『うみねこのなく頃に』EP8・戦人犯人説の成立条件と問題点

概要

注意:以下、『うみねこのなく頃に散 Twilight of the golden witch』(EP8)の内容に触れています。


 『うみねこのなく頃に散 Twilight of the golden witch』(EP8)については、戦人犯人説を採用するとその見方が全く変わる。それは、レナの「嘘だっ」で一変した『ひぐらし鬼隠し編をどこか彷彿とさせる。

 前の記事では箇条書きだったが、戦人犯人説が成立する条件を詳しく見ていく。そして、戦人犯人説が成立する条件と、成立したとして発生する問題点を見ていきたい。

(EP8版)戦人犯人説の絶対条件

戦人くんは犯人ではありませんよ。戦人くんは誰も殺してはいません。これは全てのゲームにおいて言えることです。
(『うみねこ』EP5でのワルギリアの赤字)


 そもそも、『うみねこ』本編でも軽く触れられているように、ネットの考察では以前から戦人犯人説が挙がっていた。しかし、初期のものとEP8での戦人犯人説とでは、犯人の定義が異なる*1

 まず、ここでいう(EP8版)戦人犯人説における犯人とは、各EPのゲーム盤の犯人ではなく、ゲーム外の現実(実在した1986年の六軒島)での犯人と定義する

 また、現実に対しては赤字(と赤字を通じて適用されるノックス十戒とダイン二十則)が適用できないことと仮定する。その条件がなければ、戦人犯人説は成立しない。

 なぜなら、上にあるように赤字で“(現実ではなく)ゲームにおいて”犯人でないと宣言されているからだ。

 赤字が有効ならば、戦人はゲーム盤内の犯人ではありえない。もし犯人だとすれば、ゲーム盤外の犯人でなければならない。

情報の確定性条件

 戦人が現実の犯人であり赤字の適用を免れているというのは、戦人が犯人であるための最低限の条件になっている。そのような必須条件ではないが、確証性が高まる条件が他にもある。そこで、情報の確定性、という条件をひとつ挙げよう。

 たとえば、EP3以降の偽書は八城十八(幾子+戦人)によって執筆されているらしい。EP3の偽書は、絵羽が犯人で、戦人が犯人でない、という印象を与えている。また、EP8では縁寿を真実から遠ざけるように誘導している。犯人の戦人に有利な記述だ。

 だがもし、今後EP9が出て、それらは別人が書いた偽書だと、上書きしたとしよう。すると、戦人犯人説を煽った戦人以外の記述者が犯人、という可能性が高くなってしまう。

 まあ、情報を後出しすれば崩れる、というのは誰が犯人でも言えることではある。ただ、戦人犯人説には赤字などの制約がないため、情報の後出し、特に現実と虚構の境界が重要な条件になってくる、ということも言えるだろう。

 そこで、偽書周りの設定がEP8時点で固定されている、という情報の確定性が必要になるのだ。ちなみに、この辺りはいわゆる「後期クイーン問題」の領域になるだろうが、本題からそれて煩瑣な議論をすることは避けたいので、深く立ち入らないことにしたい。

戦人犯人説の問題点

 戦人犯人説は面白そうだが、採用したときの問題点もある。戦人は主人公(探偵、記述者)だから犯人であるべきではない、というフェアネスの問題はあるだろう。また、戦人が悪者であって欲しくないというファン心理的な問題もあるだろう。

 しかし、ここではそれらとはまた異なる角度から指摘したい。どういうものかというと、物語の有効な情報量が激減する、という問題があるのだ。

 かりに、戦人犯人説が真相だとしよう。すると、戦人犯人説に対しては全ての赤字が無効化するし、物語のほとんどの記述が無意味になる。情報の大半が戦人犯人説を隠すためのブラフになってしまう。

 『うみねこ』は『ひぐらし』と異なり、赤字によって推理可能性が確保されたと思われた。が、戦人犯人説ではその赤字が全て無効になり、一巡して最初の地点に戻ってしまう。これによって、推理可能性の問題がまた再燃する。

 戦人犯人説には、どこか虚無的なところがある。本編の幻想描写で、六軒島と黄金郷が虚空の奈落へ消えていくシーンがあるが、そのようなイメージに近い。

*1:両者を区別するために、EP8版を「戦人黒幕説」と表記してもいいかもしれない

『うみねこのなく頃に』EP8は戦人犯人説で見ると評価が変わる

概要:不満→仮説→反転


注意:以下、『うみねこのなく頃に散 Twilight of the golden witch』(EP8)の内容に触れています。ネタバレに配慮していませんので、プレイ後の閲覧を推奨します。

竜騎士うみねこのEP8を見せてくれた。
メダルを集め、紫字推理して、ガキンガキンガキン。
最後までゲームを進めると、そこには一なる真実がなかった。

さて、これは魔法だろうか? 手品だろうか?


 『うみねこのなく頃に散 Twilight of the golden witch』(EP8)をクリアした。このEP8の評価が非常に難しい。不満と、面白さの両方があるからだ。

 私はプレイして不満も募ったが、プレイ後に別の見方ができると分かると、急に面白くなった。さらに、その錯視図形のような反転構造そのものに興味が湧いてきた。

 具体的に言うと、EP8は戦人犯人説を採用することで、全く見方が変わるような構造をしている。それは、レナの「嘘だっ」で一変した『ひぐらし鬼隠し編をどこか彷彿とさせる。そこで、不満、仮説、反転の3つに分けて述べることにしたい。

不満:EP8=手品

  • 真実の隠蔽
    • 過去の真実にこだわるなという流れ
    • EP7ラストの「幻は幻に」やハラワタからあまり新情報なし
    • 4年に渡ってうみねこが展開して、犯人すら分からない
  • 赤字の否定
    • ラスト付近で赤字で宣言した死亡者が生き返る
    • 真実を保証してきた赤字が否定されるような流れ
  • 冗長な要素
    • メダル集めのクイズは楽しいが、本編にあまり関係ない
    • 紫字の推理ゲームは面白いが、本編にあまり関係ない
    • 幻想バトルは派手だが長いし、下位世界にあまり関係ない
  • 幻想の結末
    • 魔法エンドは、ここに来てまで幻想描写
  • 結末の中断
    • 手品エンドの方はすぐ終わってしまいお茶会もなし
    • バッドエンドとはいえ、すぐに終わってしまう
  • 読者批判(に読める部分)
    • 推理可能性に疑問 → 魔女に屈服!
    • 推理をしない読者 → エサを与えられるだけの怠惰な豚!
    • 推理をする読者 → 惨劇のハラワタを漁る下衆な山羊!
    • 読むのを諦める → 戦いを前に尻尾を巻いて逃げる卑怯者!
    • → ……どうしろと?

