ラブプラスに至るギャルゲ史の系譜2・美少女ゲームの四大分類
概要
- 出版社/メーカー: コナミデジタルエンタテインメント
- 発売日: 2009/09/03
- メディア: Video Game
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ネットで盛り上がっている『ラブプラス』に至る系譜を提示したい。前回は、コナミを中心にした、ときメモ以降のギャルゲ史(コナミ史)を見渡した。今回は、他社製品を中心に市場全体を見通す。それにあたり、美少女ゲームを四種類に大別する。そして、美少女ゲーム界の大きな流れに、ラブプラスを位置づけよう。
美少女ゲームの四大分類
分類
- アドベンチャーゲーム
- シミュレーションゲーム
- ノベルゲーム
- リアルタイム系ゲーム(アニメーション+アクション)
その美少女ゲームの主要要素が、場所移動ならアドベンチャー、数値管理ならシミュレーション、文章表示(分岐選択)ならノベルゲーム、リアルタイムの操作演出ならリアルタイム系(アニメーション+アクション)、と分ける。
アドベンチャーゲーム(ADVG)
- 学園生活
- 『同級生』
- 『下級生』
- 『トゥルーラブストーリー』
- 『キミキス』『アマガミ』
- 日本縦断
- 閉鎖空間
- 『河原崎家の一族』
- 『野々村病院の人々』
- 『慟哭』『蘇生』
- マルチサイト・ループ
- 『EVE』シリーズ
- 『YU-NO』
場所移動のように、分岐選択肢とフラグ立て以上の道具立てを持つ、テクスト主体のゲームを、アドベンチャーゲームとする。ノベルゲームとの違いは、場所によって会えるか会えないかという偶然性*1を持つところだ。
シミュレーションゲーム(SLG)
数値管理や戦略要素があるゲームは、シミュレーションゲームに分類する。一定期間にパラメータを上昇できるか、戦闘で敵に勝てるかなど、ADVと異なり競争性がある。
ノベルゲーム
選択肢による分岐とフラグ立て程度の道具立てで、シナリオが中心になるゲームを、ノベルゲームとする。ADVとかなり近い位置にあるが、少なくとも中小企業や同人ベースの美少女ゲームでは、現在はノベルゲームの方が多い。ADVよりも制作が容易で、プレイもしやすいという事情があると思われる。
リアルタイム系ゲーム(アニメーション+アクション)
他の三種と異なり、リアルタイムの操作や映像を伴うゲームを、ここに分類した。格闘やシューティングなどのアクション要素があるものと、非リアルタイムのゲームにアニメーションを付加したものがある。時間同期型のゲームはやや特殊だが、四つのうちどれかに配置するならここだ。
分類の補足
補足しておくとまず、「ADV」とか「SLG」というのは、メーカ側の公式カテゴリと異なる、独自区分である。正式名称を省いたタイトルもある。
また、別の分け方がありうる。たとえば、一般向け(ギャルゲ)と成年向け(エロゲ)、学園ものとそれ以外、といった分類も自然だろう。
次に、ひとつの作品が複数の要素を持つことは珍しくない。場所移動と数値管理の両方を備えているケースはざらにあるだろう。それをどちらに区分するかは、個々のゲームの主題が何かによる。
それから、「ノベルゲーム」という呼称は、他の呼び方もある。「デジタルノベル」「サウンドノベル」「ビジュアルノベル」などだ。しかし、ここでいう「ノベルゲーム」は、その3つを含んでいる。
また、画面下部にメッセージウィンドウが表示されるものは、アドベンチャーゲームである、という区分も有力だ。形式上の区分だけでなく、画面全体を覆うタイプは、シナリオ重視になるので、内容も異なってくる。
だが、育成SLGと戦略SLG、アニメーションとアクションを一括りにしているのに、そこだけ細分化してもバランスが悪い。場所移動がなく、選択肢とフラグ程度の道具立てしかないADVゲームは、ノベルゲームに分類する。
ラブプラスに至るギャルゲ史の系譜
表 | ストーリー中心 | ゲーム中心 |
---|---|---|
20世紀 | ADV | SLG |
21世紀 | ノベルゲーム | リアルタイム系 |
20世紀から21世紀への美少女ゲーム界の変化
