『ポール・スローンのウミガメのスープ―水平思考推理ゲーム』(ポールスローン、デスマクヘール)

概要

ポール・スローンのウミガメのスープ

ポール・スローンのウミガメのスープ

「水平思考推理ゲーム(Lateral Thinking Puzzles = LTP)」は、出題者の出す謎を、解答者(3人から8人くらいが適当)がさまざまな推理を働かせて解くゲームです。
たとえば、「レストランでウミガメのスープを食べた男が自殺した。なぜ?」という問題(Q1「ウミガメのスープ」)を解いてみましょう。解答者は問題を解くために、出題者に対して、「はい」「いいえ」「関係ありません」の3つで返せる質問をできます。

解答者「ウミガメのスープに入っていたのは、本当にウミガメの肉だった?」
出題者「はい、男は確かにウミガメの肉を食べました」
解答者「ウミガメのスープには毒かなにかが入っていた?」
出題者「いいえ」
解答者「男はレストランに入る直前になにかをした?」
出題者「関係ありません」

なぜ男は、自殺という極端な行為に走ったのでしょうか?
ほかの解答者が、ユニークな発想をするかもしれません。また自分の質問が、ほかの解答者にひらめきを与えることもあるでしょう。本書では「ヒント」が、出題者とほかの回答者の代わりを務めます。できる限り柔軟に発想し、想像力を働かせて、真実をつきとめましょう!
(本書カバーの解説文より)

紹介

「水平思考推理ゲーム(Lateral Thinking Puzzles = LTP)」が広まるきっかけとなった本*1

第1問の「ウミガメのスープ*2をはじめとして、対話形式のヒントが添えられた問題が81問収録されている。クイズや論理パズルは昔からあるが、このテーブルトーク的なヒントが新しい。

問題の中には、正解を見て、「こんなの、解るはずがない」と思うものもある。だがむしろ、正解にたどり着くこと自体よりも、回答する過程でどれだけ柔軟に水平思考できるかが、本書の目的だ。逆に、たまたま知識があって、即答できる問題は、思考のトレーニングにならない。だから、正解/不正解は気にせず、自らの固定観念を解体することに専念しよう。

第1問は別格扱いとして、私が特になるほどと思った良問は、第79問「地下室の扉」。解答でも「真の水平思考問題」と言われているように、「水平思考」*3というのが何かを考えさせる。また、この問題には短編小説のような物語性があって味わい深い。

考察

脳トレ」的な読み方が普通だろうから、これは私の個人的な読み方になるが、「ホワットダニット」型のミステリとして本書を読んだ。「ホワットダニット」というのは、「それが何なのか」「何が起きたか」「何が引き起こしているか」という意識、くらいの意味で使っている。通常のミステリでは、犯行(何が起きたか)が示される。読者や探偵は、その犯行の犯人・手口・動機を推理していく。

それに対して本書では、問題で提示された状況(の全体像)が、そもそも分からない。そして、与えられた断片的な結果から、元の状況を解釈していく。垂直思考ではあるシチュエーションを掘り下げていくのに対して、水平思考ではどのシチュエーションの一部として見るか幅を広げていく。

また、既存のミステリでは、手がかりもしくは伏線が、作者から与えられる。対して水平思考推理ゲームでは、回答者が能動的に質問していく。まあ、本書ではヒントという形なので、通常の伏線と大差ないが、テーブルトークゲームとしてプレイすれば、全く違った性格になるだろう。

この種のクイズ・パズルでは、何かと正解ばかりに目が向きがちだ。しかし、たとえば質問力をつけるために読んでもいいだろう。問題を出す側に回って考えると、ヒントでの質問の出し方は意外と難しい。ヒントを見て答えそのものを考える前に、問題文を見てどういう質問をするかも考えると、より楽しめるかもしれない。

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*1:なお、他社からの書籍やWebで、この本より早く出ているものはある。しかし、本書の原作にあたる英語版は、さらに古くから出ている。そこで、この本を日本語版原典として紹介した。ちなみに、このゲーム自体は、古くからある都市伝説で、ゲームの考案者は不明らしい

*2:ウミガメのスープ」は日本語訳で、英語では「アホウドリのスープ」らしい。ちなみに、現在はワシントン条約で保護されているので、ウミガメを食用に用いるのは難しくなったようだ

*3:この言葉自体の考案者は著者ではない