仮説:戦人犯人説

  • 概要
    • EP7でベルンが提示する次男夫婦犯人説に、戦人を加えたもの
    • たとえば、次男夫婦が戦人を説得できていた、というのがひとつの展開
  • 手口
    • 最後は爆弾で吹っ飛ぶので、殺害手段はほぼ無制限
  • 動機
    • 単純な財産目的、六年の勘当による右代宮家への恨み、ヤスへの恋愛・協力など
  • 多数の支持
    • もともと戦人犯人説が多かった(と本編でも言われている)
  • 赤字の解放
    • 赤字で戦人は犯人ではないとされたので犯人対象から外れた
    • しかし、戦人=十八が記述者だと分かって再浮上
    • 赤字はゲーム盤のみで現実に適用できないのではないか
    • 同様にノックス十戒やダイン二十則も現実には適用されない
    • 犯人でないとか「無能」という赤字がミスリードを誘う
  • EP1〜7の不審点・伏線
    • この戦人犯人説は、ゲーム内で戦人が犯人である必要はない
    • 現実世界でも縁寿は生き残るので、間接的に戦人が財産を手に入れられる
      • 絵羽が生き残ったのは誤算だった?
    • EP3は絵羽犯人説を煽るための偽書
    • EP4は縁寿に魔法を刷り込むための偽書
      • ただ、上位世界がどこまで偽書に書いてあるかは曖昧
  • EP8の不審点・伏線
    • 冒頭で縁寿に礼拝堂の日記を見せることを拒む
    • 戦人がフルハウスでいとこ組に勝利する
      • → 無能に見せて最後に勝つ男
    • モーターボートのシーン → 金蔵と同様に美化している?
      • ベアト人格の忘却や、戦人の記憶障害の装飾表現?
      • 実際は戦人がベアトを殺害している?
      • 実際はインゴットだけ落ちて、それを拾いに行った?
    • 縁寿に会わなかった → 記憶障害は嘘で時効を待っていた?
    • 福音の家で車イスから立ち上がった → 歩行障害も嘘?
  • 関連
    • ヤス=ベアト=幾子説
      • ベアトの入水は幻想描写(黄金のバラ→幻想)?
      • 黄金を事前に換金して、別荘を手に入れていた?
      • ミステリ好きなどの特徴の一致
      • 幾子=19子=19年前の赤ん坊の符合

反転:EP8=魔法

  • 真実の隠蔽 → 戦人の誘導
    • 戦人が縁寿を誘導して真実から遠ざけている
    • うみねこ4年間の最後の最後で、犯人が急浮上する
  • 赤字の否定 → 赤字の限界
    • 赤字は最後まで破れていないという解釈も可能では
      • 死者の復活は幻想、戦人の死は人格の死
    • 赤字はゲーム盤外部の現実には適用できない?
    • 赤字で戦人は犯人でないとか無能とすることで、ミスリードを誘う?
  • 冗長な要素 → 実は関係あり
    • メダル集めのクイズは戦人が縁寿に楽しい記憶を植え付けるためのもの
      • アーモンドは全てのケーキに入っていて、全員で口裏を合わせた?
    • 紫字の推理ゲームで、戦人犯人説を示唆
      • あっさり解かせるベルンや、犯人だと言われて反応しない戦人に違和感
      • 嘘が混じる紫字を使うことによって、赤字の限界(現実には適用できないこと)を示唆
    • 幻想バトルは、何万人ものウィッチハンターを騙した八城十八の無双を表現したもの
  • 幻想の結末 → 別の解釈
    • 魔法エンドでの黄金郷は、縁寿が魔法に囚われたままで、戦人の勝利エンド?
    • 戦人が黄金郷に行くというホラーエンドの可能性も全くなくはないか?
  • 結末の中断 → 続きを予感
    • 手品エンドでは、縁寿が戦人を追い詰めに行くような展開が後に続く?
    • ついでに小此木や須磨寺も撃退する縁寿無双の展開も?
  • 読者批判 → 作者ではなく登場人物の批判
    • 竜騎士ではなく縁寿を誘導する戦人がしているもの
    • 偽書などに収録されるなら)八城十八の読者批判

補足:謎と疑問は残る

 戦人犯人説を採用するとEP8に対して別の見方をでき、魅力的な解釈だ。物語記述者が仕掛ける叙述トリックというのは、ミステリの古典的手法のひとつだろう。

 ただし、戦人犯人説によってうみねこ全EPのつじつまが合うというより、むしろ、記述者であるため赤字を始めとする制約が関係なくなる、という方が近いと感じる。やはり謎と疑問は残る。

 戦人犯人説はネットにすでにあるので、今回は箇条書きで簡単に書いた。しかし、まだ解釈できる部分が色々残っていそうなので、また機会を改めて展開したい。

『うみねこのなく頃に』「EP7」感想・考察「EP8のエンディングをどうするのか」

概要

 07th Expansion 製作のPCノベルゲーム『うみねこのなく頃に散 Requiem of the golden witch』(以下「EP7」)についての感想です。魔王14歳さんが開催した「うみねこチャット」から、前エントリで書いた残りを整理して、ブログのエントリに起こしました。

