映画『インプリント ぼっけえ、きょうてえ』 ――海外進出したJホラー、地獄絵図を描く
概要
- 出版社/メーカー: 角川映画
- 発売日: 2007/05/25
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情報
『インプリント 〜ぼっけえ、きょうてえ〜』(劇場版)(情報サイト)
物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
明治時代の日本。アメリカ人記者・クリス(ビリー・ドラゴ)は、女郎・小桃(美知枝)の行方を探し求め、各地を放浪していた。
ある日、川中の浮島にある遊郭を訪れる。彼はなりゆきで、客引きをせず部屋の奥で座っていた女郎(工藤夕貴)と一夜を過ごすことに。
その女は、顔の右側が上に引きつっていた。彼女は「ウチの顔、ぼっけえ、きょうてえ(岡山地方の方言で、とても怖いという意味)じゃろ……」と言った。
彼女は、自らの悲惨な身の上と、小桃の行方について話し始めたのだった……。
解説
海外進出したJホラー、地獄絵図を描く
もともと、アメリカで放送するために制作された映画なので、全編に渡ってセリフが英語(日本公開分は、日本語字幕付き)となっている。ちなみに、原作者の岩井志麻子が、小桃を拷問する女郎の役でカメオ出演している。これがハマリ役で、並の役者以上に雰囲気を出していた。
本作はいわく付きの作品で、まずアメリカで放送中止になっている。日本でも、映倫で審査適応区分外の扱いとなり、ほとんど一般上映できなかった。放映された場合でも、R-15〜R-18の指定が付いている。以上のことからうかがえるように、グロテスクな表現やタブーに触れる表現*1が含まれているので、注意しておく。
作中に出てくる地獄絵図が象徴するように、愛も正義も夢も希望もない、非常に悲惨な話になっている。辛口のホラーだ。また、日本が舞台だが、エキセントリックに撮られていて、ハリウッド版日本のような印象がある。これは、同じ時代物のホラーでは、江戸情緒と恋愛を描いた『怪談』(2007年)と対照的だ。
爪の間に針を刺す拷問シーン、胎堕された赤子を捨てるシーン、異形の「姉」が登場するシーン、これらは非常に強烈な印象を残す。そのせいで他の印象が薄くなっているが、この過剰な残虐さを差し引けば、デヴィッド・リンチの映画のような不思議な触感が残る。
工藤夕貴演じる女郎の不幸な生い立ちに、同情できる部分はあると思う。が、あの残虐な拷問を見てしまうと、彼女の取った行動はやはり肯定しがたい。やりきれない感じの結末を迎えるが、逆に言えば因果応報的で、この手の物語では予定調和でもある。
物語を語る手法にも目を向けよう。信頼できない語り手によって、同じ事柄に関する叙述が上書きされていく、という特徴を本作は持つ。これは一種のループ構造と見ることもできよう。
そうした反復構造をとる意味はなにか。本作はいくつかの衝撃的な事実に重点があるが、その事実を際立たせる効果がある。女郎がクリスに最初に提示した話でも、外部から見て辻褄は合っているだろう。
しかし、そこからさらに上書きすることで、事件の不可解さが浮き彫りになってくる。あまりにも異様な女郎の犯行動機、その存在感を強調しているのだ。
本作は、ホラーの体裁を取りながら、人間の暗部を描いた問題作。地獄絵図をのぞいたような感覚が残った。
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*1:むしろ、放送禁止の要因としては、こちらのほうが大きいのかもしれない