映画『バトル・ロワイアル』 ――孤島で生徒が殺し合うバイオレンス・アクション

概要

バトル・ロワイアル [DVD]

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情報
紹介

大人の自信を取り戻すため可決された新世紀教育改革法「BR法」それは、全国の中学3年生から選ばれた1クラスの生徒たちを無人島に集め、最後のひとりになるまで殺し合いをさせる残酷なサバイバルゲームだった。

ある日突然、42人の生徒に強制される殺し合い。歯向かえば容赦なく消され、おびえ怒りながらも与えられた武器を手に、自分たちの命をかけた殺戮(さつりく)ゲームの幕を切る。初めて味わう死と隣り合わせの極限状態で、夢、希望、願い、友情…さまざまな自分の思いと向き合いながら武器を抱えて走る彼らの姿に、凝縮された青春像が垣間見れる。

また、ビートたけし演じる中年教師をとおして居場所のなくなった大人の憤りと寂しさも十分に伝わってくる。情けない嫌われ者教師からヒトラーさながらの冷徹殺人司令官、そしてラストに本当の心情を見せる中年男への変化をビートたけしが圧倒的な存在感で演じているのも必見。(中山恵子)

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

 新世紀、自信を失くした大人たちは、子供たちを恐れて、「新世紀教育改革法」(通称“BR法”)を制定した。

 その法律に従い、年に一度、全国の中学校から1クラスが対象に選ばれる。そのクラスの生徒は、無人島に送られ、爆弾付きの首輪を装着させられる。そして、制限時間の3日間、最後のひとりになるまで、殺し合いをさせられるのだ。

 その「バトルロワイアル」に今回選ばれたのは、城岩学園中学校・3年B組の生徒たち。元担任だった教師・キタノ(北野武)が、ビデオをもとに説明する。そして、食料と武器をつめたバッグを、生徒にひとりずつ渡して、ゲーム開始。

 極限状態に追い詰められた生徒たちは、殺し合ったり、自殺したり、管理側に抵抗しようとしたり、様々な行動をとった。そのような中で、男子生徒・七原秋也(藤原竜也)は、女子生徒・中川典子(前田亜季)を守るため、武器を取ることを決意。転校生・川田章吾(山本太郎)とともに、島から脱出しようとする。

 だが、その行く手に、もうひとりの転校生・桐山和雄(安藤政信)が立ちはだかった。マシンガンを持った彼は、次々と生徒を殺害しており、非情な強敵だ。はたして、誰が島から脱出できるのだろうか……?

解説

孤島で生徒が殺し合うバイオレンス・アクション

 殺し合いの代名詞に「バトロワ」がよく使われるように、日本のデス・ゲームものを代表する作品。公開当時、メディアで物議をかもした話題作だ。バイオレンスシーンが多いことから、R-15指定付き。しかし、思ったほど露悪的ではなかった。

 まず、バイオレンスではあるが、スプラッタ色は薄い。描写のグロテスクさなら、たとえば、『CUBE』、『SAW』、両シリーズのほうが上回っている。手榴弾をくわえた生首にはさすがに驚いたが、全体的にカラッとしていて、見るのが苦痛なグロ描写は少ない。

 ようするに、ヤクザ映画のようなもので、人がポンポン死ぬが、痛みは感じさせない。だから、見ていて爽快感すら覚える。たしかに、中学生が殺し合う設定だけ見ると、問題かもしれないが、その中身は問題作というより娯楽作だ。撮り方にエンターテイメント色が強い。

 また、少年犯罪といった社会問題を想起させるため、子供をモンスター的に悪者にした内容かと、見る前は思っていた。しかし、実際に見ると、どうみても大人のほうが悪い設定なのだ。もし、この映画を見て学べるとしたら、それは命の大事さではなく、腐敗した社会の理不尽さだろう。

 だからといって、ただ何も考えずに見られるB級アクション、というわけでもないと思う。詳しくは後述するが、あの北野武が出演したことによって、B級の枠に収まらないテーマ性やメッセージ性を発している。つまり、北野が出ている部分が、北野映画になっているのだ。

戦争の箱庭化

 BR法の設定は荒唐無稽だが、それでも、時代や社会の反映を読み取ることは可能だろう。「大きな物語」の終焉、という図式を当てはめれば、大きな戦争(世界大戦)の記憶が忘れられて、小さな戦争が繰り返される。本作には、そのようなイメージを感じた。

 一言でいえば、「戦争の箱庭化」とでも言えるだろうか。戦時中の日本における戦争とは、決して箱庭などではなく、国民共通の問題だ。戦後、戦争映画はその体験を描いた。しかし、戦争を知らない世代も出始め、戦争体験の継承に断絶が生じるようになってくる。

 たとえば、ヤクザ映画の隆盛が、その代替の機能を果たしていたかもしれない。だが、ヤクザのマフィア化によって、ヤクザも身近な存在ではなくなっていく。リアルな暴力の経験がなくなると、暴力表現も変わってくる。