警告:以下、『うみねこのなく頃に散 Requiem of the golden witch』(EP7)の内容に触れています。

うみねこのなく頃に』「EP7」感想・考察

  • 「EP8」のエンディングをどうするのか
    • ウィルの「幻は幻に」で謎解きが一応されて、「EP8」への最大の興味は、エンディングをどうするのか。
    • 「EP8」は、全滅EDにもできるし、生還EDにもできる。全員ではなくても、何人かが生還するくらいなら、無理なくできそう。
    • ただ、ここまで魔法=嘘・装飾を重ねてきたので、エンディングに説得力を持たせるのが難しそう。
    • ベルンがさんざん暴露してきたので、たとえばもし、戦人が金字で「みんなハッピーでした」とか「EP8」で言っても嘘臭い。
    • 「EP7」で殺し合う親世代が描かれているので、全員生還でハッピーエンドには、違和感が残る。
    • さしあたり、実は天草が戦人で、縁寿を守ってバトル、という辺りが無難でミニマムに収めたED。でも、それだけでは竜騎士氏が満足しなさそう。
    • もし「EP8」でハッピーエンドにするなら、黄金を捨てて全員生還するのが、王道的な展開か。
  • 「作者のホワイダニット
    • 「大きい猫箱」を用意して、戦人の帰還が1年ずれるとか、戦人が白馬に乗って来るとか、そうしたらあっさり全員生還EDにできる。納得できるかどうかは別として。
    • そもそも、夏妃が使用人と赤ん坊を突き落としたのは、偶然にも犯罪がばれない状況で悪魔が囁いたから、だったと思うが、それが起きない確率が約250万分の1、というのは恣意的。数字を出さない方が、まだ説得力があった。
    • カケラ紡ぎという可能世界の装置を持ってきた時点で、ハッピーエンドにするのは容易。だから、後は読者がどう納得するかという、犯人ではなく、いわば「作者のホワイダニット」が残る。
  • 「ホワットダニット」
    • ゲーム盤上の犯人・手口・動機とは別に、この物語が本当は何なのか、偽書や魔法だとしても、それは誰の幻想なのか、という謎が最後に残る。その問題意識を私は「ホワットダニット」と呼ぶ。
    • うみねこ」は、赤字以外は自由に嘘がつけるシステムなので、語り手が嘘をつくことで本当は何をしたいのか、という問題が生じる。
    • たとえば、真里亞のボトルメールは魔法の話、八城の偽書はその魔法を暴く話、戦人がGMの「EP6」は優しい話(殺人は狂言)になるとか。いずれも語り手の意識が反映している。
    • 全く魔法で装飾されていない真相、生の事件現場を最後に描くのかどうか。
    • ゲーム盤の外部がどうなっているか。たとえば、「EP3」の98年が現実だとしたら、「EP1」「EP2」のボトルメールについて、少なくとも絵羽殺害に関しては、虚偽だとすぐ判断できる。
    • 描いた分量からして、「EP3」の98年が最も現実味を感じる。だが、猫箱を大きくすると、絵羽が生存していない現実、というのもありえるのか。
  • ヤスの正体
    • ヤスの正体は紗音が本命だろうが、年齢的にヤスになれる嘉音、朱志香、(偽)戦人らにも、まだ可能性はある。
    • もし、ヤス=朱志香だとしたら、貴賓室の怪談の話は、上手いミスリード
    • 「EP7」まで来て、ほとんどの人物が黒くなったが、朱志香は真っ白いまま。単なるブラフ用キャラかもしれないが、少し怪しくも感じる。
    • 金塊抱き込みによる共犯システムが露見した以上、親世代や使用人の誰が黒幕でも、意外感があまりない。
    • なぜ朱志香が怪しいかというと、いとこ組の中で朱志香だけが六軒島に住んでいて、紗音と同等の知識を得られるから。便利なポジションにいるので、やろうと思えば色々できる。たとえば、屋敷に仕掛けをするとか、ベアトリーチェの怪談を広めるとか。
    • 霧江が、朱志香の顔面を潰しているあたり、すごく胡散臭い。 前EPで霧江と朱志香の組み合わせで戦ったことと言い、何か含みを残している感じ。
    • クラウスと夏妃の不妊話があるので、朱志香の出生が絡めば、霧江との因縁は生じる。たとえば、ルドルフが朱志香の父親だとか。
    • 朱志香(と夫の男系の子)が次期当主になるのに、なぜか軽視されている。それに、朱志香は金髪だし、ベアトに似ている。金蔵とベアトの娘である可能性も残る。
    • ただ、真里亞=レナのように、朱志香=魅音も、初期ブラフの役割を終えた空気キャラ、という配役もありそうなところ。
    • それに、ノックス十条で、手がかりなき変装を禁じている。ノックスが全EPに適用されるかは不明だが。紗音−嘉音の入れ替わりは、さんざん伏線を入れているが、朱志香が紗音に変装するのはどうか。
  • 幻想キャラの正体
    • 幻想キャラの正体も、決着がついていない。ガァプの本体が誰かとか。
    • ガァプの本体が朱志香だったりすることも、ありえなくはない。
    • 七杭でさえ、杭だけではなく、使用人のモデルがいた。ガァプだけ純粋な想像というのは、少し引っ掛かる。
    • 自然現象はゲームで変えられないので、ラムダ=台風説は有力。
    • 天草が戦人っぽいので、八城が真里亞だと、スッキリする。真相を完全に知らなくても、アウアウは生き証人だから、ベルン=ボトルメールより上位になる。
    • 山羊は、爆弾の爆風か。爆弾というのが、一瞬にして全てを吹き飛ばすのではなく、段階的に爆発するタイプなら、山羊のような煙が追ってくるシーンを想定可能。
    • 黄金蝶のモチーフは、そのまま金塊なのではないか。ベアトの黄金伝説が一番のベース。シーンによっては、金塊による買収を魔法で装飾して描いた、という見方もできる。
  • 川端船長の怪しさ
    • 脇役の中では、川端船長は頭1つ抜けて怪しい。脇役の中では川端船長だけ、ここまで来て立ち絵が出ている。同一人物説によって島の定員を増やせば、川端船長が外部犯Xだとしても、赤字にもノックスにも抵触しない。実行犯になれる。
    • ウィルのイカリは、ウィルの本体が川端船長であることの証だとか。(SSVD(Steam Ship Van Dine)から、船→錨の連想でつけているのが本義だろう、という指摘あり)
