「天元突破グレンラガン」4話は「作画崩壊」したからダメなのではない

「萌えブーム」が原因?

なぜ作画の評価が割れるのか?

(…)しかしながら、現在の「萌えブーム」の中核をなすギャルゲー、ラノベ世代の若いアニメファンにとって、アニメ映像のクオリティの基準は“絵の美麗さ”“キャラクターの一貫性”にあることが多い。

(…)動く絵を愛するアニメファンとしては、どうか表面的なキャラ絵だけではなく、広い意味でのアニメをみる楽しさ、アニメの気持ちよさを知ってもらいたい(…)

この指摘は的外れなものだろう。「萌えブーム」の影響で、表面的な細かい作画の好みにのみこだわって、作品全体を見ようとしなくなっている、というよくある話に落とし込めば、分かりやすいだろうが、今回の場合、実はそうではない。

むしろ全く逆に、作画自体よりも、それが表現している内容が焦点なのではないかと思う。作品を見ていれば分かると思うが、「表面的なキャラ絵だけではなく、広い意味でのアニメをみる楽しさ、アニメの気持ちよさ」が弱かったから評価が低いのだろう。

この点で、単にキャプチャで比較するだけでは、かえって問題の本質を見落とすことになるかもしれない。それまでの話を見ていないと分からないからだ。そこで、まず軽い紹介から始めよう。「天元突破グレンラガン」とは、ガイナックスなどが制作したTVアニメシリーズだ。

グレンラガン1〜3話

ドリルがモチーフになっているロボットアニメということで、見るまではやや懐古的で媚びた設定ではないかと思っていた。ところが、1話を見てその先入観は覆された。地下に暮らす主人公たちの閉塞感と、そこから地上へ突破することの希望が描かれている。現代の状況と被り、現在でも通用する感覚がある。

主人公シモンとカミナは、対照的な性格であるにも関わらず、お互いを信頼するようになる。このパートナー性を中心に描いているところが、例えばエヴァとは異なる特徴だ。「自分を信じるな。お前を信じる俺を信じろ」という台詞は、エヴァ的不信に対する一つの回答になっている。もし登場人物がどちらか一方だけだったら、おそらく視聴後まで残る充実感が出ないのではないかと思われる。

敵のロボット(ガンメン)のうち、特にヴィラルの操るエンキは、強さが印象的に描けている。蹴りなどの格闘もミサイルなどの武器も迫力がある*1。もし女の子が一人も出ていなくても満足する出来だ。*2ラガンの1〜3話は「カレカノ」の1〜3話のように、ドラマが凝縮されていて面白い。ラガン3話までを見終わると、まるで最終回が終わったかのような充実感がある。

グレンラガン4話

ところが、4話では違う印象になる。まず登場人物の顔の違いが目立つが、それはただ絵柄が違うというのではなくて、表情が違う。3話までは厳しい状況にあっても、(ただ絵が小綺麗とか顔が美形というのではなく)どこか格好良い面持ちだったのだが、怒ったり呆れたりふて腐れたり、といった負の表情が増えてくる。表面だけではなく、表現している内容自体が違っている。

作画の統一とか絵柄の好みだけの話ではなくて、もっと根本的に登場人物や作品の理解が浅いと感じた。全体として連続した一つの作品としてみたときに、単純に表情が豊かだから個性的で良いとは思えない。逆に言うと、1〜3話の作画が統一されているから無個性で画一的だとは決して思わない。

そして脚本や演出に関係するが、カミナが無意味に岩を投げたり、理解できない・共感できない言動をする。3話までの行動は、無茶なように見えても困難な状況を打開するものだったから、爽快に感じるのだ。岩を投げるのは合体の訓練ということらしいが、やたら「合体(の美学)」にこだわるのも違和感を覚える*3

唯一共感できるのは、空腹のために戦えず危機に陥っている状態で、飼っている動物(ブータ)が、自らの肉を切り離し、食べさせるシーンだろう。だがしかし、カミナは結末においてもその事情を察せず、ただ肉を食べたがっている。ここは、肉を食べずに、その気持ちを受け取っただけでロボットを動かす位の方が、感動すると思う*4。その方が、意気(粋)を掲げるカミナに似合っている。

作画崩壊」したからダメなのではない

だから、ただ作画と絵柄だけで判断しているのではなくて、作品のテーマ(カミナとシモンの信頼・友情だとか)が描けていないという不満があるのだ。絵柄抜きにしても、顔のアップを多用した構図*5などはややぎこちなく単調に見えてしまう。

ただ、1〜3話のクオリティが高かったので比較してしまうが、4話自体は普通の出来かもしれない。キャプを見て「普通」というネットの感想もあるし、最近のアニメが開始直後に力を集中して注ぐのも知られているし、昔のアニメはよく絵が(話も)変わった。

もし制作状況に余裕がなかった(あるいは遊び回の)場合なら、むしろ構成と演出によってカバーして見せる技術があると言える。少なくともよく動いている点で、GUN道と比べるのは全然違うだろう。

mixiでの関係者らしき人物の失言など、作品外の出来事が影響して、4話のネガティブな話題ばかりが広がっている。しかしここは、4話を叩くのではなくて、むしろ前の1〜3話をもっと褒めるべきだろう。

*1:直接関係ないが、劇場版エヴァエヴァ量産機を少し思い出させた

*2:もちろん不要というわけではなく、ヨーコは重要な役割を負っている。外部の地上から現れるし、その後ロボットに代わりに乗ると言って、シモンとカミナ二人の関係性を問い直す。

*3:ヨーコ以外はそれに共感するのだが、その心理も全然分からない。合体で「筋を通している」というのも分からない。ただお約束だからといった感じだが、それでは最初に見る前の先入観のレベルに戻ってしまう

*4:今回は感動よりもギャグ風味の回だ、というのはあるかもしれない。ただ、「エクセルサーガ」のメンチのように、直接喰わなくて脅すだけでもギャグは成立する

*5:「顔が多けりゃ偉い」というわけでもない