映画『呪怨 白い老女』 ――人が人を殺す恐怖

概要

呪怨 白い老女 [DVD]

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紹介

【解説】
伝説の恐怖ふたたび! あの「呪怨」が、さらに恐ろしさを増して復活!!
口コミで「とにかく怖い…!」「一生のトラウマになった!」と、その問答無用の恐怖描写で評判になり、今や伝説と化したビデオ版「呪怨」。その製作から10周年となる今年、「呪怨」の生みの親である清水崇×一瀬隆重の手によって、原点の恐怖に回帰した新たな「呪怨」が誕生した!両氏の“呪い”を受け継いだ2本の映画「呪怨 白い老女」「呪怨 黒い少女」がそれだ。10年もの間、日本のみならず全世界の人々に“未だかつて経験したことのないケタ違いの恐怖”を体感させてきたホラー映画の最高傑作「呪怨」が、さらに恐ろしさを増して復活した。
2009年、「呪怨」がふたたび伝説の恐怖を蘇らせ、新たなる戦慄を呼び起こす・・・・・!!

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

【ストーリー】
一家惨殺事件。首を切られ惨殺された、かつての親友・・・。少女が絶望の中で見たものとは・・・。
ある家で、司法試験に落ちた息子が家族5人を次々と惨殺。自らも首を吊って死んだ。死ぬ間際に彼が録音したカセットテープには、「行きます。すぐ行きます・・」という彼の声とともに、少女の不気味な声が録音されていた。それは、今は高校に通うあかね(南明奈)が小学生の頃に親友だった未来という少女の声だった。未来は一家惨殺の被害者だったのだ。そして、幼い頃から霊感が強かったあかねの前に、黄色い帽子をかぶり赤いランドセルを背負った未来が姿を現す……。

解説

人が人を殺す恐怖

 シリーズの「呪い続けて10周年」を記念して、『呪怨 黒い少女』と同時上映された。俊雄はカメオ出演するが、伽椰子は登場しない、外伝的な位置付けの作品。

 ちなみに、「白い老女」というキャラクターの元ネタは、『怪談新耳袋 劇場版』「姿見」から。この話の監督も、本作と同じ三宅隆太。「姿見」の時点ですでに、バスケットボールを持っている。

 予告編の映像に「白と黒、どっちが怖い?」といったコピーがある。「赤いきつね緑のたぬき」のようなもので、どちらが怖いかは好みだろう。ただ、『白』が男性的、『黒』が女性的な恐怖、という違いは見られる。

 すなわち、『白』のほうは男が凶器で殺し、『黒』のほうは女が憑依する*1、という恐怖を描く。『白』は「人が人を殺す」という、サイコ・スリラー的な恐怖を前面に押し出してきたところが、今までのシリーズと違った新味だ。

 上映時間が1時間と、今までの劇場版より、コンパクトにまとまっている。物足りないかとも思ったが、『呪怨』シリーズは複雑な謎解きをしないので、これくらいの長さのほうが、飽きずに見られるとも感じた。

 また、やはり時系列を混ぜるオムニバス構成だが、最後まで見るとスッキリ謎が解ける。先を読みやすいということでもあるが、相対的に『黒』より分かりやすい。

 終盤の連続殺人は迫力があった。直接カメラで殺害する現場を映さないものの、殺人犯が被害者を残虐に殺していく。その殺人犯は、何を考えているか分からない感じで、殺人マシーンのように淡々と殺害を実行する。

 ただ、あえて欲を言えば、せっかく「人が人を殺す」展開にしたのなら、殺人犯に負の感情が蓄積していくプロセスがもっと欲しい。そうすれば、たとえば『シャイニング』のような、サイコ・スリラー的恐怖がより増すだろう。

 長く続いたシリーズだが、新監督が新風を吹き込んだ。本作冒頭で「手が離せない」という言葉がループするシーンは、新鮮な印象だった。

 それも含めて、『呪怨』の恐怖演出は時間軸の操作が多い。そこで、たとえば後悔した行為は繰り返されるといったように、呪怨時空に関するルールが欲しくなる。

 そういうわけで、長く続いている本シリーズだが、世界観を構築する部分では、まだまだ開拓の余地があると思ったのだ。

関連作品

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*1:ただ、霊が打撃で殺しているが

映画『呪怨2』(劇場版) ――時間を超えた呪い

概要

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かつて夫に妻・伽椰子が惨殺されたり、そこに住んだ人々に次々と不幸が起きた家。その噂をききつけたテレビクルーが、この“幽霊屋敷”にホラーの女王と呼ばれる女優・京子を連れて取材へ。そんなクルーたちにさまざまな呪いがふりかかっていく……。
天井から逆さになって登場するなど、前作よりもさらにパワーアップした伽椰子の怨霊が撒き散らす悲劇が描かれる。前作はお化け屋敷らしい“脅かし”の恐怖が際立っていたが、今回は女性らしいネチネチとした恐怖感がいっぱいなのがポイント。特に京子が伽椰子の生まれ変わりをはらむくだりがかなり陰湿だ。それと面白いのは前作でも描かれたSF的タイムラグ。未来と現在が伽椰子の呪いで入れ替えになったりするのだが、そのアイディアが今回は十二分に生かされているゾ!(横森 文)

