美少女ゲームのヒロイン選択問題
ヒロイン選択問題
ここでは、ノベルゲーム、特にエロゲ、ギャルゲ、美少女ゲームのジャンルで、プレイヤー/主人公の攻略対象外となったヒロインについて考えたい。
まず、大まかな問題意識を言おう。美少女ゲームの攻略対象が複数で、かつ、その対象が幸福になる鍵を攻略主体が握っている場合、「あるヒロインがプレイヤー/主人公に選ばれると、他のヒロインが幸福になれない状況」が生じる。この問題(以下では簡略のために「ヒロイン選択問題」と呼ぶ)を考えていく。
こう切り出すと、エロゲ論壇に詳しい読者は、いわゆる「Kanon問題」を思い出すだろう。だが、ここで展開したいのは個々の作品論ではなく、一般的な構造論なので、『Kanon』など特定の作品の事情は考慮しない。
ヒロインインフレ(ハーレム)
- 攻略主体の人数 < 攻略対象(ハーレム)
- 男女女女女
- 攻略主体の人数 > 攻略対象
- 男男男男女
- 男の人数の人数 = 攻略対象の人数
- 男男男男女女女女
まず、攻略主体と対象の人数差を、上のように図式化してみよう。1番目のように、ヒロイン選択問題には、ヒロインインフレ(ハーレム)という条件がある。
2番目でも、「ヒロインに認められなかった」という逆の問題は発生しうる。しかし、美少女ゲームにおいては通例、ヒロインは主役だが、主人公以外の攻略主体(男キャラ)はたいてい脇役であり、プレイヤーに問題視されない。*1
3番目のように男女をだいたい同数にして、別々のカップルが成立するようにすれば、ヒロイン選択問題を回避できる*2。
だが、美少女ゲーム界においては、攻略主体と対象が男女で偏っていない作品*3は、ハーレムものに比べて少ない*4だろう。ヒロインに労力を掛けた方がコストパフォーマンスも良いだろうから、自然な流れではある。
純愛性(同時攻略禁止)
- 同時攻略不可
- ○女×女×女×女
- 同時攻略可
- ○女○女○女○女
美少女ゲームのうち、「純愛系」とくくられるものは、同時攻略ができない場合が多い*5。二股を掛けるのが相応しくない、という理由はあるだろう。
図式の1番目のように、ヒロイン選択問題には、ヒロインの同時攻略が禁止されている条件がある。
2番目のように、同時攻略が解禁されれば、ヒロイン選択問題を回避できる*6。
セカイ系
主体と対象の関係が世界を構成する、セカイ系の設定について考えてみよう。図式の1番目のように、ヒロイン選択問題には、ヒロインとの関係が、世界観と密接に関係しているという条件がある。
よく普及しているため、セカイ系という言葉で代表した。が、より正確に言えば、主人公とヒロインの間に、問題を解決するための、固有の設定があればよい。たとえば、主人公と何らかの約束をしているとか、主人公との間でのみ奇跡が起きるとか。
2番目のように、攻略対象との関係を世界観と切り離してしまえば、ヒロイン選択問題を回避できる。具体的に、どういうことか?
たとえば、ヒロインが抱える問題(病気を治すといったこと)は途中で解決して、最終的に選ぶヒロインはまた別*7という形にすればよい。
主人公主導
- 攻略主体=問題解決の主体
- 男>女
- 攻略対象≠問題解決の主体
- 男≦女
攻略主体と対象の関係を図式化しよう。1番目のように、ヒロイン選択問題には、ヒロインの問題を解決する主体を、攻略主体が兼ねているという条件がある。
2番目のようにヒロインが自身の問題解決の主になり、プレイヤー/主人公が従になれば、ヒロイン選択問題を回避できる。もう少し具体的に言うと、問題解決に主人公が必須ではない状況を作ればよい。たとえば、主人公があるヒロインを攻略対象に選ばなかった場合、主人公以外のキャラがそのヒロインを助けるだとか。
ヒロイン選択問題の四要因
- ハーレム
- 純愛(同時攻略禁止)
- セカイ系
- 主人公主導
ここまで見てきて、1.攻略主体と攻略対象が一対多で、2.同時攻略が禁止され、3.ヒロインとの関係が世界観を作り、4.主人公が問題解決の主体である、という四つの主な要因から、ヒロイン選択問題が発生することが分かった。 そこで、その四要因を除去すれば、ヒロイン選択問題を回避できる。
しかしまた、「泣きゲ」と呼ばれるジャンルでは、上の四要素が密接に関連してもいる。たとえば、セカイ系のセカイとは攻略対象と一対一で構成する世界なので、セカイ系と同時攻略の解禁とを上手く両立させるのは難しいだろう。
さらに言えば、四要因とは、ヒロインを独占したい、純愛を求めたい、独自の世界観に浸りたい、主導権を握りたい、といったユーザ側の欲望を満たす要件でもある。だから、ヒロイン選択問題が起こるからといって、おいそれと外すわけにはいかない。
ただし、これらはあくまでも、美少女ゲームから最大公約数的に抽出した枠組だ。個々の作品では、作品固有の設定を活かして、ヒロイン選択問題を上手く回避しているかもしれない。
じつは、四要因をそのままにしても、物語が置かれた時空の解釈しだいでは、ヒロイン選択問題を回避できる。たとえば、不確定な過去という解釈を採用することなどだ。それについては、また次で扱おう。
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*1:ところで、こうした問題が乙女ゲーム・BLゲームでは、どう変形しているかは興味深い。が、詳しくないので扱わない
*2:発生しないわけではない。たとえば、主人公と結ばれなかったヒロインは、真に幸福になれないだとか
*3:たとえば『同窓会』が相当するだろうか
*4:男のサブキャラが大勢出てくる作品はよくある。が、ヒロインと結ばれるということになると少ない
*5:逆に、同時攻略可能なゲームの代表として、『同級生』シリーズを挙げる
*6:特に陵辱系では、攻略対象を不幸にする場合が多いので、そもそも問題視されないが
*7:具体的作品を挙げると、『Piaキャロットへようこそ!!』では、最後の電話でエンディングが分岐する