映画『劇場版 怪談 新耳袋』 ――実話を元にした短編怪談集

概要

怪談新耳袋 劇場版 [DVD]

怪談新耳袋 劇場版 [DVD]

情報

怪談 新耳袋 公式サイト

紹介

ベストセラー実話怪談集を原作にした人気TVシリーズ怪談新耳袋」の劇場版。竹中直人主演、「かまいたちの夜」の吉田秋生監督による、深夜のビルで夜警たちを襲う恐怖を描いた『夜警の報告書』他、全8作品を収録したオムニバスホラーストーリー。

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

  • 夜警の報告書
    • とある解体中の廃ビル。そこを担当した警備員たちが、次々に辞めていく。そのことに業を煮やした上司は、とうとう自ら警備にあたることに……。
  • 残煙
    • OL三人組は、宴会を抜け出して、ドライブに行く。だが、山道で迷ってしまう。車を降りて休憩すると、三人は何かを感じ……。
  • 手袋
    • OLが仕事から帰ってくると、昔同棲していた彼氏がアパートで待っていた。彼は一晩泊まって帰っていく。しかし、その夜から、手袋で首を絞められる……。
  • 重いッ!
    • 子どもと布団を並べて寝ていた母親の上に、謎の男がのしかかる。男は一時は退散したものの、ふたたび現れ、母親を押さえつける。母親は必死で消えろと念じるが……。
  • 姿見
    • 卒業間近の学生二人が、体育館でバスケットボールをして遊ぶ。ふと、はずみでボールが転がっていく。そのボールを取りに行った倉庫には、不審な噂のあった姿見が置いてあり……。
  • 視線
    • 由加里は、学校の課題のため、自分の将来を語るビデオを撮影していた。ビデオを再生すると、そこに霊らしき影を発見。クラスメートに乗せられて、学園祭で上映することになるが……。
  • 約束
    • 叔父の出張の間、マンションの留守を任された青年。叔父から言いつけられた約束は、名前を呼ばれたら必ず返事をすること。そして留守番中に、「かずのりさん」と呼ぶ女性の声が……。
  • ヒサオ
    • 母親は息子のヒサオに話しかけるが、彼は反応しない。話しているうちに母親は、ヒサオをいじめていた2人の男子生徒のことを思い出し……。

解説

実話を元にした短編怪談集

 全8編のオムニバス形式。原作となったのは、実話怪談集『新耳袋』。この『新耳袋』は取材した実話をもとに書かれている。ちなみに、「耳袋」というのは、江戸時代の旗本・南町奉行根岸鎮衛が書き記した随筆「耳嚢(みみぶくろ)」から取ったもの。

 その原作者の木原浩勝と中山市朗が、『怪談の学校』という書籍でも語っているのだが、解釈を見る側にゆだねるのが「怪談」というジャンルなのだという。すなわち、オカルトや妖怪物と異なり、怪奇現象すなわち「怪」の提示が主眼になる。

 つまり、たんに人が消えるとか、声が聞こえるといった現象を語ったのが怪談。それに霊や妖怪の仕業である、という解釈を加えるとオカルトや妖怪物になる。そして、「怪」に襲われる場面を中心にすると、ホラーになるというのだ。

 怪談を名乗った本作では、その前者を重視している。怪奇現象の原因があまり説明されないところはたしかに特徴的だ。視聴者が想像する余地を残しており、想像力のある人は解釈を楽しめる。

 ただ、単純な怖さで言うと、そうは言ってもやはり、ホラーの襲われる恐怖というのは大きいし、サスペンスの軸が全体を通っていると求心力がある。『リング』がヒットしたのは、その両方の理由があるからだろう。

 だが、本作の原作も映像化シリーズも長く続いている。それは、怪談に根強い支持があるからだろう。そして、なるべく説明しないというスタイルは、実話怪談の手法を踏襲しているJホラーにも当てはまるところがある。

 さて本編だが、短編のオムニバスということで、各話へのコメントも短くつけていく。

 全体を見て、最も完成度が高いと思ったのは「視線」。主演の堀北真希も良い。最もアイディアが面白いと思ったのは「約束」。「視線」と「約束」をもとに作られた長編を見てみたい気がする。

  • 「夜警の報告書」
    • 皆が辞めていく中ひとりだけ残っている、ひょうひょうとした警備員を描いたホラーコメディ。
  • 「残煙」
    • 怪奇現象の背景が全く分からず、謎めいている。さらにもし、3人とも消えていれば、残された者の想像になる*1
  • 「手袋」
    • 首を絞められるだけならよくある怪談が、なぜ手袋をはめているのか、という謎解きがある。
  • 「重いッ!」
    • 意図的なのか、夜中に襲われてうなされるタイプの話が2回続いたので、既視感を覚えた。
  • 「姿見」
    • いさぎよいショッカー一発芸。これは驚く。このキャラクターは『呪怨 白い老女』にも登場。
  • 「視線」
    • 短いながらも、本格的な物語を展開。『リング』や『呪怨』にもあったが、映像を使った演出は怖い。
  • 「約束」
    • 呼びかける声がテンポ良い。女幽霊のキャラクターは監督・雨宮慶太が自らデザイン。
  • 「ヒサオ」
    • 社会的題材を扱ったヒューマンドラマ。やや重苦しいが、熱と情感がこもった話で、全体を締めくくった*2

関連作品

新耳袋 第一夜 現代百物語 (角川文庫)

新耳袋 第一夜 現代百物語 (角川文庫)

怪談新耳袋 怪奇 ツキモノ [DVD]

怪談新耳袋 怪奇 ツキモノ [DVD]

*1:実話怪談を称する本作にとって、これは「嘘」以前の問題だ。というのも、もし帰還者がひとりでもいれば、嘘か本当かということになる。だが、3人とも行方不明になると、推測とか想像の域を出ない。一般に、実話志向のホラーでは、語り手の生死は重要になる

*2:やはり当事者が残らないのだが、これはもはや怪談というより、母子の人情話のほうが主眼だろう