解説

時間を超えた呪い

注意:以下、ネタバレあり)

 本作で最も上手いと思ったのは、朋香の部屋の壁を叩く音の正体、というストーリーである。音だけではあるが、時間を超えた世界を設定する必然性があるので、これには感心した。

 それに比べるとやや地味だが、コピー機のシーンでも、コマ送りという形でズレた時間を描いている。

 もちろん、時系列を前後するオムニバス構成は、第1作のビデオ版『呪怨』からずっと採用されているし、前作の劇場版『呪怨』でも、タイムスリップは描かれていた。空間を固定する代わりに、時間を操作するという意識は、シリーズを通して一貫している。

 だが、前作での時間移動が表現したものは、「怖さ」というより「不思議さ」だった。たしかに、小学生の娘が成長した姿を見てしまうのは不思議だが、それが直接的な怖さにつながるわけでもない。

 それに対して、今回の壁の音は、サスペンス的にもホラー的にも、有効に機能している。

 いっぽう、子宮を借りて転生するモチーフも興味深い。生まれ変わるというのも、寿命をリセットする、一種の時間的操作と捉えられるからだ。

 また、伽椰子の呪いが時間を超えることの理由付けには、過去への後悔(俊介への執着)を据えるといいと思う。

 輪廻といえば『らせん』にもあるモチーフではあるが、それぞれの物語での位置付けは異なる。『らせん』の遺伝子へのSF的な興味に対して、本作ではあくまでホラー的な興味から描いている。

 というのも、伽椰子は貞子と違って既婚であり、生前に俊雄を産んでいる。そして、俊雄の出生を巡る疑惑が、剛雄が自らを殺す理由になっている。だから、伽椰子の死の原因となった、妊娠・出産の反復を通じて復活することに意味がある。

 「呪怨」とは呪いの連鎖だとしておきながらも、本作までの「呪怨」シリーズは、ほとんど伽椰子*1の呪いになっている。しかし、伽椰子をメインにするなら、出産は「連鎖」の表現にとって、適切なモチーフなのだ。

物語(ネタバレ)

(時系列順にできごとを再構成しています。本編視聴後の閲覧を推奨します)

 テレビ番組『心霊特番』のレポータを務めるタレント・三浦朋香は、自宅で同番組の台本を読んでいたときに、壁から聞こえる不審な物音に気付く。

 そして、首を吊った男の幻を見てしまう。以降、毎晩0時27分になると、壁の音が聞こえてくるようになった。

 『心霊特番』の撮影日、「ホラー・クイーン」の異名を持つ女優・原瀬京子は、テレビ局員たちとともに、旧・佐伯家を訪れる。

 番組の収録中、スタッフ以外の声が、収録された音声に混入していると発覚した。また、テレビディレクター・大国圭介は、佐伯伽椰子の日記を発見する。

 その夜、朋香は自宅で、首を吊って死んでいた恋人・山下典孝を発見。その後、朋香も同じ首吊りで死ぬ。

 夜の首都高速では、京子と彼女の婚約者・石倉将志が乗った自動車が、事故を起こす。将志は意識不明の重体になる。京子は子供を妊娠していた。

 いっぽう、メイク担当・大林恵が、TV局のメイク室から失踪する。圭介は、朋香、カメラ担当・渡辺、音響担当・相馬と連絡を取ろうとするが、行方が分からない。

 その後、京子は、映画の撮影で公園に来る。映画のエキストラとして、女子高生の千春、宏美が参加。撮影終了後、千春は公園で死ぬ。

 それから病院に寄ると、子供は流産しておらず順調に育っている、と京子は医師に告げられた。その夜、京子の母・原瀬亜紀が、自宅内で死んだ。

 いっぽう、宏美は、千春らの死亡や行方不明について調べ、佐伯家の事件に行き当たった。それから悪夢を見始める。

 京子が将志を見舞いに病院へ行ったとき、圭介から関係者が消息を絶ったと知らされる。また、行方を消していた恵が、京子の家に現れる。

 その翌日、京子は旧・佐伯家で千春を目撃。宏美も千春を目撃したが逃亡。いっぽう、圭介は京子を見つけた。

 京子が病院で出産。医師たち、圭介、将志は行方不明に。翌日に将志の母・薫が、後に将志の父・和正が、自殺した。

 その後、京子は、自ら産んだ子(伽椰子)に、歩道橋から突き落とされた。子供は、転落した京子を置いたまま、いずこかへと去っていくのだった……。

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呪怨〈2〉 (角川ホラー文庫)