    • 熊沢とワルギリアの例があるので、年齢は関係なく、若い頃の川端船長は、ウィルのようにイケメンだったとか。
    • 理御が、川端船長の協力を得て、絵羽と別ルートで生還していたりとか。
  • 「片翼の鷲」の紋章が付くルール
    • 源次が「片翼の鷲」の紋章を持っているあたり、まだ裏がありそう。紗音=嘉音がヤスと同一なら、片翼を継承することは自明だが、そのとき源次の存在が謎になる。(一応、金蔵直属の使用人は片翼をもらえるという設定はあるが)
    • 源次は、旧日本軍の残党とか、金蔵の親族とか、色々な余地がありそう。ただ、若金蔵と源次=ロノウェの髪の色からすると、親族という線は薄いか。
    • 幻想キャラの多くが、片翼の鷲を持つことに、何か深い意味はあるのか。できれば、片翼の鷲がつくルールに、一貫性があった方が良い。
    • たとえば、ボス級のベルンやラムダに片翼がつかないのに、なぜザコである山羊に片翼がつくのか。
    • 片翼の鷲の紋章は、クレルにはなくてベアトにはある。ヱリカが嫁ぐときにも、ドレスに片翼が付いた。幻想キャラであっても、やはり右代宮家と関係がありそう。
    • もしかすると、幻想キャラのうち、右代宮家の「家具」には、鷲がつくとか。七杭やウィンチェスターは家具だが、ガムテープやレシートはそうではない。
  • 動機に納得できるか
    • 「心をおそろかにするな」とウィルが言ったが、現時点で動機に納得できるかどうかはまた別。
    • たとえば、ヤスが殺人計画を立てた動機が、「EP6」のルーレットを回すためだったら、作品内の論理としてはよくても、現実的にはかなりシュール。
    • 単に金塊独り占めとか、右代宮家への復讐のため、という方が現実的な説得力はある。
  • 伏線の回収
    • 赤字ほど必須ではなくても、真里亞の薔薇とか、序盤の伏線を回収して欲しい。他にも、「EP4」で縁寿が見て驚いたものとか、ルドルフが戦人に「俺は殺されるかも」と言った伏線とか。
    • 金蔵の謝罪した途端に死亡、というのは幻想描写で、実際は殺していそう。赤字で「即死」だし。
    • 碑文の最後の4行も、どんでん返しの可能性が残っている。 理御=Lionが、碑文とか、ライオンの仕掛けとか、どっかに掛かってきそう。
    • エヴァンゲリオン=絵羽・縁寿・理御説を採用すると、たとえば理御も生還しているとか。 理御が天草だったりすると、辻褄は一応合いそう。
  • 人物の退行現象
    • 今回、理御とウィルがユーザに大人気だが、戦人と縁寿とか楼座と真里亞とか、レギュラーメンバーのドラマが、ほとんどなかった。
    • 戦人が悲しくない話をするという予告があったから、縁寿が「屑肉の山」のまま終わることはないだろう。が、真里亞が「精霊の子」のまま終わってしまう場合はありそう。そうしたら、救われない感じ。
    • うみねこ」がループ形式を採用しているために、真里亞という人物が、「EP2」ラストあたりをピークに、成長どころか退行しているように見えてしまう。
  • ひぐらし』との差異
    • 雛見沢症候群」が未知の病気なのに対して、多重人格は既知の病気で、本格推理でもよく使ってるし、フェアネスのレベルではOK。
    • イマジナリーフレンドというモチーフは、多重人格とそんなに大差ないように思える。たとえば、「狐憑き」とか言ってもいい。
    • ただ、多重人格というより催眠術に近く、複数人物間で共有できるとしたら、ゲーム性が変わってくる。
    • 雛見沢症候群と違って、意図的な嘘が入ってくる、というのは『ひぐらし』との差異。
    • ひぐらし』の羽入は意志を持つ存在だが、その力を弱めたのが『うみねこ』の幻想キャラだとすると、構造の改変が興味深い。
  • 例外的規則について
    • 黄金の真実=金字がその場の全員が認めた真実だとして、それがEP8でどう活かされるのか。それとも、EP5のピンチを切り抜けるためだけに金字を出した、で終わるのか。
    • ウィルが紗音に嘉音を呼ばせるときにバグるくだりは、「EP6」の青字禁止赤字や、『ひぐらし』の羽入による富竹尾行禁止と同じ、例外的規則のようでスッキリしない。
    • 紗音がバグったのが、チェックメイトの警告だというのは、別のカケラから呼んで二人揃えてしまうと、同一人物説が消えるからだろう。だが、それがチェックメイトとなってもロジックエラーとならないとすると、やや恣意的に思える。
  • 赤字ラッシュを期待
    • 後半のEPは、全部ゲーム途中で終わっている。たとえば、「EP5」は、夏妃の汚名返上以外は、全く何も解決してない。
    • 「EP5」「EP6」は何も解決してないけど、ドラマ感はたしかにあった。「EP7」では、ウィルと赤字でバトルする相手がいないので、大人しい感じ。
    • 「EP7」からふり返ると、「EP6」は面白かった。全く先が読めず、最も『うみねこ』らしいEP。
    • 「EP8」は、「EP3〜4」みたいに、怒濤の赤字ラッシュを期待したい。
  • 「EP8」のスケジュール
    • 竜騎士氏によると、「EP3」は当初の予定では解答編に相当した内容を持ってきて難易度を下げたらしい。それで、先に真相を明かし過ぎて、後半停滞しているのかもしれない。
    • 「祭り囃子編」は『ひぐらし』8編中で最大のボリュームだったが、『うみねこ』「EP8」のボリュームは、次の冬コミまでが期間だと、そんなに増やせないだろう。
    • 真相を全部明かして構わないなら、真相は最初に設定しているだろうから、淡々と書けば間に合いそう。ただそれだと、竜騎士的な美学(クライマックスはこれでもかと盛り上げる)に反しそうでもある。
    • 延期して作業期間を確保するという考え方もある。しかし、「EP8」を次の夏コミに延期すると、『うみねこ』の次に控える何らかの新作が、連動してズレてしまいそう(たとえば再来年の夏コミとか)なので、延期したくないという思惑が、竜騎士氏にあるかもしれない。

