女の霊が、郁子を連れ去ろうとしているのではないかと疑う。
そしてついに、美津子がふたりの前に姿を現して……。
解説
水が叙情的に描くウェットな恐怖
「水」のモチーフは、日本ホラーになじみ深い。その理由を一言でいえば、雨が多く海に囲まれた日本の風土に合っているからだろう。水自体だけでなく、水に関係した場所もよく出てくる。たとえば、江戸時代の『番町皿屋敷』にしろ、平成の『リング』にしろ、井戸が怪異の場所となっている。
水は叙情性を持ったモチーフなので、日本ホラーのウェットな恐怖の表現にふさわしい。じっさい、タイトルに「水」を含んだ本作では、水を用いた演出がひんぱんに登場する。冒頭から降っている雨も、離婚という家庭の不和と、家族の心境の隠喩となっているだろう。
ここで、人間関係の不和を重苦しく描くのもホラーの手法だ。淑美の情緒不安定な振る舞いもホラーならでは。もしこれが「肝っ玉母さん」では全く怖くない。そして、本作の場合も、離婚という状況設定が、有効に機能していた。まず、別居することで、怪奇現象の舞台へスムーズに移れる。
『呪怨』の一軒家と異なり、こちらは集合住宅が舞台だ。集合住宅には隣人への不安が潜んでいて、雨漏りを通じてそれを描いている。また、屋上やエレベータという閉鎖空間を効果的に活用している。
つぎに、夫と別れて、女子供しかいなくなるのも不安を煽る。そして、その心細さや寂しさに共感する形で、幽霊が訪れるのだ。別の視点で言うと、本作における幽霊というのは、不和や孤独といったものの象徴となっている。
このことを分かりやすくするために、思考実験をしてみよう。もし、作中で幽霊の非存在が証明されていたら*1、どうだろうか。
幽霊のように見えるのは幻覚だ、と観客は思うだろう。そして、離婚して環境が一変したことで、娘の孤独感や母親の不安感が、幽霊という形を取って現れている、といったように受け取るだろう。
ところが、本編では実際に幽霊が現れているために、ホラー表現に興味が引きつけられて、心理表現としての幽霊が見えにくくなっているのだ。もちろん、見えにくいのまで含めて、意図的な演出だろう。要は、怖いだけで終わらせないための隠し味なのである。
さらにここで、たんに幽霊が出るだけでなく、水を伴って出現するところが、本作の特徴だ。水の叙情性を用いて、親子の絆と、それが失われることへの不安を巧みに描いた。たとえば中盤、雨の降る屋上や水浸しの部屋を探す場面は、淑美の娘への思いの強さを表していて、感情移入させるシーンだ。
終盤の風呂桶に濁った水が溜まるシーンは、ただ水が溜まって手が出てくるだけなのに怖い。これは、アイディアの勝利であり、ホラーの真骨頂だと感心した。CGを使えばいくらでも、もっと「凄い」映像を作れるだろうが、もっと怖くなるとは限らない。最後のエレベータから水があふれるシーンは、やはり『シャイニング』のオマージュだろう。
本作は、水を中心にして、気配を感じる部分の演出が優れている。そのいっぽう、『リング』同様に映像を利用して、無機質の怖さも描いている。マンションの管理人室で映る、エレベータの監視カメラの映像を使って、恐怖を醸し出した。心霊映像はJホラーの十八番だ。
親子愛は家族の枠を超えられるか
「リングのコンビが贈る魂を揺さぶるグランド・ホラー」「ずっとずっといっしょだよママ」*2というコピーが示すように、本作は親子愛を絡めた展開になっている。母親を演じた黒木瞳も子役も好演していて、母娘らしさが自然に感じられた。
だが、結末での淑美の選択だけは、違和感を覚えた。なぜそうなるかといえば、まずもって家族という基準は根強い。それに、制作側にしても、結末に至るまで、もっぱら家庭内の娘への愛情を軸に、淑美の行動を描いている。
それに、美津子側にしても、真実を受け入れていない。その選択で良いのだろうか、と思ってしまう。これがたとえば、美津子も淑美の亡くした娘、という設定なら受け入れられたと思う。
もちろん、淑美の嘘は、美津子から郁子を守るための方便なのだろう。ただ、主人公が真実を提示して終わるほうが、観客としては納得しやすい。本編の締めくくり方は、予想を裏切る意外さはあるが、アナザー・エンディング*3のような感覚を受けた。
もっとも、ただ違和感によって拒否するだけではなく、観客への「問いかけ」という捉え方もできよう。娘を守るために、娘との別れを受け入れた、淑美の選択をどう思うか、というような。
さらに言えば、同じ監督の『リング2』でも、トラックにはねられた母親の前でうずくまる少年を、高野舞が抱き締めるシーンがあった。他人の子供へ親子愛を注ぐ、というモチーフは、無差別に呪いが連鎖するというモチーフの裏返しになっている。
