美少女ゲームのヒロイン選択問題2
ヒロイン選択問題
ノベルゲーム、特にエロゲ、ギャルゲ、美少女ゲームで、「あるヒロインがプレイヤー/主人公に選ばれると、他のヒロインが幸福になれない問題(ヒロイン選択問題)」を考えていく。
これは、エロゲ論壇では、いわゆる「Kanon問題」として知られているが、個々の作品論ではなく、一般的な構造論を展開するので、『Kanon』など特定の作品の事情は考慮しない。最大公約数的なモデルで考える。
前回、ハーレムや同時攻略禁止などの要因を除去すれば、問題を回避できることを見てきた。しかし、泣きゲのような感動的なジャンルだから不満が出てくるのであって、ジャンル自体を変えてしまったら意味がないかもしれない。
そこで今回は、作品のジャンルをなるべく変えずに、問題を回避する方法を考える。
不確定な過去
物語が語られる時空の過去が不確定であれば、ヒロイン選択問題を回避できる。具体的には、どういうことか?
たとえば、ヒロインAを攻略するルートAに入ると、ヒロインAの不幸な境遇が記述されている。プレイヤー/主人公は、それを解決していく。それでは、ヒロインBの攻略ルートBに入ると、ヒロインAは不幸なままなおざりにされるのか?
- ルートA
- ヒロインAは主人公しか幸福にできない
- ヒロインBは自力で不幸を回避できる
- ルートB
- ヒロインAは自力で不幸を回避できる
- ヒロインBは主人公しか幸福にできない
上の図式のように、ヒロインの現在に至るまでの設定を変えられれば、ヒロイン選択問題は回避できる。といっても、ルートBでもヒロインAは多少登場するだろうから、最低限の整合性を持たせる工夫は必要だろう。たとえば、ルートA・B両方でヒロインAは病院にいるが、ルートAでは生死に関わる病気で、ルートBではただの検査だとか。
だが、過去が不確定であることに、抵抗があるかもしれない。そこで、ルートAとルートBは、共通設定も多いが、基本的に別の世界だという、多世界解釈を取ることもできる。この場合、それぞれの世界の過去は確定している。
ただし、遡及的過去解釈か多世界解釈*1かは、物語中の出来事に直接影響しない。また、過去が確定していても、なおヒロイン選択問題を回避できる余地がある、とする見方もある。ここでは、選択問題を回避さえできれば、いずれの解釈でも構わないので、この問題には深入りしないでおく。
この方法では、作者側が何も操作しなくても、読者側が語られていない過去を解釈できる。そこで、すでに世に出た作品の場合、この方法を取ることになる。ただ、読者側が勝手に解釈しているだけのことで、物語内では何も変わっていない、ということでもある。
プロローグ
そもそも、読者側がそのような解釈を取らざるを得ない、ということ自体が不満な人がいるかもしれない。その場合、もう少し作者側が歩み寄る手法がなくもない。具体的には、プロローグで過去を描くと、ヒロイン選択問題は回避できる。
たとえば、プロローグで本編の十年前が描かれる。そこでの選択肢が、十年後の本編に影響する。たとえば、事故が起こる原因だとか。そうして物語上の過去を現在に組み込み直すことで、読者側があれこれ解釈する必要はなくなる。
ただし今度は、プレイヤーが「自らまいた種」であることに、不満が出てくるかもしれない。プレイヤー・主人公が中立的な立場でないと、素直に感動できないというわけだ。
トゥルーエンド
各ヒロインの個別エンドのほかに、ヒロイン全員がハッピーになる、ベストエンド・トゥルーエンドを設ければ、ヒロイン選択問題は回避できる。これは実際のゲームでもよく見かける手法で、この辺りが落としどころだろう。
だが、トゥルーエンドとそれ以外のエンドの関係はどうなるのか。トゥルーエンドこそが正史で、他のエンドは偽史である、という解釈はありうる。すると、プレイヤーが読んだ大部分が偽の物語ということになりかねない。
外伝的物語
選択されなかったヒロインがどうなるか、外伝的物語で直接描いてしまえば、ヒロイン選択問題を回避できる。実際のゲームでも、アペンドディスクやファンディスク、ノベライズやコミカライズなどで、外伝を描くことはよくある。
やはり、トゥルーエンドと同様に、本編と外伝との関係がどうなるのか、という問題は残る。ただ、外伝という位置づけなら、「if」の物語である*2と明言してしまっても、違和感は少ないだろう。
4つの解決法
今回は、不確定な過去を導入する、プロローグ、トゥルーエンド、外伝的物語を設置する、という4つの解決法を示した。どれも一長一短はあるが、ジャンルを変える必要がないので、前回より実際の解決法に用いやすい。
前回と合わせたものだけで8つもあるので、ヒロイン選択問題を回避することは難しくない。「ハーレムで純愛で主人公主導じゃないといやだし、プロローグとか真エンドとか外伝を足したりするのは嫌だし……」といったように、あれもこれも嫌だということになると、ユーザが贅沢だという話になってくる。
しかし、「そもそもヒロイン選択問題の回避を望まない」という向きもありうる。前回も今回も、ヒロイン選択問題は克服されるべき課題である、ということを自明の前提にしてきた。だがむしろ、克服したことによって、代わりに何か失うものがあるかもしれない。
次回は、その辺りを踏まえて、そもそもプレイヤーが美少女ゲームに何を望むのか、といったことを考えていきたい。
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