『うみねこのなく頃に』の推理可能性と「EP7」の謎解きについて

概要

 07th Expansion 製作のPCノベルゲーム『うみねこのなく頃に散 Requiem of the golden witch』(以下「EP7」)についての感想です。魔王14歳さんが開催した「うみねこチャット」で書いた自分のログのうち、推理可能性に関する部分を整理して、ブログのエントリに起こしました。

警告:以下、『うみねこのなく頃に散 Requiem of the golden witch』(EP7)の内容に触れています。

うみねこのなく頃に』の推理可能性と「EP7」の謎解きについて

  • うみねこ』のミステリ的整合性と「EP7」の謎解き
    • ひぐらし』「皆殺し編」と違い、「EP7」は謎解きの緊張を維持している。『うみねこ』はミステリ的にアリだと思う。整合性に関して、『うみねこ』は『ひぐらし』より格段に進歩した。
    • ただ、まだ謎解きとしては完全ではなく、「EP8」まで最終的な評価は保留せざるをえない。どこまで謎解きすれば満足するかは、個々人によって異なるだろうが、私の基準ではまだ物足りない。
    • うみねこ』には「赤字」の記述があるため、本格とは異なるタイプのミステリとして成立していると思う。本格ミステリは解の一意性を求められるのに対して、『うみねこ』は複数解を許容しているという違いはあるが、私としては認める。
    • ただ、複数解があるミステリなりの、推理可能性なりフェアネスなりも、またあるはず。それが、赤字の整合性に掛かっている。したがって、今回の謎解きに関する、最大の不満は、赤字による謎解きがほとんど行われなかったこと。
    • 赤字の整合性の保証は、それ自体がゲームの目的の一部をなしており、それを確定させないと、恣意性が残ると考える。
    • ウィルの「幻は幻に」を信用すれば、ほとんどの犯行が、人物の嘘、幻想描写の改変、紗音−嘉音・同一人物説で乗り切れる。「幻は幻に」が多かった以上、「幻=嘘」が主なトリックと見なせるだろう。
    • しかし、ウィルの「幻は幻に」は白字なので、まだ確定していない。やろうと思えばまだひっくり返せる。
  • 代数的なレベルの解
    • ハウダニットというか、個別の犯行手順については、代数的に解ければいい、ということなのだろう。
    • たとえば、 y=1 ではなく y=x みたいに、関係式が成立すれば、特定の数でなくてよい、というようなこと。
    • こうした抽象的なレベルの謎解きで私は一応納得するが、「EP7」は赤字がないので、方程式のレベルでも解が確定していない。そこに不満が残る。
    • 赤字さえ破綻しなければ、「赤き真実、有効です」といった感じで、ミステリとして認めよう。その先を想像に任せるというオープンエンディングでも結構。ただ最低限、赤字だけは解決して欲しい。
    • たとえば、「EP6」の「17人」と「18人目」の数え方とか、多重人格の死もカウントするのかとか、少なくとも赤字の整合性については、「EP8」で完全に決着をつけて欲しい。
  • 赤字のゲームシステム的な位置づけ
    • 赤字の記述は、Webのハイパーリンクとか、コンピュータゲームのプログラムのようなもので、機械的に機能して欲しい。明確なロジックエラーがあると成立しない。逆にエラーがなくても、ストーリーの演出意図とズレて機能することはありえる。
    • 赤字は深層のゲームシステムに属するが、表層の物語にも影響する。WebでトラックバックSBMなどでリンクを張れば、コミュニケーションに影響するような感じに捉えている。
    • 赤字の抜け道はかなりあるが、枠組としては強力に機能している。最初から何でもありなのと、赤字があってそこを抜けようとするのは、ゲームとして全く別物。 赤字のない『うみねこ』を想定すると、かなりグダグダになっていそう。
    • ストーリーが破綻するほどのロジックエラーと、ちょっと怪しい挙動をするバグとは、レベルが違う。「17人と18人目では、変数の型(カウント法)が違う」というように「仕様」だと言っても通りそう。
    • うみねこ』の赤字には、時制がないなどの抜け道がある。が、穴があっても枠として成立する。というよりも、穴があるのが枠。赤字に抜け穴があるから機能しないというのではなく、むしろ抜け穴を探すゲームの枠組として機能している。
    • たとえば、「EP6」に関するネットの考察では、「犬小屋説」が盛り上がった。こういう考察も赤字の制約がないと、何でもアリで盛り上がらなかっただろう。
    • もし赤字がなかったら、「全部トラップXで説明可能。以上」みたいに、特定の局所解に留まれる。そこからある程度は追い出して、ネットのCGM的解釈合戦を盛り上げる装置として、赤字は機能している。
  • 赤字のドラマ性・ゲーム性
    • 「EP7」より「EP6」が盛り上がったのは、他の要素もたくさんあるが、赤字でガキンガキンやったから、というのもひとつある。
    • 「EP5」でベルンが夏妃に赤字(金蔵は一度も信頼してなかったという旨)をつきつけた場面などは、赤字のドラマティックな用法。ベルンの真実とバトラの善が対立している。
    • 魔女のゲームを純粋にTRPGとして見ると、魔女必敗のゲーム。魔女側の最善手は、赤字を全く出さずに引き分けにすること。
    • しかしたとえば、「ウミガメのスープ」はGMとの戦いではなく、他のPLより先に解を見つけるゲーム。同様に、ベアトのゲームも、戦人に動機(6年前の約束)を気付いてもらうためのゲーム。

『うみねこのなく頃に』EP7考察・「ヤスの動機」「ハッピーエンドの可能性」

概要

警告:以下、『うみねこのなく頃に散 Requiem of the golden witch』(EP7)の内容に触れています。ネタバレに配慮していないので、同作品のプレイ後にお読みになることを推奨します)


 07th Expansion 製作のPCノベルゲーム『うみねこのなく頃に散 Requiem of the golden witch』(以下「EP7」)の仮説を検討しよう。「ヤスの動機」「ハッピーエンドの可能性」の二本でお送りする。

ヤスの動機

 「EP7」をプレイしていれば、クレル=ヤス=ベアトリーチェ=紗音であり、「EP7」「ベアトリーチェ殺人事件」の犯人は紗音である、という説(以下「紗音説」)が思い浮かぶだろう。

 理御はすでにライトに指名されているから、残る犯人候補には、嘉音、朱志香、戦人らがいる。もし嘉音なら、紗音・嘉音同一人物説を、検証でそのまま利用できる。また、朱志香と戦人については、上のエントリですでに検証した。その他には、真里亞と縁寿らがいる。

 さて、ヤスの正体が誰であるかは措こう。ここでは、ヤスの動機を問題にしたい。「EP7」では、ウィラード・H・ライト(ウィル)が、ホワイダニットが重要だとさんざん述べていた。にも関わらず、ヤスの犯行動機は明確にされていない。

 「EP7」では未遂に終わっていたが、親族一同が碑文を解くことをヤス自身は予想していなかった。犯行計画を立てていた以上、「EP1」「EP2」のような犯行を実行するだけの、犯行動機が存在すると考えるのは自然だろう。

  • 碑文を誰かが解くことで、この子が何かを得ることはありません。
  • 誰かに復讐するためのものでもありません。
  • …ベアトは、快楽目的で殺人を行なっていることはありません。

(『うみねこ』「EP5」の赤字)


 上の赤字が存在するため、ヤス=ベアトが、金塊のため、復讐のため、快楽のために犯行する、という選択肢はない。金塊を独占するためだとか、自分の境遇を恨んだとか、そういう理由ではないはずだ。