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*1:俊雄や、いづみの友達の女子高生たちなど、幽霊は他にも出るが

映画『呪怨2』(ビデオ版) ――伽椰子へのリアクションが登場

概要

呪怨2 [DVD]

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2000年に清水崇監督が手掛けた、劇場版の原点となるVシネマ呪怨」シリーズの第2作。前作で血なまぐさい惨劇の舞台となった佐伯家は、事故物件として処理され、怨念は消えたかに見えた。しかし、新しい入居者に再び伽椰子の呪いが降り掛かる。

解説

伽椰子へのリアクションが登場

注意:以下、ネタバレあり)

 劇場版と独立したビデオ版第2作。本編の前半部分に、前作ビデオ版『呪怨』のダイジェストが、約30分程度、収録されている*1

 ビデオ版と劇場版では、物語が別に展開するだけでなく、撮影条件も違う。劇場版のほうが、フィルムの粒状感によって、商業映画らしい質感に仕上がっていた。だが、ビデオ版の平板な映像にも、疑似ドキュメンタリー的*2な触感がある。

 本作は、続編ならではの工夫がある。それは、何も知らずにばったり出会って殺されるパターンだけではなく、伽椰子に対する登場人物の反応を描いたことだ。

 前作では佐伯家の事件が物語の主軸だったが、今作は鈴木家の事件が軸になる。

 あるとき、霊感のある鈴木響子が、日本酒の味から、佐伯家の霊障を感知した。兄・達也はそれに対して半信半疑だ。父・泰二は「もってかれっぞ」と不安を煽る。こうしてストーリーに変化をつけて、飽きさせない工夫をしているのだ。

 しかし、欲を言えば、呪いを掛けられた人物の生死が分かれたほうが、どの人物が生き残るか予想する楽しみが生まれる。現段階の『呪怨』だと、時系列は複雑でも、どのみち佐伯家に関われば、全員死ぬのではないか、という予想が立つ。

 『呪怨』には、助かるルールがない*3。そのため、助かるかどうかのサスペンスがない。とくに続編に入って、なんでもありの世界になっている。たとえば、鈴木家の実家の両親は、佐伯家に立ち入ってないのに、呪われる理由が分からない。

 また、学校など家以外の場所に、伽椰子が出現することに違和感*4を覚えた。やはり、殺害のトラウマを反復する場所としては、家が最もふさわしい。

 それから、作中、伽椰子が同時に複数出現するシーンがある。そこには、パニック映画的な驚きはある。ただ、幽霊を含めた人物が複数化すると、視聴者が感情移入しにくい、というよりそれ以前に人格を想定しにくいという問題*5が生じる。

 しかしまあ、『呪怨』とは幽霊屋敷であり、幽霊の大盛り定食的な安定感がウリであった。今回も、出し惜しみなく伽椰子が出てくる。天井に出たり、椅子の下に出たり、強引に出現するので、やはり驚いてしまう。

 伽椰子がどのようなシチュエーションで出てくるか、想像しながら見ると、より楽しめるかもしれない。

 なお、今回も時系列をシャッフルしたオムニバス構成になっている。参考のため、時系列順に整列したストーリーを載せておく。

物語(ネタバレ)

(時系列順にできごとを再構成しています。本編視聴後の閲覧を推奨します)

 不動産屋・鈴木達也は、妻・鈴木しのぶと離婚し、子・鈴木信之を引き取った。そして、小林夫妻が住んでいた集合住宅の部屋へ引っ越す。

 いっぽう、達也が働く鈴木不動産では、元村上家(旧・佐伯家)の物件を公開。過去の事件のこともあって達也は、霊感がある妹・鈴木響子を、旧・佐伯家まで連れて行く。響子は、入居者に清酒を飲ませて、霊障をテストするよう忠告した。

 だが、達也は、旧・佐伯家を下見に来た北田夫妻に、いちおう清酒は飲ませたものの、妻の反応を無視して、物件を売却してしまう。

 達也から北田一家の入居を知らされた響子は、旧・佐伯家(現・北田家)へと赴く。そして、友人の佐藤から、旧・佐伯家と旧・小林家での事件を聞いた。

 響子は、鈴木不動産の事務員から住所を聞き、鈴木家(旧・小林家)へ向かう。鈴木家では、信之の異変と、佐伯剛雄が小林真奈美を殺害した光景を目撃。響子は病院に入院した。

 いっぽう、北田家(旧・佐伯家)に、佐伯俊雄の絵と佐伯伽椰子の日記が届く。それを見た妻・北田良美は、夫・北田洋をフライパンで殴打。洋は蒸発扱いに。

 響子は、信之を連れて実家に帰ってきた。しかし、父・鈴木泰二と母・鈴木ふみが死亡。達也の元妻・しのぶが死ぬ。達也は、北田家を訪れた後で行方知れずとなる。

 それ以降、旧・佐伯家に関係した人物は、次々と死亡か行方不明になる。

 村上崇が入院先から失踪。良美が行方を消す。北田家を捜査していた吉川刑事が辞職。吉川夫妻が自宅で死ぬ。神尾、飯塚両刑事が、警察署内で死亡。同行していた婦警は入院。そして、信之は学校で消息を絶つ。

