「天元突破グレンラガン」4話の問題の本質は「作画」ではなく「信頼」

ガイナックス赤井孝美辞任

 また、関係者各位、制作スタッフにも御迷惑・御心配をおかけしたことをお詫びするとともに、責任の所在を明確にするため、私・赤井孝美は『天元突破グレンラガン』のアニメーションプロデューサー職を辞することとし、4月29日放映予定の第五話から私の名前をクレジットからはずす手続きを済ませました。

また自戒と反省の意味を込めて、株式会社ガイナックスの取締役も併せて辞任致します。

ラガン1〜3話・4話の落差はNGだが、らき☆すたのOP・本編の落差はOKか

らき☆すた」はOPと本編の落差が大きかったが、決して「作画崩壊」とは言わないだろう*1。本編は普通だがOPは良いと、素直に受け取った。そして、ラガンも4話は普通だが1〜3話が面白い。しかし、ネットの評価はそうではなかった。伝統的な作品は作画崩壊と騒がれて、萌え作品だとそのまま消費するというのは、少し偏っている気がする。

4話は話も絵も全体的に一昔前のロボットアニメ風だ*2。腹が減って戦えないだとか、敵の毛玉みたいな獣人とか、呆れる表情のデフォルメの仕方とか、少し古めのセンスだが、良く言えばおおらかで、作り手側としてはむしろこういう回がやりたかったのかもしれない。少なくとも、意図せず崩壊するようなものとは全然違う。また、敵ロボットの合体シーンや、串刺しにして倒す辺りは普通に良いと思う。

王道の宿命と作家の個性

しかし、では視聴者の見る眼が全くなかったのかというと、どうみても1〜3話の方が面白いだろうなと思う。それに一部の通だけが評価するのではなくて、素人目に見ても良いものを作るのは実力があるだろう。

4話は何かが噛み合ってなくて、物語や人物への共感が薄い。これが個性なのかもしれないし、1〜3話から作品のテーマを決めてしまうのは早過ぎるかもしれないが、やはり1〜3話の路線を求める感覚それ自体はまっとうだと思う。いったん王道路線を目指すと、気軽に降りられない、宿命のようなものかもしれない。王道への信頼は重い。

以前ガイナックスのトップ絵で、福満しげゆきエヴァのシンジを描いたことがあって、違和感が面白かったけれど、そんな風に4話は1〜3話の真面目で格好良いラガンへのパロディかもしれない。合体の訓練はいいとしても、合体そのものの美学にこだわったり、無意味に岩を投げるあたりカミナの性格がかなり変わっているのだが、合体時にシモンのロボを弾いたりするところはギャグになっている。

作画崩壊」と「信頼崩壊」

騒動を大きくした要因として、関係者の失言はある。社員の、それも責任者は慎重な発言が求められるだろう。悪いことは良いことを上書きしてしまうので、信頼を築くには時間が掛かるのに対して、失うのは一瞬である。それにクリエイターは作品で主張すべきだろう。それにネット上でも1〜3話は肯定的評価の方が目に付いた。

しかし、それらを踏まえた上で言えば、公式以外の場でも何か少しでも失言があれば、即辞任・解雇という前例ができるのは歓迎しない。もちろん表明は赤井氏の自発的辞任という形になっているが、例えばスポンサーが抗議しただとか、色々な原因が考えられよう。個人的には2ちゃんねるで悪評が立った位で商品が売れなくなるとも思わないが、最近の企業がコンプライアンスを強化する流れはある。*3

それでは、当たり障りのないことだけ書くか、匿名で書くしか選択肢がなくなってしまう。いや、確かに表現に問題はあっただろう。今回のような発言を繰り返すことが良いと言っているわけではない。しかし、問題が起きないようにすることを突き詰めていけば、常に私的な場所でも自主的に検閲することにつながっていって、表現の自由も形骸化してしまう*4

今回の騒動の本質は、「作画崩壊」ではなくて「信頼崩壊」にあると思う。ただし、それが企業側にしても消費者側にしても、過剰な期待を作り上げていて、少し不自由な拘束になっている側面はあるかもしれない。いずれにせよ、面白い作品を作ろうとするには大変な時間*5が掛かるだろうから、ネガティブな部分だけが何倍も何十倍も増幅してネットで伝わるのには、寂しいものを感じた。私の感想は「グレンラガンは面白い」という方が大部分を占めている。

*1:もちろん、絵柄が変わってないし、OPは短いから予定通りの進行だろうと受け取るわけだが

*2:というよりそもそもラガン自体が、「ドリル」のようなモチーフを使っていて、伝統的ロボットアニメへのオマージュが多い。1話のガンメンも、「ヤッターワン」みたいな系譜かもしれない

*3:また失言が直接の原因でなく、作品の内容に言及したことが原因ということもありえる。いずれにしても少し不自由な気もする。ちなみに「らき☆すた」の山本寛監督の私的サイトも、直接関係ないかもしれないが、アニメ放映開始と共に閉鎖した

*4:これは大袈裟かもしれないが、例えば筑紫哲也が辞めていたら、報道の自由の問題と受け止められただろう

*5:「企画準備期間から数えて5年以上関わった〜」