ここまで分類してきたゲームを踏まえて、美少女ゲーム界の歴史の変遷を整理しよう。はじめにまず、20世紀から21世紀への変化を見ると、ADV・SLGよりノベルゲーム・リアルタイム系ゲームに比重が移ってきた。
この背景には、ノベルゲームの方が制作が容易なこと、リアルタイム系ゲームがグラフィック技術の進歩を活かせること、といった理由がありそうだ。また、プレイヤー側から見ると、ADV・SLGは攻略が大変だという事情もあるだろう。
だから、可能な選択肢の組み合わせ数だけで言えば、ゲームシステムが簡素になったと言える。そのかわり、シナリオやグラフィックが質・量ともに向上した。これが、今世紀初頭の美少女ゲーム界の変化だ。
ストーリー性とゲーム性の対立軸
次に、ADVとSLG、ノベルゲームとリアルタイム系ゲームに共通する対立軸は、ストーリー性とゲーム性のいずれを重視するか、というものだ。そしてそれは、現実の時間と異なった虚構にプレイヤーが没入していくか、逆に現実の時間にゲームが侵入してくるか、という違いでもある。
その違いを特徴付けるものに、主人公の位置づけの問題がある。たとえば、『ときメモ2・3』や『ラブプラス』では、プレイヤーの名前をボイスで呼ぶ。あるいは、『井上涼子』『ノエル』では、現実の時間を擬似的であれ同期しているという、ゲームを現前させる立場に立つ。
これに対して、『ひぐらし』では、昭和の時代という現在と異なる時空において、プレイヤーと異なる圭一ら主人公の物語が展開する。ストーリーを再現する立場に立つ。*2
現代の美少女ゲームで、ノベルゲームとリアルタイム系ゲームを比較すると、制作の容易さから、前者が多いと思われる。しかし、美少女キャラクターが登場する一般のアクションゲームの存在まで視野に入れれば、リアルタイム系がマイナーとは必ずしも言えない。
『ラブプラス』の美少女ゲーム界での位置づけ
ここまで見てきたことによって、『ラブプラス』の位置づけが明らかになる。まず、リアルタイム系ゲームのカテゴリの中では、『井上涼子』の時間同期性を継承し、また3Dアニメーションによって、『アイドルマスター』や『ドリームクラブ』と共通性を持つ。
ただし、『アイマス』『ドリクラ』が非日常的な舞台・キャラクターを設定しているのに対して、『ラブプラス』はヒロインをより身近な存在にしている。その点ではむしろ、『ときメモ』や、同じ学園ものの『トゥルラブ』『キミキス』『アマガミ』のラインに近い。
一方、より大きい視点で見ると、『ラブプラス』はノベルゲームへのアンチテーゼになっている。たとえば、『ひぐらし』においてはもはや選択肢による分岐すらないように、ノベルゲームではシナリオ・ストーリー性を重視する。しかし、『ラブプラス』では、ゲーム・インタラクティブ性を重視している。
美少女ゲーム史の中では比較的傍流にあったリアルタイム系ゲーム。だが『ラブプラス』は、3DCG、音声認識、UI、通信、といった各技術の進歩により、バーチャルなコミュニケーションを実現することで、現在の人気を獲得したのだ。
付論
美少女ゲームを四つに分類したが、カイヨワ『遊びと人間』の遊戯の四区分(偶然・競争・模擬・眩暈)と一致する部分もあるように思える。どういうことか。
- 偶然:ADV
- 競争:SLG
- 模擬:ノベルゲーム
- 眩暈:リアルタイム系ゲーム
ADVでは、場所移動によって会えるかどうか、という部分が「偶然」に対応する。SLGでは、パラメータ管理による計量的要素、敵と戦う戦略的要素が競争に対応する。ノベルゲームでは、ストーリーの再現が「模擬」に対応する。リアルタイム系ゲームは、アニメーションやアクションが「眩暈」に対応する。
ところで、ノベルゲームが「模擬」という点が強引だと感じられるかもしれない。これには、ノベルゲームの二次創作が多いこと、さらにそれがキャラクターへの「ミメーシス(感染的模倣)」によって生じている、という点を指摘し論点を補強しておこう。
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*1:攻略本を見ることによって、必然性を得られるが
*2:ただし、『動物化するポストモダン2』では、メタフィクション性が、プレイヤーの感情移入を強める、という主張がなされている。が、ここで扱うには複雑なので、別の機会に検討する