 数年後、女子高生・遠山いづみは、友人の千晶、沙織、綾乃と共に、旧・佐伯家で胆だめしをする。だが、友人たち3人は、天井裏で消えてしまうのだった……*6

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呪怨2 (単行本コミックス)

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*1:1作目から見ている者にとっては不要だった。2作目から見始める視聴者には便利かもしれないが、そのような視聴習慣がどれくらい普及しているかは分からない

*2:映画らしい画面より、一般に普及したビデオカメラの映像に近いほうが、身近なリアリティはある

*3:助かった人物はいるのだろうが、その理由が偶然以外にあるのかが分からない

*4:前作のビデオ版『呪怨』で、俊雄が学校に出現するが、俊雄は学校に通う子供なので、そのぶん違和感は減る

*5:ただし、「ドッペルゲンガー」というのもあるし、人物の複数化への不安自体は、ホラーの題材になる

*6:劇場版『呪怨』へとつながる

映画『呪怨』(劇場版) ――サービス満点のお化け屋敷

概要

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かつて恐るべき殺人事件があった家。その場に足を踏み入れた者が次々と呪われていくという物語。とにかくここに絶対に幽霊がいたら怖い!と思える場所……たとえばテーブルの下の幽霊とか、枕元に立って悪霊がのぞき込んでいるとか、布団の中にその霊が入っているなど、ひゃーっ!と叫ばずにはいられないツボに霊が登場する。しかも『リング』の貞子のように正体を見せないのではなく、すべての元凶となる霊・伽椰子はその姿をバンバン見せてくるのもポイント。だから全体的にはお化け屋敷感覚で、霊の出現にいちいち驚かされてしまうのだ。実は霊はハッキリ映ったほうが恐怖度は減るものだが、そこにあえて挑戦したと思われる清水崇監督の意地には脱帽。サム・ライミ総指揮でハリウッドでのリメイク話が来たのも納得のホラー映画だ。(横森 文)

解説

テレビ画像が歪むシーンのモダンな恐怖

注意:以下、ネタバレあり)

 数あるJホラーの中でも格段に怖い、と思ったシーンが本作にある。

 物語中、徳永仁美は職場のトイレで伽椰子と遭遇して、自宅まで逃げて来た。恐怖に震える仁美は、ベッドに潜り込んでテレビをつける。すると、テレビの映像が乱れて、女性レポータの顔が大きく歪む……。

 このシーンは上手い。幽霊や怪物を直接出すのではなく、日常的な対象を不自然に歪ませて、不気味なものに見せているからだ。

 もし、歪んだ顔の怪物が出れば、それが怪物だと一目で分かる。しかし、テレビの顔が歪んでいるのは故障かもしれない。裏を返すと、現実にもありうるリアルなシチュエーションだ。

 これは、主観に内在した恐怖であり、モダンホラーの恐怖なのだ。そもそも、「Jホラー」と称した流れの実態を、日本版モダンホラーとして捉えている。

 実話怪談や疑似ドキュメンタリーの手法を導入して、リアリティを追求したモダン(内在的)な恐怖を描くところが、外国のホラーとも昔の怪談とも違う特徴だ。じっさい、『リング』にも写真の顔が歪んでいる場面があったし、やはり心霊写真的な手法だろう。

サービス満点のお化け屋敷

 ただしじつは、『呪怨』全体としては、Jホラーの主流とは異なり、幽霊がひんぱんに出現する、「お化け屋敷」的な演出を主にしている。

 そのことによって、平均的に安定した恐怖を提供しているから、『呪怨』シリーズも長く続いているのだろう。つまり、「大盛り定食」的な安定感がある。

 したがって、いきなり伽椰子や俊雄が登場する、ショッカーシーンが中心になる。だが、「いないいないばあ」をする老人と福祉センター入口のガラスに映った俊雄、部屋に目張りをするシチュエーションの反復、といった場面は見せ方が上手い。

 なお、ビデオ版と同様に、時系列をシャッフルしたオムニバス構成を採用している。そのため、一回見ただけでは、話の筋を把握しきれないかもしれない。

 参考のために、時系列順に整列した物語の要約を載せておく。

物語(ネタバレ)

(時系列順にできごとを再構成しています。本編視聴後の閲覧を推奨します)