ただ、その場面はそれほど印象が強くなかった。ジャンルがホラーなので、後者のモチーフが圧倒的に説得力を持っていて、前者は埋もれてしまう。
ホラージャンルにおいて、家族を超えた親子愛を成立させるのは難しい。それは、親子=家の外部を描くことと、恐怖=ジャンルの外部を描くことの、二重の困難を抱えているからである。
関連作品
- 作者: 鈴木光司
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- 作者: 角川書店
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- 作者: MEIMU,鈴木光司
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映画『死国』 ――人間と幽霊の三角関係ホラーロマンス
概要
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物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
明神比奈子(夏川結衣)は、久々に故郷の高知県・矢狗村まで帰省した。そこで彼女は、幼なじみの日浦莎代里(栗山千明)が16歳のとき亡くなったことを、級友に伝えられて驚く。
その後、比奈子は、もうひとりの幼なじみ・秋沢文也(筒井道隆)と再会した。そして、彼から莎代里の死にまつわる不穏な噂を聞く。それは、彼女の死は事故死ではなく、降霊の儀式中、悪霊に殺されたというものだ。日浦家は死霊を口寄せする家柄で、莎代里はその依童だった。
莎代里と交際していた文也の心には、いまだに彼女の死が影を落としていた。彼を案じて気づかう比奈子だったが、彼に対してしだいに淡い恋心を抱く。そうして、ふたりの心の距離は縮まっていった。
だが、そんなある日、村の聖地・神の谷に祀られていた地蔵の首がもがれてしまう。その事件を境に、次々と奇怪な現象が村で起こるようになった。
その原因は、莎代里の母・照子によるものだった。彼女は、日浦の血を絶やさないために、「逆打ち」の儀式で、莎代里を蘇生させようとしていたのだ。「逆打ち」とは、四国にある八十八ヶ所の札所を、死者の歳と同じだけ逆に巡るというもの。
もし、黄泉の国への結界が破られれば、四国は「死国」と化し、死者は蘇る。そして、照子の逆打ちは、ついに終わろうとしていた……。
解説
人間と幽霊の三角関係ホラーロマンス
「四国」は「死国」で、四国の霊場を逆に回ると死人が生き返る、という単純な発想に驚く。が、映画を見ている最中、そこは全く気にならない。むしろ、郷愁を誘う四国の情景描写によって、題名にもある「死国」の雰囲気づくりに成功していると感じた。
映画の説得力は映像力だとよく分かる。言葉の力より、映像の力で説得するのが映画なのだ。本作の場合、疑似ドキュメンタリータッチの手法が少し入っていて、それが説得力を持たせている。たとえば、逆打ちする莎代里の母・照子の映像がそうだ。序盤のカメラワークに揺れが多いのも、手持ちカメラでリアリティを出す演出なのだろう*1。
『リング 0(ゼロ) バースデイ』もそうだったが、本作はロマンス色が強い。莎代里(栗山千明)が魅力的なので、その選択は悪くない。幽霊という設定はファンタジーだが、それさえ納得させてしまえば、恋愛に一途であることも合わせて納得させられる。
ホラーロマンスはプラトニックな恋愛を描きやすい。なにせ幽霊なのだから、ある意味では、究極の遠距離恋愛だ。「もっといい男(女)がいるのでは」だとか、現実的な事情を観客にあれこれ考えさせない。そして、幽霊にすることでヒロインの神秘性は増す。
だが欲を言えば、ホラーロマンスとして見た場合、心理描写にもっと尺を割いて欲しかった。比奈子と莎代里の友情は、親友の証言によって早い段階で否定されるから、そのぶん注目が集まる恋愛劇に説得力が欲しい。それに、本作は比奈子の視点で語られるため、文也の揺れ動く気持ちが理解できないと、彼の終盤に取る行動が唐突に思えてしまう。
いっぽう、文也にとっては、対等な恋人の選択ではない。人間と幽霊、生と死、未来と過去、といった重大な選択になっている。シェークスピア『ハムレット』の「生きるべきか、死ぬべきか」のように、選択と葛藤はドラマになる部分だから、スポットライトを当てないのはもったいない。
莎代里(栗山千明)の幽霊は良い感じだ。大げさな演出はとくにないが、幽霊という設定に不自然さを感じない。つまり、自然体の幽霊なのだ。そして、物語における幽霊は、必ず何らかの過去を背負う。本作でも生への未練を訴えっており、台詞の少なさにもかかわらず、彼女が一番存在感があった。これは幽霊の見せ方として成功している。
