映画『死国』 ――人間と幽霊の三角関係ホラーロマンス
概要
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2000/08/11
- メディア: DVD
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物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
明神比奈子(夏川結衣)は、久々に故郷の高知県・矢狗村まで帰省した。そこで彼女は、幼なじみの日浦莎代里(栗山千明)が16歳のとき亡くなったことを、級友に伝えられて驚く。
その後、比奈子は、もうひとりの幼なじみ・秋沢文也(筒井道隆)と再会した。そして、彼から莎代里の死にまつわる不穏な噂を聞く。それは、彼女の死は事故死ではなく、降霊の儀式中、悪霊に殺されたというものだ。日浦家は死霊を口寄せする家柄で、莎代里はその依童だった。
莎代里と交際していた文也の心には、いまだに彼女の死が影を落としていた。彼を案じて気づかう比奈子だったが、彼に対してしだいに淡い恋心を抱く。そうして、ふたりの心の距離は縮まっていった。
だが、そんなある日、村の聖地・神の谷に祀られていた地蔵の首がもがれてしまう。その事件を境に、次々と奇怪な現象が村で起こるようになった。
その原因は、莎代里の母・照子によるものだった。彼女は、日浦の血を絶やさないために、「逆打ち」の儀式で、莎代里を蘇生させようとしていたのだ。「逆打ち」とは、四国にある八十八ヶ所の札所を、死者の歳と同じだけ逆に巡るというもの。
もし、黄泉の国への結界が破られれば、四国は「死国」と化し、死者は蘇る。そして、照子の逆打ちは、ついに終わろうとしていた……。
解説
人間と幽霊の三角関係ホラーロマンス
「四国」は「死国」で、四国の霊場を逆に回ると死人が生き返る、という単純な発想に驚く。が、映画を見ている最中、そこは全く気にならない。むしろ、郷愁を誘う四国の情景描写によって、題名にもある「死国」の雰囲気づくりに成功していると感じた。
映画の説得力は映像力だとよく分かる。言葉の力より、映像の力で説得するのが映画なのだ。本作の場合、疑似ドキュメンタリータッチの手法が少し入っていて、それが説得力を持たせている。たとえば、逆打ちする莎代里の母・照子の映像がそうだ。序盤のカメラワークに揺れが多いのも、手持ちカメラでリアリティを出す演出なのだろう*1。
『リング 0(ゼロ) バースデイ』もそうだったが、本作はロマンス色が強い。莎代里(栗山千明)が魅力的なので、その選択は悪くない。幽霊という設定はファンタジーだが、それさえ納得させてしまえば、恋愛に一途であることも合わせて納得させられる。
ホラーロマンスはプラトニックな恋愛を描きやすい。なにせ幽霊なのだから、ある意味では、究極の遠距離恋愛だ。「もっといい男(女)がいるのでは」だとか、現実的な事情を観客にあれこれ考えさせない。そして、幽霊にすることでヒロインの神秘性は増す。
だが欲を言えば、ホラーロマンスとして見た場合、心理描写にもっと尺を割いて欲しかった。比奈子と莎代里の友情は、親友の証言によって早い段階で否定されるから、そのぶん注目が集まる恋愛劇に説得力が欲しい。それに、本作は比奈子の視点で語られるため、文也の揺れ動く気持ちが理解できないと、彼の終盤に取る行動が唐突に思えてしまう。
いっぽう、文也にとっては、対等な恋人の選択ではない。人間と幽霊、生と死、未来と過去、といった重大な選択になっている。シェークスピア『ハムレット』の「生きるべきか、死ぬべきか」のように、選択と葛藤はドラマになる部分だから、スポットライトを当てないのはもったいない。
莎代里(栗山千明)の幽霊は良い感じだ。大げさな演出はとくにないが、幽霊という設定に不自然さを感じない。つまり、自然体の幽霊なのだ。そして、物語における幽霊は、必ず何らかの過去を背負う。本作でも生への未練を訴えっており、台詞の少なさにもかかわらず、彼女が一番存在感があった。これは幽霊の見せ方として成功している。
ただ、背骨折りのシーンは即物的で、そこだけ妙に浮いていた。これには、故意でなく過失による殺害だ、という意味があるのかもしれないが、2回繰り返すのも不自然だ。失神(心臓マヒ)のほうが無難だろう。
莎代里を演じる栗山千明は、この作品と同年に公開された『呪怨』(ビデオ版)に出演した後、『バトル・ロワイアル』『キル・ビル』といった作品にも参加し、ブレイクを果たした。この映画における栗山千明の存在感は大きい。まだ映画出演の経験が少ない時期なのに、ずいぶん新人離れしている。
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*1:物語が静かに展開しているので、落ち着いて見せるのもアリだと思うが