 あるとき、佐伯剛雄が妻・佐伯伽椰子を殺害後に路上で死亡、ふたりの子供・俊雄は行方不明、という事件が新聞に掲載される。

 数年後、旧・佐伯家の家屋に、徳永一家が入居。ある夜、帰宅した徳永勝也は、俊雄と会って気絶していた妻・徳永和美を発見する。

 剛雄の霊に取り憑かれた勝也は、家を訪れた勝也の妹・徳永仁美を追い返し、和美の身体*1を天井裏にしまい、自らも天井裏で死んだ。

 翌日、福祉センターのボランティア・仁科理佳が徳永家を訪ね、俊雄に出会う。さらに、勝也の母・徳永幸枝を襲う伽椰子の霊を目撃して、理佳は気絶した。

 いっぽう、仁美は、勤務先から徳永家に留守番電話を入れた後、トイレで伽椰子に遭遇。連絡を受けて調査に来た警備員が、伽椰子に殺害された。自宅に逃げ帰った仁美だが、伽椰子に襲われる。

 翌朝、徳永家に訪れた福祉センターの職員・広橋が、放心した理佳と死んだ幸枝を見つける。通報を受けて来た警察は、天井裏から勝也と和美の遺体を発見、理佳を病院に収容する。収容先の理佳に、友人の真理子が見舞いに来る。

 旧・佐伯家の家屋では、佐伯家、徳永家のほかにも、死亡事件が起きていた。そこで、ふたりの刑事が、佐伯一家の事件を担当した元刑事・遠山に相談する。警察署に来た3人だが、広橋の死体が発見され、刑事たちは現場へ向かう。

 死亡した警備員を撮影した監視カメラの映像に伽椰子を見つけた遠山は、家屋を焼き払うため、旧・佐伯家へ赴く。

 そこで、未来の時空にいる娘のいづみ*2を見る。元の世界に戻った遠山は逃亡。やって来た刑事たちの前に、伽椰子が2階からはい降りてくる。逃げてきた遠山は、視線におびえて部屋中に目張りをするが、翌年に死亡した。

 その後、教師になった真理子と、福祉センターの介護福祉師になった理佳は、再会してレストランで昼食を取る。しかし、テーブルの下に俊雄を発見した理佳は、家に逃げ帰った。

 そして、不登校児(俊雄)を家庭訪問しようとする真理子*3と、真理子からの電話越しに猫の声を聞いた理佳は、旧・佐伯家へ向かう。そこで、真理子は天井裏に引きずり込まれ、目撃した理佳は剛雄に殺される。

 数年後、高校生になったいづみは、友人たちと旧・佐伯家に肝試しに行く。友人3人は伽椰子に殺されるが、身の危険を感じた自らは逃げ伸びた。その途中で父を見る。テレビニュースで、理佳が遺体で発見されたと報道。

 いづみは、視線におびえて部屋中に目張りをする。だが、3人の霊化した友人に襲われ、さらに伽椰子に仏壇へと引き込まれた。

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呪怨 (角川ホラー文庫)

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*1:遺体かもしれない

*2:遠山側では小学生

*3:行方不明の俊雄を家庭訪問するというのは、普通ならありえない。勝也の例のように小林の霊に憑依されたか、もしくは、遠山父娘の例のように時空が歪んでいた、という解釈は可能だ

映画『呪怨』(ビデオ版) ――「家」をめぐる伽椰子の怨念

概要

呪怨 [DVD]

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奥菜恵主演の劇場版『呪怨』公開記念として、その原点である『呪怨』『呪怨2』を初DVD化!“呪怨”とは「強い怨みを抱えて死んだモノ」の呪い。その呪いに触れたモノは命を失い、新たな呪いが…。ビデオリリース当時、ホラーファンから大絶賛を受けた。

解説

呪怨』シリーズの紹介

 『呪怨』シリーズは、90年代以降の日本恐怖映画、いわゆる「Jホラー」ブームを、『リング』と並んで盛り上げた。

 第一作の『呪怨』は、オリジナルビデオ(いわゆるVシネマ)として製作された作品。だが、話題を呼んだ結果、続編となる劇場版『呪怨』、さらにハリウッド版リメイク作まで公開された。

 『呪怨』『呪怨2』のビデオ版2作、『呪怨』『呪怨2』の劇場版2作、合計4タイトルは伽椰子を中心に展開する。全体のあらすじは、この世に未練を残して死んだ佐伯伽椰子が、佐伯家に関わる人々に「呪怨」をもたらすというもの。

 現時点での最新作は、伽椰子が登場しない外伝的な位置付けの『呪怨 白い老女』『呪怨 黒い少女』。

 『呪怨』シリーズの大きな特徴として、オムニバス形式が挙げられる。ストーリーを時系列通りではなく、バラバラに再構成するというもの。これによって、人物が事件にどのように関わってくるのか、という視聴者の興味を惹いている。

伽椰子の呪い、貞子の呪い

 伽椰子の呪いは、佐伯家に関わった人々に無差別に降りかかる。この「不特定多数への呪い」は、『呪怨』シリーズだけに留まらない。『リング』もそうだし、Jホラーに広く見られる設定だ。