 とすると、「EP6」で示唆されていたように、恋人達の決闘ということだろうか。つまり、ヤス=ベアト=紗音=嘉音は同一人物(四つ子の塔)であり、戦人/譲治/朱志香と同時に結ばれないため、殺人の結果で決めることにした。

 「EP7」では、ヤスと戦人の間で、ミステリ談義を繰り広げられていた。そして、戦人はウィル同様、ホワイダニットの重要性を主張している。したがって、戦人にベアトの動機を推理して欲しかった。

 さらに、クローズドサークルになった六軒島で殺人事件が起こり、人数が減ることで、魔女幻想が現れることを可能にした、という解釈もできる。

 戦人はどのEPでも、最後の方まで残っている。早々に殺さないのは、戦人が推理できるようにしているのではないか。つまり、できればやはり戦人と結ばれたい、ということだろう。

 もし、戦人の帰還が一年ずれていたら惨劇が起こらなかった、と「EP7」にある。これは、一年前なら紗音から戦人に告白でき、一年後なら譲冶と結ばれるため、惨劇を回避できたということか。

  • 右代宮戦人には罪がある。
  • そなたの罪で、人が死ぬ。
  • そなたの罪により、この島の人間が、大勢死ぬ。誰も逃さぬ、全て死ぬ。

(『うみねこ』「EP4」の赤字)


 上の赤字で言う「罪」というのは、ヤスを迎えに来るという、6年前の約束を忘れていたことだろう。戦人が6年前のヤスとの約束を忘れたために、ヤスからベアト人格へ戦人との恋心を委譲し、後の殺人事件へと発展する。

 作品中の筋に従えば、一応の説明はつく。しかし、「相手を自分で決められないので、ルーレット代わりに、連続殺人を起こしました」とか「6年前の約束を忘れたから皆殺しにする、という動機を推理してください」といった動機に、納得できるだろうか?

 ただ、まだ裏がある気配が濃厚だ。事件までの2年間が語られていないし、戦人や使用人の正体にも謎が残る。「EP8」では、ヤスの動機がさらに補強される展開になるかもしれない。

 それに、「EP6」のように、犯行計画が狂言殺人だった可能性がある。しかし、上の赤字で「全て死ぬ」といったり、「EP4」での1998年の状況との不整合をどう解消するか、といった問題は残る。

 そもそも、「EP7」の大部分が嘘だという可能性も残っている。お茶会の赤画面・回想シーンから、「探偵権限」と違って、「観劇者権限」は証言は引き出せるが真実性は保証されない、という仮説を立てられる。

ハッピーエンドの可能性

  • 最小ハッピーエンド
    • 0人生還=全員死亡
  • 中間ハッピーエンド
    • 1人以上〜全員未満が生還
  • 最大ハッピーエンド
    • 全員生還


 次回「EP8」のエンディングは、ハッピーエンドに限定しても、上のように終わり方に幅がある。*1

 最小ハッピーエンドの場合、島に行かず生き残った縁寿が、ハッピーであればそれでよい。「EP7」でも予告された、GM・戦人の語る物語に納得すれば済む。

 それでは寂しいというなら、「EP4」のように生還した絵羽と、縁寿が和解する流れもあるだろう。「EP7」のような真相であれば、それを絵羽が打ち明けて、縁寿と和解する展開は想像できる。

 さらに、天草=戦人が判明して、戦人と縁寿の間でハッピーエンドになる、という展開も大いにありそうだ。その場合、天草=戦人が縁寿を守るために、須磨寺なり小此木なりと戦う、という場面も入れやすいだろう。

 しかも、八城=真里亞の路線もある。成長した八城=真里亞は、「EP7」お茶会のような六軒島の愛のない真実から、目をそらさせるために偽書を書いた。そして、真里亞と縁寿は、マリアージュ・ソルシエールを再結成する、といった感じの結末だ。

 このように、中間ハッピーエンドは、可能な生還者の組み合わせが膨大だ。他にも一例を挙げれば、親世代の悪行が描かれ続けてきたので、子供世代だけ帰還してもおかしくない。

 最大ハッピーエンドは、ゲーム開始時に死亡している金蔵を除く、全員が生還するものだ。この最大ハッピーエンド=全員生還エンドは、奇跡どころか、むしろそちらの方が自然なくらいだと感じられる。

 全員生還するには、そもそも惨劇が発生しない必要がある。しかし、先に推測したヤスの動機を踏まえると、ハッピーエンドへの道筋も見えてくる。ヤスの動機が現実離れしていそうな分、それが満たされれば、あっけなくハッピーエンドにできそうだ。

 戦人が六軒島についたら即、白馬に乗ってヤスを迎えに行く。すると、ヤスに殺害の動機が発生せず、全員生還は何も難しくない。*2

 だが、戦人とヤスがすぐにくっついてハッピーエンド、というのではいかにも安直で、さすがにやらないだろう。それに、ベルンカステルと戦人のふたりが、GMをやるだろうと予告されているから、少なくともベルンはそうしない。

 そこで、どんでん返しを用意するなら、たとえば、ヤス=ベアト=紗音=沙代=34、もしくは霧江がラスボス、と皆が想定しているところに、まさかの絵羽ラスボスというラストすらありうる。

 つまり、「EP7」お茶会の展開――いわゆる霧江のハイパーお抹茶タイム――には幻想描写が混じっており、本当は絵羽が主犯だったということだ。「EP4」で絵羽が犯人だったから、紗音だろうと思わせて、裏の裏をかくという手法になる。

 だから、難しいのは、ハッピーエンド自体の実現ではなく、ハッピーエンドに至る過程を、読者が納得できるように、かつ、ドラマティックに物語ることだ。言ってしまえば、竜騎士07氏が、どのような結末にしたいかによる。

  • このゲームに、ハッピーエンドは与えない。

(『うみねこ』「EP7」の赤字)


 上の赤字にしても、「ハッピーエンドは自らの手でつかみ取れ、ってことよ。言わせないでよ、恥ずかしい」といった、ベルンカステルの「ゲロデレ」の可能性がある。

関連作品

PC)うみねこのなく頃に 散 Episode6 真相解明読本

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最終考察 うみねこのなく頃に Witch-hunting for the Episode 1-4

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*1:逆に、アンハッピーエンドにも幅がある。全員生還しても、財産を失ったり、犯罪が露見したり、人間関係が悪ければ、不幸だからバッドエンドになりうる。ハッピー/アンハッピーは、登場人物と作者/読者の主観によるところが大きい

