映画『オトシモノ』 ――Jホラーのトンネルを走り抜ける暴走列車
概要
- 出版社/メーカー: アミューズソフトエンタテインメント
- 発売日: 2007/02/23
- メディア: DVD
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物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
ある日、木村奈々(沢尻エリカ)の妹・範子が、落とし物の定期券を駅の事務所に届けた。そして、行方不明の友達を見かけた、と姉の携帯にメッセージを残して、消息を絶つ。
奈々のクラスメイト・藤田香苗(若槻千夏)は、恋人からプレゼントされたブレスレットが、手首から外れずに困っていた。じつは、その腕輪は、恋人が拾った落とし物だった。
電車の運転士・久我俊一(小栗旬)は、水無駅トンネルで人影を発見。電車を緊急停止させ、確認しようとしたが、人影はこつぜんと消えてしまった。そのようなことが何回か続き、俊一は運転業務から外され、落とし物の管理業務へと回される。
やがて、奈々、香苗、俊一の3人は知り合い、謎に迫っていく。そして、駅で行方不明になった者たちが、みな青沼八重子という女性の定期券を拾っていた、という事実に突き当たるが……。
解説
幽霊、行方不明、オトシモノ
本作の幽霊は、「オトシモノ」、つまり公的空間から脱落したものの象徴となっている。そもそも、行方不明者というのはある意味で、人間の「オトシモノ」である。
それに、元運転士・俊一と、管理室の先輩・川村(板尾創路)は、幽霊に対して見て見ぬ振りができずに、落とし物の管理業務という閑職に回された。そして、奈々と香苗は、まわりから置いていかれる、という疎外感を語る。これも「オトシモノ」になる恐怖だ。
また、設定には、「深川」「水無」「青沼」といったように、「水」に関係する単語が使われている。たしかに日本のホラーは水と縁が深い*1。だが、もし意味があるのなら、言葉だけでは物足りない。映画なのだから、川や海、雲や雨、あるいは洗面所や浴室など、水のイメージがもっと画面に欲しい。
とくに、人間の生死を表現する水である「血」は、強いイメージ力を持つ。だが、腕を切っても血が全く出ないなど、不自然なまでに血を見せない。ただ、これには、規制か興行上の問題があるかもしれない。
本作は画面構成に凝っている。冒頭にあるトンネルを抜ける電車視点のショット、香苗の恋人が電車にひかれるスローのショットなど、怖いだけでなく、視覚的な快楽を追求している。こうした耽美的ショットは、黒沢清の影響を受けたものだろう。
物語面でも、快さを優先している。女性同士の友情を描いたこと自体は、ホラーというより青春物のテイストだが、これには興行面の事情があるかもしれない。せっかく沢尻エリカと若槻千夏が共演しているし、青春物のカラーを出そうという発想も理解できる。
それに、物語面の視点でみると、「オトシモノ」になりそうな奈々が、なぜ助かったかと言えば、それは脱落者同士で団結したからだ。「捨てる神あれば、拾う神あり」といった感じで、上記の疎外感をフォローして、視聴後の後味が良くなっている。これはこれでアリだろう。
Jホラーのトンネルを走り抜ける暴走列車
全体的に、わりとテンポよく進行するが、謎が回収されないまま進んでいく。たとえば、川村が話しかけたトンネルの謎がまるまる残った。
最後に「見た」というだけでは、決着がついていない気がする。対立が解決しないため、俊一の存在感も薄くなっている。ただ、説明しないほうが怖くなるとか、次回作のために謎を残す、といった思惑もあるかもしれない。
ただ、劇場ではまず見逃すだろうが、推測を可能にする伏線も入っていた。たとえば、青沼八重子が落とした定期券には、昭和44年、31歳とある。したがって、彼女は昭和13年生まれ。物語における現在が2006年だとすると、その子供が生きていれば37歳。そこからある人物の正体が推測できる。
物語は中盤まで、Jホラー的演出が続く。すなわち、実話怪談や心霊現象ものの枠組を利用した演出をほどこしている。具体的には、ビデオに霊が映ったり、写真の顔に影が落ちたりする。無関係な人々が呪いの連鎖に巻き込まれる、という話の大筋も、Jホラーではおなじみだろう。
だが、終盤の展開は、Jホラーを大きく逸脱している。終盤で突如、大風呂敷が広がる。これには意表を突かれた*2。その終盤の設定は、クトゥルフ的な世界観を思わせるが、公式では鬼子母神という設定らしい。
日本のホラー映画において、駅という舞台はわりと珍しいが、終盤の設定も珍しい。Jホラーというトンネルを、暴走列車で突き抜けた一作だった。
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