「場所立ち」と日常系・空気系・世界系

前回の整理

樹海エンターテイナー:『空気系』記事のまとめ
萌え理論Blog - 「空気系」の定義

  • 物語の目的が薄い
  1. 人が死なない
  2. 性行為がない
  3. 読者が爆笑しない


前回示したこの基準は、バトル系マンガや成年コミックなど、空気系に分類すると違和感があるものを除外することができるから、無意味な区分ではない。しかし、それだけでは多くの四コママンガも空気系に分類されてしまい、『サザエさん』『コボちゃん』など、有名な作品が入ってくる。しかも、単に内容の薄い作品も分けられてしまう。そこで今回は、分類の精細度をさらに上げて、より細かく階調を見られるようにしたい。

場所立ち

  • 物語の場所が深い


「キャラ立ち」と対の「場所立ち」なる概念を導入する。「場所」は狭義の地理的空間だけでなく、いわゆる設定や世界観まで含めることにしよう。要するに設定や世界観が深いということだ。深さの基準が問題になるが、さしあたって読者の印象が深いという位のことで構わない。これで平凡な日常を描く四コマと空気系を区別することができるようになった。


次にキャラの設定と場所の設定の違いを考える。もちろん、キャラの設定と世界観の設定が全く別々にあるわけではないが、例えば、『Kanon』の月宮あゆの羽はキャラの設定で、『灰羽連盟』の羽は世界観の設定と分けられる。なぜなら、主人公ラッカの登場に先行した形で灰羽が存在しており、灰羽は一人のもの・特定のキャラの特徴ではないからだ。

  1. 背景が描かれている
  2. 設定が特徴的である
  3. 世界観を感じられる


この定義からも派生条件を挙げておく。「背景」というのは、まず文字通りの背景画を指す。背景が真っ白の同人誌には、雰囲気があってもその世界の空気感まではない。次に、物語や人物の背景も指す。設定が特徴的というのは、まず単純に設定がかぶらないこと。例えば『ココロ図書館』の図書館という舞台はそうゴロゴロ転がっているわけではない。世界観を感じるというのは抽象的だが、読者が作品に描かれていない部分の想像をかき立てられるかどうか*1、が基準になるだろう。一言で言うと「空気がおいしいかどうか」といったところか。

日常系・空気系・世界系

日常系 空気系 世界系
物語の目的が薄い ×
物語の場所が深い ×


↑世界
ひぐらし
ハルヒ*2
―――「目的」があるか
ほしのこえ
(↑重い空気系)
灰羽
ARIA
(↓軽い空気系)
あずまんが
―――「場所」が立つか
サザエさん*3
コボちゃん
↓日常


「場所立ち」の概念を加えたことによって、主体より環境が前景化した作品群をスペクトルで見ることができる。補足として、境界部分を説明する。あずまんがは普通の四コマに近いが、ちよ父関連の設定*4によって、ぎりぎり空気系に入っていると考える。


重い空気系と世界系を分ける基準について示そう。前回言及したハルヒは、ハルヒが世界の命運を握っており、物語と主人公の目的があるので、やはり空気系より世界系(セカイ系)に分類できそうだ。特に朝倉がキョンを襲う場面で一線を越えたと思う。対して『ほしのこえ』の場合は、主人公にできることが実質的にない。

*1:日常四コマはわれわれの日常をベースにしているので簡単に想像できるが、その分興味自体が薄れる

*2:「溜息」など回によっては空気系にクラスチェンジ

*3:『磯野家の謎』を装備すると空気系にクラスチェンジ

*4:サザエさんではちよ父に相当する存在がいない。あえて言えば、「波平の夢枕に立つ先祖」が一番近いと思われるが、不穏な空気は作り出さない