あずまんがの謎を解読する

あずまんが概要

題名の由来

作者の名前から。ただし本人が提案したわけではなく、
作品の開始直後に「やなタイトルだな…」(ゆかり)。
しかし直截であるが印象深く成功したタイトルだろう。

位置づけ

あずまんが大王に関してはよく、萌え四コマの源流で、
ポストエヴァの平板な日常を描く萌え化のメルクマーク
のように言われる。そこで萌えがテーマのこのブログでは、
改めてあずまんがに関する諸問題を分析することにしよう。

あずまんがの謎

  • 主人公は誰か
  • テーマは何か
  • ちよ父の存在


最初に三つの謎を提起し、作品の中心となる骨格を見た後で、
キャラクターデザインに関する細部に迫っていくことにする。
なお、作者がどのように意図して設定したのかは関係がない。
(例えば水原暦の設定はToHeart保科智子の影響だとか)
ここで読み解くのは、まさに作品の構造であり無意識である。

あずまんがの主人公は誰か

『ドラえもん』の主人公はだれか 主人公論2


あずまんがは四コマということもあって、並列的にキャラクタを描いている。
それでもあえて主人公度が一番高いキャラクタは誰かと言えば、榊である。
話を短くするため、ここでは『ドラえもん』の主人公はドラえもんではない、
という以前やった話を前提にする。あずまんがでは、榊がのび太(一般者)で、
ちよがドラえもん(特異者)に相当する。榊からちよを見る視点が物語の視点だ。


ちよから榊を見るストーリーなら大人を目指す話になるだろうがそうではなく、
純粋な幼児的世界に退行したいというノスタルジックな願望が全体を貫いている。
だから恋愛(性)・闘争(暴力)は他のマンガと異なり徹底的に抑圧されている。
その構図を、榊のカッコイイよりカワイイが強いというセリフが強調する。
(追記:もちろん榊の欲望と葛藤は、読者であろうオタクを反映している。
 そして、ちよが海外へ留学してしまうのは、夢は永遠に続かないからだ)


これだけでは納得できないだろうから、榊が主人公である理由を追加しよう。

  • 榊だけが他者が気付かない内面と葛藤を描かれる。
  • 榊だけがライバル(神楽・最初期のとも)を持っている。
  • 榊だけがヒロイン?(かおりん)を持っている。
  • 榊だけが脇役(かみねこ・ちよ父等)と(最初の)関係を持つ。
  • 榊だけが明確に目標を持ち、成長する(後述)。

だから榊を中心人物に据えると、物語が分かりやすくなる。

あずまんがのテーマは何か

主題は、「榊が本当のネコを見つけること」。


榊は獣医を志望しているので、文字通り目標である。
意外なことにあずまんがにも成長物語があったのだ。
初期は捨てられた仔猫をなでようとして逃がしてしまう。
そして物語後半、イリオモテヤマネコに出会う。


榊に噛み付くかみねこは、段々凶暴化するが、
終盤ではイリオモテヤマネコの前で逃げ出す。
最後に、榊「ごめんな…今までむりになでようとしてた」と
言われ、大人しくなる。これがドラマにおける変化である。

ちよ父の存在について

「君は本当のネコを探すんだ。今の君には無理だが」(榊の夢)
「(イリオモテヤマネコを見て)…お前が本当のネコか?」(大阪の夢)


(もともとこれ自体がユング〜キャンベルの影響を受けているのだが)
スターウォーズにおける老賢人ヨーダのごとく、主人公の榊を導く
ちよの父の存在とは、つまり榊にとっての超自我の代理物である。(後述)
超自我は、自分では気づかない欲望をなぜか知っていて、それを教えてくれる。
榊の夢で出てくるのは投影しているからだ。対してちよは夢を見られない。

あずまんが精神分析

代理・転移

かみねこはなぜ榊を噛むのか。
なぜそのような設定になっているのか。
周囲が榊を理解できないように(不良と誤解している)、
榊が猫を理解できないのだ。
一方神楽はなぜかみねこに噛まれないのか。
神楽は榊を誤解しないからである。


ちよ−忠吉と神楽−かみねこもそうだが、
このような構造の継承は随所に見られる。
榊(冷静)−神楽(活発)
暦(冷静)−智(活発)
みなも(冷静)−ゆかり(活発)
上の関係は「猫・甘味・酒」
という物を通じて反転しうる。

超越・偶像・媒介

もう少し(想像上の)ちよの父について述べておこう。
ちよの父は作者の肖像でもあるが、
まず空を飛ぶのは典型的な超越者の能力だ。
具体的には幽霊や天使などで表象される。