ただ、背骨折りのシーンは即物的で、そこだけ妙に浮いていた。これには、故意でなく過失による殺害だ、という意味があるのかもしれないが、2回繰り返すのも不自然だ。失神(心臓マヒ)のほうが無難だろう。
莎代里を演じる栗山千明は、この作品と同年に公開された『呪怨』(ビデオ版)に出演した後、『バトル・ロワイアル』『キル・ビル』といった作品にも参加し、ブレイクを果たした。この映画における栗山千明の存在感は大きい。まだ映画出演の経験が少ない時期なのに、ずいぶん新人離れしている。
関連作品
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*1:物語が静かに展開しているので、落ち着いて見せるのもアリだと思うが
映画『犬神の悪霊』 ――玩具箱のようなカルト・オカルト映画
概要
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物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
ウラン技師・加納竜次(大和田伸也)は、同僚の安井、西岡とともに、ウラン鉱探査のため、地方の寒村までやって来た。その際、一行を乗せた自動車が、道ばたのほこらを壊し、犬をひいてしまった。
その道中の川べりで、裸で水浴びしていた村の娘・剣持麗子(泉じゅん)と垂水かおり(山内恵美子)を、一行が見つける。そうして知り合ってから一年後、竜次は麗子と結婚。
だが、東京の被露宴会場で、西岡が錯乱する。その後、彼はビルの屋上から落下して死亡。さらに西岡の葬儀の日、安井が多数の野犬に襲われ死亡した。
ふたつの事件を怪しんだ麗子は、ほこらを壊した件を竜次から聞いた。そして、それが犬神の悪霊の仕業だと勘づくと、彼女は御守りを竜次に渡した。さらに、「犬神筋」である垂水家の娘・かおりからの手紙に、釘を打ち付け呪った。
だが、犬神の悪霊をめぐる悪夢のような事件はそれだけで終わらず、竜次はさらに深く巻き込まれていく。ついに、愛妻の麗子にも異変が起こり……。
解説
玩具箱のようなカルト・オカルト映画
少し昔の映画も取り上げておこう。本作は1977年公開だが、最近までDVD化されず、カルト・ムービー的な位置付けにあった。『エクソシスト』『オーメン』など、70年代当時のオカルト映画の流行を受けて、東映が公開した作品。ちなみに、前年に東宝から『犬神家の一族』が公開されているが、本作の内容とは関係ない。
この映画は、まるで玩具箱をひっくり返したようだ。悪霊というホラー要素、動物によるパニック、犬神筋にまつわる地方の差別問題、原子力開発に伴う環境汚染、横溝正史的な旧家の秘密、などと色々な要素が詰め込まれている。
そのように詰めこみ過ぎた結果、問題が解決しないまま次に進んで、焦点が絞り切れていない印象もある。しかし、次から次へとテンポよく事件が起きるので、最後まで全く飽きずに見られた。
カットされた部分もあって、つながりが分かりにくい場面も多少ある。が、全体的に明快な話だ。そして、サービス精神旺盛で、娯楽性に富んでいる。それは、主人公が変に感傷的にならず、つねに行動的だという点が大きいだろう。
見せ場も多い。いきなり裸で川に登場する麗子とかおり。麗子の身体に赤飯をなすりつけるエロティックな除霊儀式。坑道で踊り狂う殺人ドリル。かおりが悲しみを振り払うために踊るゴーゴー。憑依された少女の肩車アクション。そして、問題のラストシーン。
本作は古い作品だが、いま見たほうが、アナクロな演出と、強引なくらい力強い展開を楽しめる。ユーザの嗜好やマーケティングなどにスポイルされるため、そのような昭和的ダイナミズムを、今の時代に再現するのは難しい。いま見ているから時代錯誤というだけでなく、当時の時点からすでに錯誤していたからこそ、実現した力強さかもしれない。
ホラーとして本作を見たとき、Jホラーブームを経た現在見ると、もはや素直に怖がれなくなっている。ただ、逆の視点で見ると、リアルな恐怖を描くために、Jホラーがどのような演出を取り入れたのかよく分かる。時代を経ているため、同時代のものより、かえって差が目立ちやすい。だから取り上げたのだ。
関連作品
- 作者: 横溝正史
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映画『呪怨 黒い少女』 ――人と霊との戦い
概要
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情報
紹介
伝説の恐怖ふたたび! あの「呪怨」が、さらに恐ろしさを増して復活!!