*2:ただし、恋心はベアトに譲ったので、ベアトが顕現した状態ではないとダメだとか、紗音と嘉音との決着をつけるために、それでもルーレットは実行するだとか、細かく制限することはできる。また、理御がいるカケラでも事件が発生していたから、何だかんだと因縁をつけて惨劇にすることはできる。だがそもそも、夏妃が赤ん坊を崖下に落とさず、理御が時期当主になるのが、約250万分の1だという根拠が分からない。あれはたまたま使用人がバランスを崩したので、夏妃に悪魔がささやいたシチュエーションだったと思うが、その失敗が約250万分の1しかなく、精密機械のように実行されるというのは、不思議でならない。結局のところ、作者のさじ加減の余地が大きい

『うみねこのなく頃に』EP7考察・「ヤスの正体」「ガァプの本体」「金蔵のベアト三代暴行説」

概要

警告:以下、『うみねこのなく頃に』(EP7)の内容に触れています。ネタバレに配慮していないので、同作品のプレイ後にお読みになることを推奨します)


 07th Expansion 製作のPCノベルゲーム『うみねこのなく頃に散 Requiem of the golden witch』(以下「EP7」)の仮説を検討しよう。「ヤスの正体」「ガァプの本体」「金蔵のベアト三代暴行説」の三本でお送りする。

ヤスの正体


 「EP7」をプレイしていれば、クレル=ヤス=ベアトリーチェ=紗音であり、「EP7」「ベアトリーチェ殺人事件」の犯人は紗音である、という説(以下「紗音説」)が思い浮かぶだろう。

 だが、紗音説が最有力なのは自明なので、あえて紗音以外の可能性を探ろう。理御はすでにライトに指名されており、残る犯人候補には、嘉音、朱志香、戦人などがいる。

 このうち、もし嘉音なら紗音・嘉音同一人物説をそのまま利用でき、紗音と大筋で変わらない検証になる。また、朱志香と戦人については、上のエントリですでに検証した。

 その他には、真里亞と縁寿などがいる。落下事故によって成長が止まり、幼い外見を維持しているために、年齢をごまかせたというわけだ。ただ、不自然な点が多くなることは否めないだろう。ヤス=真里亞説とヤス=縁寿説は、意外性はあるが、無理があると思う。

 ヤス=譲治説は、年齢の下方修正や外見上の問題など、さらに無理がある。それに、もし譲治がベアトリーチェだったら、誰も得しない誰得状態になってしまう。多くのプレイヤーにとって、ありえないというか、あって欲しくない真相だろう。

 それから、ヤスの正体が誰かということとは別に、ヤスが身体に障害を負っている、極端に言えば四肢を切断された状態である、という真相にできなくもないかもしれない。たとえば、貴賓室のフランス人形がヤスだったとか。

 しかしそれだと、使用人として働けない。ヤスの独白のほとんど全てが妄想だったということになる。かりに障害があったとしても、生殖機能に関してだけというのが、本編の描写からすると自然だ。

ガァプの本体

 「EP7」でのヤス=クレルの独白によると、ベアトリーチェの人物像はガァプから委譲されたものだった。ワルギリアにとっての熊沢や、ロノウェにとっての源次のように、ガァプにとってのモデルは誰か、という疑問がますます深まる。

 私としては、ガァプの本体はヤス=理御だった、という説(ヤス=ガァプ説)を立てたい。そのほか、たとえば南條や郷田だと、外見的に無理がある。(九羽鳥庵の2代目)ベアトリーチェが本体だというのは、親子になるので魅力的だが、ガァプを思いついた時期的にありえないだろう。

 ではなぜ、ガァプの本体がヤス=理御だと思うのか。それは、ヤスの外見は分からないものの、理御の服装というか配色、さらに髪の色がガァプにきわめて近いからだ。ヤス=朱志香の場合も、髪の色が同じだ。

 ここからは真相というより作品の考察になるが、ガァプがいることの意味を考えてみたい。

 ヤスの精神世界においては、使用人・ヤス→使用人・紗音/嘉音→魔女ガァプ→魔女ベアトリーチェ→理御/人間ベアトリーチェという風に、自己イメージが上昇していく。これが普通なら、誇大妄想が激しくなって破綻するところだが、ヤスの場合は現実世界においても、本当に継承できてしまった。

 『うみねこ』の物語はガァプが居ないと成り立たない、というわけではない。が、自分の中だけで成立するプロトタイプの魔女から、他人と共有する魔女になり、実在人物の役割を継承する、という風に段階を踏むことで、思考が現実化する過程にリアリティを与えてはいる。

金蔵のベアト三代暴行説

  1. 金蔵の黄金強奪作戦
  2. ベアトが父に言い寄られて困惑
  3. 恋ができない身体


 「EP7」本編後のお茶会には、上のような内容の、フラッシュバック・シーンがある。本編が幻想描写だったと示唆するような、本編と食い違った内容になっている。赤い画面というのも、赤字と同じで真実性を示す、という意味に取れなくもない。

 このシーンは解釈しだいで、本編との解離を大きくする方向にも、小さくする方向にも位置づけられる。

 たとえば、1の黄金強奪についていえば、本編の進行が虚偽で、金蔵が意図的に嘘の翻訳をして、両軍の対立を煽った、という真相はありうる。が、金蔵は発案しただけで、後は本編と同じに進み、本編とお茶会が矛盾なく両立する、という真相もありうる。

 ここでは、金蔵がベアトリーチェを三代に渡ってレイプしていた、という説(金蔵三代ベアト暴行説)を展開する。

  1. 金蔵の黄金強奪作戦
    • 強奪発覚隠蔽のために、金蔵が初代ベアトを監禁・強姦
  2. ベアトが父に言い寄られて困惑
    • 金蔵が娘の二代目ベアトを監禁・強姦
  3. 恋ができない身体
    • 金蔵に強姦(未遂)された際に、生殖機能障害が発覚した三代目ベアト


 上のように、金蔵が関係することで、不明だった部分を説明できるようになる。

 まず、金蔵が黄金を所有した経緯については、完全に謎が解けたわけではない。たとえば、ベアトリーチェが黄金の件をイタリア社会共和国(RSI)に報告して、本国に返還しようと考えても良さそうなものではないか。

