映画『呪怨』(劇場版) ――サービス満点のお化け屋敷

概要

情報
紹介

かつて恐るべき殺人事件があった家。その場に足を踏み入れた者が次々と呪われていくという物語。とにかくここに絶対に幽霊がいたら怖い!と思える場所……たとえばテーブルの下の幽霊とか、枕元に立って悪霊がのぞき込んでいるとか、布団の中にその霊が入っているなど、ひゃーっ!と叫ばずにはいられないツボに霊が登場する。しかも『リング』の貞子のように正体を見せないのではなく、すべての元凶となる霊・伽椰子はその姿をバンバン見せてくるのもポイント。だから全体的にはお化け屋敷感覚で、霊の出現にいちいち驚かされてしまうのだ。実は霊はハッキリ映ったほうが恐怖度は減るものだが、そこにあえて挑戦したと思われる清水崇監督の意地には脱帽。サム・ライミ総指揮でハリウッドでのリメイク話が来たのも納得のホラー映画だ。(横森 文)

解説

テレビ画像が歪むシーンのモダンな恐怖

注意:以下、ネタバレあり)

 数あるJホラーの中でも格段に怖い、と思ったシーンが本作にある。

 物語中、徳永仁美は職場のトイレで伽椰子と遭遇して、自宅まで逃げて来た。恐怖に震える仁美は、ベッドに潜り込んでテレビをつける。すると、テレビの映像が乱れて、女性レポータの顔が大きく歪む……。

 このシーンは上手い。幽霊や怪物を直接出すのではなく、日常的な対象を不自然に歪ませて、不気味なものに見せているからだ。

 もし、歪んだ顔の怪物が出れば、それが怪物だと一目で分かる。しかし、テレビの顔が歪んでいるのは故障かもしれない。裏を返すと、現実にもありうるリアルなシチュエーションだ。

 これは、主観に内在した恐怖であり、モダンホラーの恐怖なのだ。そもそも、「Jホラー」と称した流れの実態を、日本版モダンホラーとして捉えている。

 実話怪談や疑似ドキュメンタリーの手法を導入して、リアリティを追求したモダン(内在的)な恐怖を描くところが、外国のホラーとも昔の怪談とも違う特徴だ。じっさい、『リング』にも写真の顔が歪んでいる場面があったし、やはり心霊写真的な手法だろう。

サービス満点のお化け屋敷

 ただしじつは、『呪怨』全体としては、Jホラーの主流とは異なり、幽霊がひんぱんに出現する、「お化け屋敷」的な演出を主にしている。

 そのことによって、平均的に安定した恐怖を提供しているから、『呪怨』シリーズも長く続いているのだろう。つまり、「大盛り定食」的な安定感がある。

 したがって、いきなり伽椰子や俊雄が登場する、ショッカーシーンが中心になる。だが、「いないいないばあ」をする老人と福祉センター入口のガラスに映った俊雄、部屋に目張りをするシチュエーションの反復、といった場面は見せ方が上手い。

 なお、ビデオ版と同様に、時系列をシャッフルしたオムニバス構成を採用している。そのため、一回見ただけでは、話の筋を把握しきれないかもしれない。

 参考のために、時系列順に整列した物語の要約を載せておく。

物語(ネタバレ)

(時系列順にできごとを再構成しています。本編視聴後の閲覧を推奨します)

 あるとき、佐伯剛雄が妻・佐伯伽椰子を殺害後に路上で死亡、ふたりの子供・俊雄は行方不明、という事件が新聞に掲載される。

 数年後、旧・佐伯家の家屋に、徳永一家が入居。ある夜、帰宅した徳永勝也は、俊雄と会って気絶していた妻・徳永和美を発見する。

 剛雄の霊に取り憑かれた勝也は、家を訪れた勝也の妹・徳永仁美を追い返し、和美の身体*1を天井裏にしまい、自らも天井裏で死んだ。

 翌日、福祉センターのボランティア・仁科理佳が徳永家を訪ね、俊雄に出会う。さらに、勝也の母・徳永幸枝を襲う伽椰子の霊を目撃して、理佳は気絶した。

 いっぽう、仁美は、勤務先から徳永家に留守番電話を入れた後、トイレで伽椰子に遭遇。連絡を受けて調査に来た警備員が、伽椰子に殺害された。自宅に逃げ帰った仁美だが、伽椰子に襲われる。

 翌朝、徳永家に訪れた福祉センターの職員・広橋が、放心した理佳と死んだ幸枝を見つける。通報を受けて来た警察は、天井裏から勝也と和美の遺体を発見、理佳を病院に収容する。収容先の理佳に、友人の真理子が見舞いに来る。

 旧・佐伯家の家屋では、佐伯家、徳永家のほかにも、死亡事件が起きていた。そこで、ふたりの刑事が、佐伯一家の事件を担当した元刑事・遠山に相談する。警察署に来た3人だが、広橋の死体が発見され、刑事たちは現場へ向かう。

 死亡した警備員を撮影した監視カメラの映像に伽椰子を見つけた遠山は、家屋を焼き払うため、旧・佐伯家へ赴く。

 そこで、未来の時空にいる娘のいづみ*2を見る。元の世界に戻った遠山は逃亡。やって来た刑事たちの前に、伽椰子が2階からはい降りてくる。逃げてきた遠山は、視線におびえて部屋中に目張りをするが、翌年に死亡した。

 その後、教師になった真理子と、福祉センターの介護福祉師になった理佳は、再会してレストランで昼食を取る。しかし、テーブルの下に俊雄を発見した理佳は、家に逃げ帰った。

 そして、不登校児(俊雄)を家庭訪問しようとする真理子*3と、真理子からの電話越しに猫の声を聞いた理佳は、旧・佐伯家へ向かう。そこで、真理子は天井裏に引きずり込まれ、目撃した理佳は剛雄に殺される。

 数年後、高校生になったいづみは、友人たちと旧・佐伯家に肝試しに行く。友人3人は伽椰子に殺されるが、身の危険を感じた自らは逃げ伸びた。その途中で父を見る。テレビニュースで、理佳が遺体で発見されたと報道。

 いづみは、視線におびえて部屋中に目張りをする。だが、3人の霊化した友人に襲われ、さらに伽椰子に仏壇へと引き込まれた。

関連作品

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呪怨 (角川ホラー文庫)

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*1:遺体かもしれない

*2:遠山側では小学生

*3:行方不明の俊雄を家庭訪問するというのは、普通ならありえない。勝也の例のように小林の霊に憑依されたか、もしくは、遠山父娘の例のように時空が歪んでいた、という解釈は可能だ