映画『インプリント ぼっけえ、きょうてえ』 ――海外進出したJホラー、地獄絵図を描く

概要

インプリント~ぼっけえ、きょうてえ~ [DVD]

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情報

『インプリント 〜ぼっけえ、きょうてえ〜』(劇場版)(情報サイト)

紹介

13人のホラー映画の巨匠が“最恐の称号”を賭けて競作した「マスターズ・オブ・ホラー」シリーズの既発BOXの単品化第1弾。小桃という女を探し浮島の遊郭を訪れたアメリカ人記者が恐怖の夜を体験する、三池崇史監督作。

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

 明治時代の日本。アメリカ人記者・クリス(ビリー・ドラゴ)は、女郎・小桃(美知枝)の行方を探し求め、各地を放浪していた。

 ある日、川中の浮島にある遊郭を訪れる。彼はなりゆきで、客引きをせず部屋の奥で座っていた女郎(工藤夕貴)と一夜を過ごすことに。

 その女は、顔の右側が上に引きつっていた。彼女は「ウチの顔、ぼっけえ、きょうてえ(岡山地方の方言で、とても怖いという意味)じゃろ……」と言った。

 彼女は、自らの悲惨な身の上と、小桃の行方について話し始めたのだった……。

解説

海外進出したJホラー、地獄絵図を描く

 もともと、アメリカで放送するために制作された映画なので、全編に渡ってセリフが英語(日本公開分は、日本語字幕付き)となっている。ちなみに、原作者の岩井志麻子が、小桃を拷問する女郎の役でカメオ出演している。これがハマリ役で、並の役者以上に雰囲気を出していた。

 本作はいわく付きの作品で、まずアメリカで放送中止になっている。日本でも、映倫で審査適応区分外の扱いとなり、ほとんど一般上映できなかった。放映された場合でも、R-15〜R-18の指定が付いている。以上のことからうかがえるように、グロテスクな表現やタブーに触れる表現*1が含まれているので、注意しておく。

 作中に出てくる地獄絵図が象徴するように、愛も正義も夢も希望もない、非常に悲惨な話になっている。辛口のホラーだ。また、日本が舞台だが、エキセントリックに撮られていて、ハリウッド版日本のような印象がある。これは、同じ時代物のホラーでは、江戸情緒と恋愛を描いた『怪談』(2007年)と対照的だ。

 爪の間に針を刺す拷問シーン、胎堕された赤子を捨てるシーン、異形の「姉」が登場するシーン、これらは非常に強烈な印象を残す。そのせいで他の印象が薄くなっているが、この過剰な残虐さを差し引けば、デヴィッド・リンチの映画のような不思議な触感が残る。

 工藤夕貴演じる女郎の不幸な生い立ちに、同情できる部分はあると思う。が、あの残虐な拷問を見てしまうと、彼女の取った行動はやはり肯定しがたい。やりきれない感じの結末を迎えるが、逆に言えば因果応報的で、この手の物語では予定調和でもある。

 物語を語る手法にも目を向けよう。信頼できない語り手によって、同じ事柄に関する叙述が上書きされていく、という特徴を本作は持つ。これは一種のループ構造と見ることもできよう。

 そうした反復構造をとる意味はなにか。本作はいくつかの衝撃的な事実に重点があるが、その事実を際立たせる効果がある。女郎がクリスに最初に提示した話でも、外部から見て辻褄は合っているだろう。

 しかし、そこからさらに上書きすることで、事件の不可解さが浮き彫りになってくる。あまりにも異様な女郎の犯行動機、その存在感を強調しているのだ。

 本作は、ホラーの体裁を取りながら、人間の暗部を描いた問題作。地獄絵図をのぞいたような感覚が残った。

関連作品

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

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監督中毒

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*1:むしろ、放送禁止の要因としては、こちらのほうが大きいのかもしれない