 そこで、失われた暴力や恐怖への想像力を、箱庭にシミュレーション化して描けば、本作や『リアル鬼ごっこ』、または『デスノート』といった作品になる。あるいは、暴力や恐怖をファンタジー化して描けば、『リング』や『呪怨』といったJホラーになる。

 さらに、マニアックな領域にも目を向ければ、たとえばノベルゲームでは、「伝奇」という形が好まれる。昔の神話や伝説から、イメージを借りてくる、という特徴はある。が、『Fate』にしろ『ひぐらし』(祭囃し編)にしろ、「戦争の箱庭化」という大きな枠組は変わらない。

 したがって、真に恐ろしい問題は、戦争の記憶が風化して、やがてまた繰り返されるかもしれない、ということなのである。

声を乗っ取る殺人者

 演技面に目を向けよう。クラス生徒が40人もおり、そのほとんどは、名前どころか顔も覚えられないうちにすぐ死んでしまう。しかしたとえば、千草貴子を演じる栗山千明は、印象に残る。それを見たタランティーノは、『キル・ビル Vol.1』に出演させた。ちなみに、ビデオのガイド役で、宮村優子カメオ出演している。

 そうした多数の中から、あえて桐山和雄を演じた安藤政信に注目しよう。彼は地味に良い仕事をしている。その最大の功績は、演じる安藤自らの希望で、台詞を消させた、というのもの。当初、「俺は俺を肯定する」などという桐山の台詞が、台本にあったようだ。小説ならまだしも、映画では浮く台詞だ。

 そのような経緯で、桐山はひとり無言であるため、彼にしかない迫力が生じた。とくに、銃で撃った女生徒の断末魔を、スピーカーで他の生徒に聞かせる場面が、印象に強く残る。他者の声を乗っ取り、無言のまま意思を伝達する彼は、『千と千尋』のカオナシのように不気味だ。

 無言という選択は大正解だろう。ただでさえ映画は尺の制約が厳しいのだから、生徒の人数を減らすことは、本作の重要な課題になる。そこで、桐山が無言で人数を減らすことで、中だるみせずにテンポよく進む。彼は、最もコストパフォーマンスがよいキャラクターなのだ。

昭和的な深作欣二、平成的な北野武

 そして、キタノを演じる北野武の存在感は圧倒的。40人いる生徒を喰ってしまった。芝居が上手いわけではないが、場の空気を支配している。彼はたんなる出演者ではない。北野映画を背負った、歩くジャンルなのだ。

 さらに、北野武は、一出演者に過ぎないにも関わらず、監督をも喰ってしまっている。たとえば、「走れ!」と画面に大書きされた、深作監督のメッセージは、いまひとつ伝わってこない。自殺した秋也の父親が、トイレットペーパーに書いた、「秋也ガンバレ」のように、空回りしている感じがした。

 それに対して、キタノの怒りは、映画という枠組を超えて伝わってくる。設定自体にリアリティはない。が、壊れた世界での狂った行動を通じて表出される、ヒステリックな気持ちはよく分かる。バトロワの世界もキタノの行動も、まるで荒唐無稽だが、そのありえなさを通じて、怒りや絶望が伝わってくる。

 というと、あの有名な「殺し合いをしてもらいます」というセリフとか、ナイフ投げのシーンを想像するかもしれない。しかし、実際に見てみると、それよりも水鉄砲のシーンのほうが驚いた。死を覚悟しているからだ。そして、傷つけることに覚悟を持てという、娘へのメッセージは、個人的に引っ掛かるものを感じた。

 これがたとえば、藤原竜也演じる七原秋也の「なんでみんな殺し合うんだ!」というシーンだと、劇的なカタルシスは感じるが、心に深く引っ掛からなかった。それは、彼のセリフが本質的には観客の代弁だからだ。対するキタノのセリフには異物感がある。

 深作のメッセージには、どこか昭和的なロマンへの羨望を感じた。たとえば、「走れ!」はプロパガンダの手法だ。だから、今の観客に伝わらない。対して北野は、平成のアイロニーを体現している。水鉄砲はパロディの手法だ。さらに言えば、キタノという存在自体が、教師のパロディだ。現担任は死んでいるのだから。

 キタノ/北野は、大きな物語が失われた世界で、他者とのディスコミュニケーションの中で、その断絶や諦念を受け入れている。そして、パロディという形で、その断絶を逆用して、コミュニケーションしている。だから、逆説的にメッセージを伝えることができるのだ。

 最後に、しかし、そのような時代を反映したせめぎあい、制作者と演技者の間でもうひとつの「バトル・ロワイアル」がある、というのはなんとも面白い。そもそも北野武を出演させた深作監督の判断が正しかったということだ。そして、そのようなせめぎあいが、「バトロワ」ものとひととくりにされる、他の作品群に欠けているものなのである。

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