 伽椰子(や貞子)は、「恨みを残して死んだ女性」という点では、伝統的な幽霊像を継承している。しかし、呪い殺す対象が不特定であるという点では、ジェイソンやフレディのような殺人鬼に近いのだ。

 Jホラー以前の古典的怪談では、特定の相手への復讐譚の形をよく取っていた。それが直接の復讐と関係なくなったのは、社会変化によって、人間関係が流動化したためだと捉えている。

 ただ、伽椰子と貞子では、怨念の方向性が違う。貞子はビデオテープ、伽椰子は家が、呪いの対象を決定する基準になる。

 これは、貞子の恨みがメディア(母の超能力を偽物と糾弾したマスメディア)、伽椰子の恨みが家(自らを虐待した夫=家長)に関係しているからだろう。

「家」というモチーフの徹底活用

 「家」や「館」というモチーフ自体はごくありふれている。にもかかわらず、本作での徹底した家の活用ぶりは特筆に値するのだ。

 というのは、オムニバス構成にしても、家を主な舞台にして、空間を限定しているから、成立しているのだ。もし、時間も空間もバラバラでは、視聴者が分かりにくくなってしまう。

 これは『リング』において、時系列を一本に固定してあるのと対照的だ。もし『リング』で時系列をひんぱんに行ったり来たりしたら、タイムリミットが迫ってくるスリルが失われてしまう。『リング』は時間の恐怖、『呪怨』は空間の恐怖*1を描いているのだ。

 画面構成から見ると、扉、窓、押し入れ、天井裏など、家屋の設備をよく利用している。とくに、階段をはい降りる伽椰子は印象に残る*2。オリジナルビデオの制作規模やシリーズ展開からも、家という舞台はなにかと都合が良い。

 物語構成から見ると、結婚、夫婦、妊娠、親子など、家庭という制度をよく活用している。これは伽椰子が既婚*3で、「家」に嫁いだから可能になった。俊介への恋愛の障害にしろ、剛雄の疑念と暴力にしろ、伽椰子の怨念は、家庭に起因している*4

 伽椰子、剛雄、俊介の3者を仲介する俊雄が、冒頭からの狂言回し役になるのも、自然な人物配置だ。

 さて、『呪怨』は時系列通りに進まないので、一回見ただけでは、話の筋が追えないかもしれない。そこで今回、自力で謎解きするのが面倒という方のために、設定の解説を次に設けた。

設定

注意:以下、ネタバレあり)
(設定の核心を記述しています。視聴後の閲覧を推奨します)

 佐伯伽椰子は、大学生のとき、同級生・小林俊介に片想いを寄せていた。それから現在までずっと、叶わない想いをノートに綴っている。俊介は奇遇にも、彼女の息子・佐伯俊雄が通う小学校の教師になっていた。

 いっぽう、伽椰子の夫・佐伯剛雄は、2人目の子供を欲しがっていたが、病院を訪れたときに、自らが「乏精子症」だと知る。乏精子症のため、妊娠する確率が低いという担当医の発言に、俊雄の生みの親は別人だと思い込む*5

 さらに剛雄は、ノートを見つけて伽椰子の想いを知り、俊雄の父親が俊介ではないかという疑問*6を抱く。疑心暗鬼に陥った剛雄は、伽椰子と俊雄に暴力を振るう*7ようになる。

 虐待はエスカレートして、ある日ついに、剛雄がカッターで伽椰子の全身を切り裂く*8。虫の息の彼女は、2階から階段下まではい降りて逃げてきたところを、剛雄に息の根を止められた。

 その殺人現場を2階から目撃していた俊雄は、押入れに隠れる。そこで、伽椰子によって異世界に連れて行かれ、生死不明の状態となってしまう。後に、剛雄は死んだ伽椰子に呪い殺され、変死体で発見された。

 そうした事件があり、佐伯家は無人物件となったのだ。その後、新たに引っ越してくる入居者など、その家に関わる者たちには、伽椰子の「呪怨」が容赦なく降りかかるのだった……。

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*1:ただし、シリーズを重ねると、時間への興味が強くなっていく

*2:テレビから出てくる貞子ほど、派手でキャッチーではないが

*3:これも貞子に比べて地味な設定だが

*4:ただ、結婚したのは自分の意思なのだから、他人に呪うのは八つ当たりもいいところだ、という素朴な感想もやはりあるのだが

*5:実際には、剛雄が俊雄の実父

*6:これには、「俊雄」という息子の名前が、俊介の「俊」と自らの「雄」から取ったものだ、と解釈した背景がある

*7:父親は飼い猫も殺している。俊雄が猫の鳴き声をあげるのは、その猫と一体化したため

*8:この際、喉を切り裂かれたため、伽椰子の発声音が、喉を鳴らす独特のものになった

映画『リング 0 バースデイ』 ――ホラーはついにロマンスへ

概要

リング0?バースデイ? [DVD]