そしてちよの父の娘であるちよも、夢の中で、
ツインテールを羽ばたかせて飛ぶことができる。
大阪もツインテールを継承して飛ぶことができる。
(Oranges&Lemonsの歌うアニメEDが印象的)


つまり大阪の夢の中で、ちよを操っている
あの丸い物体の正体は飛ぶための翼である。


ちよは唯一飛び級で年齢が違うし、
留学で海外へ飛び立ってしまう。
かなり非現実的な設定だが、
幻想の力学には沿っている。


ちよ父はまた大阪の夢で、「鳥ではない」と言い、
ペンギン(飛べない鳥)もちよのコスプレと
榊の夢の中でのちよのお手伝いとして登場している。


榊がちよの父を帽子にしたことを咎められたのは、
超越者を偶像化してはいけないということだろう。
榊がちよの父の帽子を被るのは無意識のポリシーを示す。
さらに例外的な男キャラで、かつ変態的性欲を持つ木村が、
帽子を被るのは、超自我の偽の代理物(反理想)ということだ。

抑圧・回帰

木村は登場人物のうち、唯一結婚して子供がいる。
全体が(榊の願望であるところの)幼児的な世界に退行した
この作品世界では、木村は不気味なものとして現れる。
だが、木村が実はいい人ではないか、と描写される。
これは榊が周囲に誤解されているのと同じ構造だ。投影である。


ちよが食べる赤いトマトは何だろうか。
野菜は生命力であり、赤は血に結びつく。
つまり、この作品では徹底的に性が抑圧されているが、
女性の生理的なものが夢の中で回帰しているのだ。

飛行夢(そらとぶゆめ)

空を飛ぶ夢が何を表すのかを考えてみよう。
この空とは、言語空間である。*1
(ただし、私は二足歩行の経験も影響しているのではないかと考える)


言語を習得する前の赤ん坊にとっては、大人が空気中の音(言葉)を
交わすだけで互いの行動を操るのは不思議だ。われわれには自明だが。
自分の人生の転機でよく現れる空を飛ぶ夢は、
人生の最初で最大の試練である言語の習得を
象徴したものだ。その回想で無意識に勇気付けられる。


榊にとって、ちよが飛ぶのは何を意味するかというと、
自分と周囲の誤解や、自己の目標との断絶を飛び越える、
という願望を投影している。だからEDの飛行しているちよは、
当然ちよの視点ではなく、榊の視点から見たものなのである。
「アイウィッシュアイワーアバード」(ちよ父)なのである。


もちろん元々ちよの飛行は大阪の夢だが、榊からちよの父の話を
聞かされると、すぐ納得し、大阪の夢にちよの父が
転移しているように、大阪には媒介する能力がある。
ちなみに榊を夢から覚ますときに大阪が登場しているし、
ちよの父の姿をしたぬいぐるみをちよにプレゼントする。
唯一地名で呼ばれるように、外部から来た特殊な存在であり、
(神戸に住んでいたという設定は作者の出身から)
その巫女的な性格は、なぞなぞを解くとか、
寝ぼけて包丁を持つとか、しゃっくりを転移させるとか、
お守りに念を込めるという非常に希釈された形で示される。

あずまんが構造分析

登場人物の役割
  • 榊 主人公
  • 神楽 ライバル
  • かおりん ヒロイン
  • 美浜ちよ 偶像(理想の投影)
  • 春日歩 超越者との媒介者
  • 水原暦 主人公の変形
  • 滝野智 ライバルの変形
  • 黒沢みなも 主人公の変形2
  • 谷崎ゆかり ライバルの変形2
  • 木村 反理想(トリックスター
  • ちよの父 超越者
  • 本当の猫 主人公の目的
  • かみねこ ツンデレ(ライバル/ヒロイン)
髪型

キャラデザにおける髪の法則
髪の量と自意識の量が比例している。
また一般化はできないが、この作品に限り、
身長の高さがポジション(親しみやすさに反比例)を表す。

文字

一般化はできないが、この作品においては
文字がそのまま人物のグループになっている。
もっとも、このアナグラムの分析は蛇足に過ぎない。


漢字は内面的、ひらがなは外面的な存在で、
榊はクールなので漢字の苗字だけ、
逆に夢見がちな、かおりんはひらがなの名前(あだ名)だけで、
二人は互いに真に理解できず文字通りにすれ違う。


実はかみねこは神猫と当て字ができ、
榊の投影物であることが明らかになる。


榊と神楽とでは神と木の字が共通している。
暦と智では日の字が共通している。
大雑把にまとめるとこうだ。
木…榊・神楽・水原暦・木村
日…神楽・春日歩水原暦滝野智
木が二つあると眼鏡を掛けており、
ボンクラーズはどれも日が入っている。


この木と日の由来について一応考えてみると、
作者の「東清彦」を分解すると…東→日+木