口コミで「とにかく怖い…!」「一生のトラウマになった!」と、その問答無用の恐怖描写で評判になり、今や伝説と化したビデオ版「呪怨」。その製作から10周年となる今年、「呪怨」の生みの親である清水崇×一瀬隆重の手によって、原点の恐怖に回帰した新たな「呪怨」が誕生した!両氏の“呪い”を受け継いだ2本の映画「呪怨 白い老女」「呪怨 黒い少女」がそれだ。10年もの間、日本のみならず全世界の人々に“未だかつて経験したことのないケタ違いの恐怖”を体感させてきたホラー映画の最高傑作「呪怨」が、さらに恐ろしさを増して復活した。
2009年、「呪怨」がふたたび伝説の恐怖を蘇らせ、新たなる戦慄を呼び起こす・・・・・!!
物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
産まれてくることのできなかった者の怨み――。それは想像を絶する“怒り”となって人々を呪い殺す・・・。看護師の裕子(加護亜依)は、芙季絵という少女の担当を任されてから、奇妙な体験をするようになる。検査の結果、芙季絵の体内に「嚢腫」が発見される。生まれてくることのできなかった者の怨みが少女を蝕み、やがて周囲の人々を呪っていく。裕子の隣人は黒い少女によって捉えられ、芙季絵の父は殺人を犯し、狂っていく。芙季絵の母・季和子は霊力を持つ妹・真理子にすがり、除霊は成功したかに思えた。しかし、それは最悪の「呪怨」の始まりだった……。
解説
人と霊との戦い
シリーズの「呪い続けて10周年」を記念して、『呪怨 白い老女』と同時上映された。俊雄はカメオ出演するが、伽椰子は登場しない、外伝的な位置付けの作品。
ちなみに、「黒い少女」というキャラクターの元ネタは、『怪談新耳袋 ふたりぼっち編』「ふたりぼっち」から。この時点ですでに、奇声を発する幼女というモチーフが登場している。この話の監督も、本作と同じ安里麻里。
注目の出演者は、元「モーニング娘。」の加護亜依。看護士の裕子を演じたが、自然体の演技で違和感がない。彼女はこれが映画初出演というわけではないが、映画女優として活躍する可能性を感じた。
ストーリーを見ると、今までのシリーズになかった「人と霊との戦い」という、サイキック・スリラー的要素を持たせている。霊に対抗できる霊能者が出ると、話の前提が覆ってしまう危うさはあるが、終盤の除霊シーンは盛り上がった。
芙季絵が倒れてけいれんする冒頭の無音シーンや、芙季絵が奇声をあげるシーンには、やはり女性的な感覚が見られる。どのあたりが女性的なのかといえば、まず何が起こっているのか分からず、「状況を想像する恐怖」を描いたところ。
これは、本シリーズにあまり見られなかった表現だ。逆に言うと、「伽椰子がとつぜん出現する」というパターンは、一目で分かりやすいとも言える。
また、「真実を言葉で伝えられない」という恐怖は、『白』で連呼される「すぐ行きます」のように、「言葉が真実になってしまう」*1という男性的な恐怖とは対照的。
ストーリー中、壁の音のシーンは怖いが、前作『呪怨 2』にも同じモチーフがあったので、もうひとひねり欲しかった。いっぽう、『ブラックジャック』にも出てくる「奇形嚢腫」の話は、寄生やボディスナッチの恐怖を描く。
ただ、「転生」というよく似たモチーフが『呪怨 2』にもあったので、方向性の違いを明確化して欲しい。たとえば、伽椰子は赤の他人だが、こちらは親族だという点に着目し、たんに憎しみだけでなく愛憎を描くとか。
もっと具体的に言うと、水子霊が芙季絵、もしくは季和子に愛情を寄せているが、何かのきっかけで反転して、一気に憎悪に変わるだとか。相対的に『白い老女』よりも、精神的な恐怖を描いているので、そのように心理を描写する手はあると思う。
画面構成を見ると、倒れた芙季絵の上目遣いのクローズアップが、鮮烈で非常に良いショットだ。構図を工夫しただけで、CGや特撮よりも印象に残り、かつ、それらを使わないことで、嘘くささを感じさせない。
シリーズ初の女性監督ということで、「白い老女」以上に新鮮な印象がある。シリーズに新風を吹き込んだ。
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*1:まあ、『黒』にも、「女を殺す」という予言があるが