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「リング」シリーズ完結篇。ついに明かされる‘貞子’出生の秘密

◆貞子は2人いた!?
大ブームを巻き起こした「リング」シリーズ最終章。
貞子の青春時代の想像を絶するできごと、そして、出生の秘密がいま明かされる!
恐怖と呪いの物語は、ここから始まった。

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

 昭和43年、18歳の山村貞子は、母・志津子の死後に上京し、東京の劇団・飛翔に研究生として入団した。

 そんなある日、次回の公演「仮面」の主演女優・愛子が、稽古中に亡くなる。そして、演出家・重森の独断で、彼女の代役として、貞子が主役に抜擢される。

 だが、愛子の死をきっかけに、劇団内に不穏な空気が流れ始め、劇団員たちは貞子を遠ざけるようになる。そんな中、音響効果の担当・遠山博は、貞子に優しく接する。貞子も遠山に淡い恋心を抱く。

 いっぽうその頃、新聞記者・宮地は、30年前に志津子が関わった公開実験を調査していた。というのも、その実験に立ち会った記者たちが不審死していたのだ。彼女は、貞子の居る劇団を突きとめ、公開実験が録音されたテープを団員の悦子に渡した。

 いよいよ、「仮面」の公演が幕を開ける。観客が見守るなか、貞子が舞台に現れると、公開実験の音声が会場に流れた。忌わしい過去の記憶が蘇って錯乱する貞子。しかも、その場に居合わせた伊熊博士の弟子・久野が死亡してしまう。

 そして、一連の不可解な事件の元凶が貞子にあると確信した団員たちは、リンチで殺そうと彼女に凶器で襲いかかる。貞子の運命やいかに……!?

解説

「テレビの貞子さん」

 『リング 0 (ゼロ)』とナンバリングされているように、シリーズ第一弾『リング』の過去を物語る。映画のジャンルとしては、建前上ホラーだが、実際にはロマンス色や青春色が強い。すでに予備知識を持った観客には、山村貞子という人物を描いた悲劇調の伝記、あるいはアイドル映画のように見えるかもしれない。

 貞子を演じる仲間由紀恵がとても可愛らしいために、彼女自身はあまり怖くない。そもそも、怖がらせようとする意図の演出がなされていない。貞子に感じるのは、「悲しさ」とか「切なさ」といった感情だ。むしろ、リンチ殺人をしようとする劇団員をはじめ、貞子を迫害する人々のほうが恐ろしかった。

 出生の秘密というのも、貞子を悪者にしないための設定に思えた。本作の貞子は、恐ろしい殺人鬼ではなく、薄幸の悲劇のヒロインなのである。『らせん』『リング2』と同様に、ホラーだけを期待すると肩すかしを喰う。それより、貞子というキャラクターを愛でるほうが楽しめる。要するに、貞子萌えのための映画なのだ。

 「トイレの花子さん」のように、親しまれているホラーキャラクターはいる。作品によっては、ただ怖いだけでなく、主人公の味方になったりする。それと同じような感じで、本作を見ると「テレビの貞子さん」というイメージが形成されるのだ。

ジャンルミックスの可能性

 『ゼロ』で原点まで戻ったので、『リング』シリーズの展開を振り返ってみよう。ホラーとして始まった『リング』、SF色の強い『らせん』と『リング 2』、ロマンス色の強い『リング 0』。そのように、ホラー発、SF経由、ロマンス行きの経路をたどっている。

 だがそもそも、原作物やノンフィクションの作品においては、原作(史実)を改変したり、タッチを変えて描くことは普通に行われている。ひとつの原作(史実)に対して、複数の見方がとれるわけだ。

 ひとつの作品シリーズを複数のメディアで展開する「メディアミックス」という流通形態は、様々なメディアで常態化した。とくに地上派アニメでは、オリジナルのほうが圧倒的な少数派になったくらいだ。

 とすれば同様に、ひとつの作品シリーズを複数のジャンルで展開する「ジャンルミックス」が普及する可能性もあるかもしれない。そのときは、ジャンルミックスを採り入れた本シリーズの評価も、また変わってくるだろう。

関連作品

リング0―バースデイ (Horror comics)

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SADA‐KO in「リング0」―仲間由紀恵写真集

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映画『リング2』 ――ホラーからSFに至るもうひとつの道

概要

リング2 [DVD]

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情報

原作: 鈴木光司
監督: 中田秀夫
脚本: 高橋洋
出演: 中谷美紀、佐藤仁美、深田恭子松嶋菜々子
製作国: 日本
公開: 1999年
上映時間: 95分

紹介

観る者に単なる恐怖映画以上の衝撃を与えた『女優霊』以来、得体の知れぬ怪奇を描かせたら天下無敵の、中田秀夫監督と高橋洋の脚本。このコンビによる大ヒットホラーの続編である。

