美少女ゲームのヒロイン選択問題3
ヒロイン選択問題
ノベルゲーム、特にエロゲ、ギャルゲ、美少女ゲームで、「あるヒロインがプレイヤー/主人公に選ばれると、他のヒロインが幸福になれない問題(ヒロイン選択問題)」を考えていく。
関連するものに、いわゆる「Kanon問題」の先行議論がある。しかしここでは、作品に沿ったより詳細な議論を展開するのではなく、むしろ問題の全体像を示すための図式化に専念している。
前回、不確定な過去という解釈を採る、トゥルーエンドを設置する、など4つの解決法を示した。ヒロイン選択問題を回避しようと思えば、それらの手法で回避できる。
だが、「そもそもヒロイン選択問題は回避する必要がない」という考えもあるのではないか。以下、かなり単純化したものではあるが、その考え方を4つ例示しよう。
現実反映
現実には「カルネアデスの板」のように、同時に全員を救済できない状況がよくある。だから、全員救済のハッピーエンドを用意すると、いかにも作り物だという印象を受けるだろう。むしろ、万人が一致する正解がない方が、現実らしい重みが出る、という考え方。
そのような現実的状況に直面した主人公/プレイヤーが、迷ったり悩んだりすることに、実存的な意味がある。もし、問題が全て解決するベストエンドでもあれば、葛藤する必要はなくなってしまう。だから、ベストエンドがあれば良いというものではなく、ヒロイン選択問題があることにも意味がある。
この逆に、虚構だから描けることに価値がある、という考え方がある。
固有表現
ヒロイン選択問題は、世界観が抱えた矛盾かもしれないが、むしろ、その矛盾こそが世界観の中心を構成する。たとえれば、だまし絵のように、現実空間での再現が不可能なことで、かえって鑑賞者を魅了するようなものだ。そのように、固有の感動というのは、整合性が破れたところに表れる、という考え方。
もし逆に、整合的なルールに基づいて、ヒロインを救済するとしよう。すると、主人公以外でも誰でも、ヒロインを救済できることになり、奇跡の一回性は消え失せてしまう。反復できない固有の出来事だから、プレイヤーは感動するのだ。
この逆に、ストーリーの固有性よりも、整合性を重んじる考え方がある。
分岐構造
ノベルゲームでは、一本道のメディアと異なり、マルチシナリオ・マルチエンディングを採用できる。それゆえに、プレイヤーの選択/物語の分岐、という体験こそが重要なのだ。エンディングがグッドかバッドかは、ストーリー上重要でも、ゲームの本質ではない。エンディングは選択の結果であり、プレイヤーが分岐を選ぶ、選択の過程が重要だ、という考え方。
ヒロインを全員救済するという結果だけが重要なのであれば、別にノベルゲームでなくても一本道でメディアで表現してもよい。そうではなくノベルゲームというメディアに意味があるなら、プレイヤー/主人公の選択でストーリーが劇的に変化する方が良い。
この逆に、表現するメディアよりも、物語の内容を重視する考え方がある。
並列世界
もし、全員救済するトゥルーエンドを用意する(もしくは想像する)と、ゲーム内の世界をコンプリートしたいという欲求が、トゥルーエンドを見たいという欲望に置き換わってしまう。だが、1人を救う10の話と、10人を救う1つの話では、意味が全く異なる。トゥルーエンドに回収されない、未分化の状態でこそ、享受できる楽しみもある、という考え方。
また、作品の設定にもよるが、ヒロイン選択問題は、主人公に意識されない。その場合、分岐した並列世界を俯瞰できるプレイヤーだけが、世界の真相を知っている。そのような、プレイヤーと主人公のメタ的落差は、物語上に現れない密かな快楽である。
この逆に、ベストエンド・トゥルーエンドの大団円を重視する考え方がある。
選択問題の可能性
1.現実の重さを反映しているからよい、2.整合性の破れが作品固有の表現になっているからよい、3.ノベルゲームの分岐構造が重要だからよい、4.トゥルーエンドに回収されない楽しみがあるからよい、という4つの主張を提示した。
これらの主張は一枚岩ではないだろう。たとえば、現実の反映を重視する論者は、同時に整合性を重視するかもしれない。だがここでは、選択問題を受け入れる余地を示せればそれでよい。
今回、問題を回避しない方向の意見を並べたが、さらに積極的な立場がありうる。ヒロイン選択問題は、ジャンルが頭打ちになる限界ではなく、むしろ発展していく可能性であるとする発想だ。
たとえば、物語上の登場人物が並列世界を認識することで、ドラマを推進する原動力にできるのではないか。そこで次回では、作品の形式が変わることで、問題がどう変形するのかを見ていこう。
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