映画はなぜ二時間なのか
映画の時間学
東大オタキングゼミ 書籍
TVにも二時間ドラマ(「○曜○○劇場」みたいな)はありますが、映画はだいたい二時間です。なぜでしょうか。またその配分はどうなっているのでしょうか。話の大枠は岡田斗司夫が『王立宇宙軍・オネアミスの翼』の経験を大学のゼミで話した上の本の話を焼きなおしています。
映画は映画館で上映する
かりに映画館が1日12時間上映するとしましょう。もし映画が3時間だと1日4回しか上映できません。これが2時間になると1日6回上映できるので、単純計算で1.5倍の売上げになります。じゃあ1時間にすれば12回上映できるからいいかというと、需要には限りがあるので席がガラガラになってかえってマイナス効果が出るでしょう。それに割高感が出て同じ値段で券を売れなくなります。
もう少し具体的な情景を想像してみましょう。もし11時位から上映が始まるとすると、2時間なら飲食店が空く午後1時頃に昼食を取れますが、3時間だとさすがに空腹を我慢できません。ポップコーンとかは食べられますが。先に食べようと思ってもそんなに店が開いていないでしょう。ただし、最近シネコン(シネマコンプレックス)というのが郊外型大型CS(ショッピングセンター)と共に出てきて、一つの映画を時差上映したりします。
ハリウッドの三幕主義
シナリオ入門―映像ドラマを言葉で表現するためのレッスン (別冊宝島 (144)) 書籍
時間 | 30分 | 60分 | 90分 | 120分 |
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三幕主義 | 1幕 | 2幕前半 | 2幕後半 | 3幕 |
起承転結 | 起 | 承 | 転 | 結 |
上記の本(前半のシド・フィールド)の受け売りですが、ハリウッドの映画はだいたい状況・葛藤・解決の三幕の構成になっています。ミステリーでもSFでもファンタジーでも西部劇でも、ジャンルに関わらず同じ構造になっています。
最初の30分は状況設定を描き(更に最初の10分で展開を暗示する)、30分前後で主体を葛藤させる問題が明らかになります。次の30分でそれを解決しようとあれこれ行動しますが、必ず失敗します(もし解決したらすぐ終わってしまう)。60分前後で解決の糸口が見つかり、次の30分で謎が明らかになったりボスの元に向かったりします。90分前後がクライマックスで、その後はエンディングに向けて一直線です。
もちろんそうでない構成もあります。例えばフランス映画は違います。ちなみに極端な例では、ウォーホルの『Sleep』という前衛的な映画の上映時間は8時間ですし、三幕の構造もありません。しかしハリウッド映画が成功しているところを見ると、この構成法はかなり強力だと言えます。しかし、古典演劇における三一致の法則のように、あるいは音楽のコード進行のように、永久不変に続くものでもないのかもしれません。
小ネタ
学生割引
映画の学生割引の目的は、PCアプリのアカデミックパッケージとは違っています。アプリの場合は、習得コストが高いので、まず学習させて引き続き使ってくれることを狙っています。映画の場合は、学生は時間が余っているが金がないからです。敬老割引も同じ理由です(金はあるか)。子供の割引は、子供が必ず親を連れて来るのでペイします。カップルを割引にしてもいいでしょう。
映画のテーマ
そしてこれは内容にも関連してきます。邦画はだいたいアニメ・怪獣ものなど特撮映画(子供向)か、『男はつらいよ』や『釣りバカ日誌』(年配向)のようなものか二極化しているでしょう。たまに日本や中国の壮大な歴史を映画化するのは、スポンサーが格好付けたいからで、関係各位は前売り券を押し付けられますが、結果はたいてい(大)赤字です。映画制作は配給会社がぼったくるのと制作費がかさむので金が掛かるのです。
レンタルビデオ
それでも近年レンタルビデオが普及し深夜でも見れるので、他の層に向けた映画も流通できるわけです。レンタルビデオに押されて、小さく古い映画館も多くが閉館しました。それを上記の本で唐沢商会(唐沢俊一&なをき)が切なく書いていましたが、同時に、ゆで卵一個500円取るぼったくりラーメン屋台も潰れてくれれば嬉しいとも書いてました。
映画館の上映では元を取れず、テレビ&レンタルビデオでようやく制作側が元を取れるという場合も多いです。そういう風にメディアミックス主体になってくると、作品の形式にも影響します。
具体的には、シネスコ(横長の画面)が廃れたり、ビスタフレームでも考えて撮るようになります。どういうことか。TVの比率は決まっているので、映画の横長の画面は両端が切れてしまいます。それでTV放送のときに編集したりします。そのとき一人映らなくなったりします。あとCMを入れるためにカットしたりします。
切り返し
「ユリイカ2006年1月号」拙稿における映画/漫画用語の混乱の問題
最後にマンガとの関連で切り返し(この語は映画と漫画で意味が違い複雑ですが、上のエントリで説明されています。とりあえずここでは画面を反対側の視点に移す、位の意味です)の話題を一つ。マンガ関係の本を見ると「切り返しは人物の位置関係が反転して分かりにくくなる」とか書いてあって、間に背景のコマを挟むとかするべきとしてあるんですが、これは迷信ではないかと思います。もちろんへたくそな切り返しだと混乱するでしょうが。
ドリフのコントみたいな光景を想像してほしいのですが、映画で安いセット(壁が四枚ない)を組んで撮影する場合、反対側を撮りたくても撮れないのです。マンガはそんな制約はないので、可能性を追求してほしいです。ただし、編集者が判断基準に使っていて、それで落とすことはあるかもしれません。