今回は、前作の最後で命を絶たれた高山竜司の恋人、高野舞(中谷美紀)を中心に据え、出口の見えない新たな悪夢のストーリーがつづられていく。

映像の仕掛けや見せ場が一気に増えたが、その分物語的には焦点が拡散してしまったきらいもある。しかし、生理レベルでのいや〜な気持ちをあおり立てる描写や、ナマの神経にじかに触れてくるような音響など、恐怖心を増幅するセンスはやはり圧巻の一言だ。光学処理を施されたモノクロのシーンに、どこか懐かしく甘美な空気が漂っているのも、「これ以上見たくない、けれど見ていたい」と矛盾する視覚の欲望を強烈に刺激している。(武内 誠)

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

 山村貞子の死体が、失踪より30年を経て、井戸の中から発見された。貞子の母・志津子の従弟にあたる山村敬が、遺体の身元確認に来る。解剖の結果によると、貞子の遺体は死後1年程度で、なんとそれまでは井戸の中で生きていたのだ。

 遺体の発見者のひとりである高山竜司は死亡、もうひとりである高山の元妻・浅川玲子は、息子の陽一とともに行方不明になっていた。玲子が取材していた呪いのビデオの担当を引き継いだ後輩のテレビ局員・岡崎は、高山の助手で恋人の高野舞とともに、玲子を探す。

 岡崎と舞は、精神病院にいる女子高生・倉橋雅美に会いに行く。彼女は、玲子の姪でビデオを見て死んだ智子の友人だった。雅美が病院のテレビに近付くと、画面に井戸が映し出され、近くの患者達がみな苦しみだした。

 病院の医師・川尻は、舞と岡崎、刑事の前で、実験を行う。雅美の超能力によって、映像をビデオに念写するというものだ。実験を開始すると、モニタには鏡を見る女の姿が映し出された……。

解説

ホラーからSFに至るもうひとつの道

 『らせん』の項で述べたような、ホラーからSFへの転換が、『リング2』でも行われている。呪いの実体を未知の病気とした『らせん』と違い、『リング2』では超能力だと再定義している。これによって、ホラー色よりSF色が強くなる。

 「呪い」と「超能力」は違う。超能力においては、まず、主体となる超能力者が明確だ。また、物理現象として確定的に発生する。たとえば、『リング』で呪いの対象者が映った写真が歪むシーンでは、呪いの主体もまだ分からないし、カメラや写真自体に原因があるという余地も残されている。対して、『リング2』で人が吹っ飛ぶシーンでは、行為の主体が陽一だと明かされるし、超能力以外の原因が想定できない。

 ホラーで恐怖を生じさせるためのリソースは未知の謎なので、情報が多いと怖さは減る。また、呪いに比べて超能力は観客の身近な存在ではないので、感じるリアリティも減る。たとえば、前に入居した者がすぐに死んだ家というのは、それが呪いによるものだという解釈はさておき、事実として確率的に発生するものだ。この点が、人を宙に飛ばすようなタイプの超能力とは全く違う。

 超能力を出すだけなら、それはそれで、サイキック・スリラーになるのだが、本作はそれだけに留まらない。なんと、超能力のエネルギーが水に溶けるという、きわめて大胆な新解釈を超能力に対して行なっている。このため、『らせん』の新型ウイルスと同様に、にわかに受容しがたくなっている。

映画におけるマルチシナリオの実現

 『らせん』がそうだったように、本作はホラー色が減っているものの、サスペンスやスリラーとして見れば悪くない。室内プールのあたりはさすがについていけないが、集団で苦しみ出す病院の患者たち、ビデオ映像から迫る沢口香苗(役者:深田恭子)など、怖い見どころもある。『らせん』同様、中谷美紀の神秘的な雰囲気はホラーにマッチしている。

 ラストで井戸を登る貞子は印象的だ。白骨死体から生前の容貌を再現するために、粘土で顔の部分を再現するシーンがある。それを踏まえて、顔が粘土細工の貞子が登ってくる。ここでもし、貞子の顔を腐敗した死体にすれば、嫌悪感は増すだろう。しかしそれは、『らせん』における高山の解剖された死体のように、スプラッター系の怖さになる。だからここでは、仮面というモチーフを使って、死者への直接的な嫌悪感をやわらげつつ、間接的な不気味さを増しているのだ。

 『らせん』と『リング2』の内容は完全に別物で、同時に成立しない。おそらく、ノベルゲームの別エンディングのように、世界が分岐した別ルートになっているのだろう。映画というメディアにおいて、マルチシナリオを採用するのはわりと珍しい*1と思うが、リメイクやディレクターズカットという形ならよく見かける。『リング2』を『らせん』と見比べる、という楽しみ方もできるだろう。

関連作品

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映画版脚本集 リング・リング2 (角川ホラー文庫)

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リング2 (Horror comics)

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*1:長いシリーズを続けていくうちに設定が矛盾することはよくあるし、上映館によって異なる内容を上映するといった試みも過去にあるが