映画『呪怨』(ビデオ版) ――「家」をめぐる伽椰子の怨念

概要

呪怨 [DVD]

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情報
紹介

奥菜恵主演の劇場版『呪怨』公開記念として、その原点である『呪怨』『呪怨2』を初DVD化!“呪怨”とは「強い怨みを抱えて死んだモノ」の呪い。その呪いに触れたモノは命を失い、新たな呪いが…。ビデオリリース当時、ホラーファンから大絶賛を受けた。

解説

呪怨』シリーズの紹介

 『呪怨』シリーズは、90年代以降の日本恐怖映画、いわゆる「Jホラー」ブームを、『リング』と並んで盛り上げた。

 第一作の『呪怨』は、オリジナルビデオ(いわゆるVシネマ)として製作された作品。だが、話題を呼んだ結果、続編となる劇場版『呪怨』、さらにハリウッド版リメイク作まで公開された。

 『呪怨』『呪怨2』のビデオ版2作、『呪怨』『呪怨2』の劇場版2作、合計4タイトルは伽椰子を中心に展開する。全体のあらすじは、この世に未練を残して死んだ佐伯伽椰子が、佐伯家に関わる人々に「呪怨」をもたらすというもの。

 現時点での最新作は、伽椰子が登場しない外伝的な位置付けの『呪怨 白い老女』『呪怨 黒い少女』。

 『呪怨』シリーズの大きな特徴として、オムニバス形式が挙げられる。ストーリーを時系列通りではなく、バラバラに再構成するというもの。これによって、人物が事件にどのように関わってくるのか、という視聴者の興味を惹いている。

伽椰子の呪い、貞子の呪い

 伽椰子の呪いは、佐伯家に関わった人々に無差別に降りかかる。この「不特定多数への呪い」は、『呪怨』シリーズだけに留まらない。『リング』もそうだし、Jホラーに広く見られる設定だ。

 伽椰子(や貞子)は、「恨みを残して死んだ女性」という点では、伝統的な幽霊像を継承している。しかし、呪い殺す対象が不特定であるという点では、ジェイソンやフレディのような殺人鬼に近いのだ。

 Jホラー以前の古典的怪談では、特定の相手への復讐譚の形をよく取っていた。それが直接の復讐と関係なくなったのは、社会変化によって、人間関係が流動化したためだと捉えている。

 ただ、伽椰子と貞子では、怨念の方向性が違う。貞子はビデオテープ、伽椰子は家が、呪いの対象を決定する基準になる。

 これは、貞子の恨みがメディア(母の超能力を偽物と糾弾したマスメディア)、伽椰子の恨みが家(自らを虐待した夫=家長)に関係しているからだろう。

「家」というモチーフの徹底活用

 「家」や「館」というモチーフ自体はごくありふれている。にもかかわらず、本作での徹底した家の活用ぶりは特筆に値するのだ。

 というのは、オムニバス構成にしても、家を主な舞台にして、空間を限定しているから、成立しているのだ。もし、時間も空間もバラバラでは、視聴者が分かりにくくなってしまう。

 これは『リング』において、時系列を一本に固定してあるのと対照的だ。もし『リング』で時系列をひんぱんに行ったり来たりしたら、タイムリミットが迫ってくるスリルが失われてしまう。『リング』は時間の恐怖、『呪怨』は空間の恐怖*1を描いているのだ。

 画面構成から見ると、扉、窓、押し入れ、天井裏など、家屋の設備をよく利用している。とくに、階段をはい降りる伽椰子は印象に残る*2。オリジナルビデオの制作規模やシリーズ展開からも、家という舞台はなにかと都合が良い。

 物語構成から見ると、結婚、夫婦、妊娠、親子など、家庭という制度をよく活用している。これは伽椰子が既婚*3で、「家」に嫁いだから可能になった。俊介への恋愛の障害にしろ、剛雄の疑念と暴力にしろ、伽椰子の怨念は、家庭に起因している*4

 伽椰子、剛雄、俊介の3者を仲介する俊雄が、冒頭からの狂言回し役になるのも、自然な人物配置だ。

 さて、『呪怨』は時系列通りに進まないので、一回見ただけでは、話の筋が追えないかもしれない。そこで今回、自力で謎解きするのが面倒という方のために、設定の解説を次に設けた。

設定

注意:以下、ネタバレあり)
(設定の核心を記述しています。視聴後の閲覧を推奨します)

 佐伯伽椰子は、大学生のとき、同級生・小林俊介に片想いを寄せていた。それから現在までずっと、叶わない想いをノートに綴っている。俊介は奇遇にも、彼女の息子・佐伯俊雄が通う小学校の教師になっていた。

 いっぽう、伽椰子の夫・佐伯剛雄は、2人目の子供を欲しがっていたが、病院を訪れたときに、自らが「乏精子症」だと知る。乏精子症のため、妊娠する確率が低いという担当医の発言に、俊雄の生みの親は別人だと思い込む*5

 さらに剛雄は、ノートを見つけて伽椰子の想いを知り、俊雄の父親が俊介ではないかという疑問*6を抱く。疑心暗鬼に陥った剛雄は、伽椰子と俊雄に暴力を振るう*7ようになる。

 虐待はエスカレートして、ある日ついに、剛雄がカッターで伽椰子の全身を切り裂く*8。虫の息の彼女は、2階から階段下まではい降りて逃げてきたところを、剛雄に息の根を止められた。

 その殺人現場を2階から目撃していた俊雄は、押入れに隠れる。そこで、伽椰子によって異世界に連れて行かれ、生死不明の状態となってしまう。後に、剛雄は死んだ伽椰子に呪い殺され、変死体で発見された。

 そうした事件があり、佐伯家は無人物件となったのだ。その後、新たに引っ越してくる入居者など、その家に関わる者たちには、伽椰子の「呪怨」が容赦なく降りかかるのだった……。

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*1:ただし、シリーズを重ねると、時間への興味が強くなっていく

*2:テレビから出てくる貞子ほど、派手でキャッチーではないが

*3:これも貞子に比べて地味な設定だが

*4:ただ、結婚したのは自分の意思なのだから、他人に呪うのは八つ当たりもいいところだ、という素朴な感想もやはりあるのだが

*5:実際には、剛雄が俊雄の実父

*6:これには、「俊雄」という息子の名前が、俊介の「俊」と自らの「雄」から取ったものだ、と解釈した背景がある

*7:父親は飼い猫も殺している。俊雄が猫の鳴き声をあげるのは、その猫と一体化したため

*8:この際、喉を切り裂かれたため、伽椰子の発声音が、喉を鳴らす独特のものになった