 金蔵の回想が正しければ、命を救ってくれた礼にと、黄金を与えてもおかしくはない。が、ベアトが黄金を金蔵に与えると明言した記述が全く存在しない。だから、金蔵が黄金強奪を隠蔽するために、ベアトを監禁していてもおかしくはない。

 次に、二代目の方は本編でも触れられているが、三代目の話はここだけしか存在せず、シチュエーションが不明である。恋ができないとあるので、生殖機能障害を疑えるが、それが発覚した状況として、金蔵に襲われていてもおかしくはない。

 そして、三代目ベアトに対して、金蔵が謝罪する場面が本編中にある。謝罪したとたん死亡するというのはドラマティックではあるが、本作においてはすでに金蔵の死体隠蔽の前例があるために、幻想描写を疑わせるものでもある。

 実際には、三代目ベアトをレイプしようとした金蔵をベアトが殺害し、使用人と共謀して隠蔽していてもおかしくはない。しかも、これまでの死体隠蔽の話にそのままつながる。隠蔽する動機や隠蔽に協力する人物が増えるため、物語の説得力を増す。

 さらに、「EP3」で「金蔵、源次、紗音、嘉音、郷田、熊沢の六人は死亡している!」「6人は即死であった!」という赤字がある。

 この赤字から、心臓発作なら微妙だが、病死の可能性は低い。転落死のような事故か、他殺かということになる。三代目ベアトが金蔵を殺していた、あるいは暴行に抵抗した際に事故で死んだ、ということなら説明がつく。

 そしてまた、『うみねこ』には首輪のモチーフが出てくる。特に、「EP6」の冒頭で首輪を掛けられていた人物が、初代〜三代目ベアトの誰かだ、という解釈もできる。

 このように、金蔵がベアトリーチェを三代に渡ってレイプしていたと考えることで、物語で不明だった部分の説明がつくのである。そして、この三世代に渡る暴行が、ベルンカステルの言う「ハラワタ」の一部分でもある。

 なお、金蔵を極悪人にしているこの仮説に対して、「下劣な物語」を展開しているという批判はありうる。ただ、「EP7」(お茶会)自体がそのような非道な物語だから、そういう方向で考えるのも少なくとも不自然ではない。

『うみねこのなく頃に』EP7・ヤス=戦人説

概要

警告:以下、『うみねこのなく頃に』(EP7)の内容に触れています。ネタバレに配慮していないので、同作品のプレイ後にお読みになることを推奨します)


 07th Expansion 製作のPCノベルゲーム『うみねこのなく頃に散 Requiem of the golden witch』(以下「EP7」)の仮説を提出する。クレル=ヤス=ベアトリーチェ=戦人であり、「EP7」「ベアトリーチェ殺人事件」の犯人は戦人という説(以下「戦人説」)だ。

前提


 まず、「EP7」をプレイしていれば、クレル=ヤス=ベアトリーチェ=紗音であり、「EP7」「ベアトリーチェ殺人事件」の犯人は紗音であるという説(以下「紗音説」)を思い浮かべるのが普通だろう。

 紗音説は、プレイしていれば容易に理解できるので、ここでは説明しない。また、紗音・嘉音同一人物説についても、ネットですでに考察されているので、ここでは検証しない。

 だが、紗音説が最有力なのは自明なので、ただそれを追認するだけでは面白くない。そこであえて、紗音以外の可能性を探ろう。理御はすでにライトに指名されており、残る犯人候補には、嘉音、朱志香、戦人などがいる。

 このうち、もし嘉音なら紗音・嘉音同一人物説をそのまま利用でき、紗音と大筋で変わらない検証になって面白味を欠く。また、朱志香については、上のエントリですでに検証した。そこで、戦人説を検証してみよう。

導入

 では、クレル=ヤス=ベアトリーチェ=戦人であり、「EP7」「ベアトリーチェ殺人事件」の犯人は戦人であるという説(「戦人説」)を立てよう。

 この戦人説の核である、戦人はヤス=クレル=ベアトリーチェと同一人物だという発想は、「EP6」「EP7」が紗音・嘉音同一人物説に有利な展開になっていたこともあり、かなり抵抗があるだろう。

 しかし、紗音・嘉音同一人物説と戦人説は両立する。すなわち、紗音=嘉音と、戦人=ベアトリーチェは、別系統で成立する。すると、紗音・嘉音同一人物説の利点を利用しつつ、ベアトリーチェ殺人事件の犯人が、紗音ではなく戦人だという意外な展開にできる。

 問題となっている「EP7」前半では、ウィラード・H・ライト(ウィル)の視点で、後半ではヤス=クレルの視点で物語が進行する。後半のクレルが、ヤスの正体を秘密にするための代理だというのは、プレイすれば容易に理解できるだろう。

 だがじつは、前半のウィルも、戦人の代理になっているのではないか。つまり、戦人説を採った場合、戦人がベアトリーチェの葬儀に間に合わないのは、「ノックスの十戒」に抵触する探偵=犯人の状態を回避するため、という解釈になる。

展開:戦人複数人物説

 戦人説を採用したときに、軸になるのは「戦人複数人物説」だ。これは紗音・嘉音同一人物説と対になる。つまり、紗音・嘉音が一人二役なのと対照的に、戦人は二人一役なのだ。

 事件時の六軒島に戦人がふたり居れば、紗音・嘉音が席を増やすことで、赤字の人数制限をくぐり抜けて、戦人がふたり座れることになる。

 また、天草十三が戦人(のひとり)と同一人物、というパターンにも結びつけやすい。これも必然性のある配置だが、成立に必須ではない。そして、「EP5」で夏妃を電話で脅迫する19年前男も、やはり必須ではないが、戦人であると説明できる。

 「EP4」の赤字バトルでは、右代宮明日夢から生まれた者とそうでない者の、ふたりの右代宮戦人が存在することが読み取れる。ここでは便宜上、明日夢から生まれた方を「真戦人」、別の母親から生まれた方を「偽戦人」と区別しよう

 この記事では、先に立てた戦人犯人説を説明しなくてはならないので、偽戦人はベアトリーチェから生まれたとする。が、想定可能な偽戦人の母親は他にもいるだろう。

 前述のように「EP4」の赤字があるため、魔女が存在できる上位世界の戦人と、六軒島で事件が起きる下位世界の戦人が、別人であるという可能性も高い。上位世界の戦人は明日夢から生まれていなかったから、上位戦人=偽戦人となる。

 戦人が二人一役といっても、下位世界で見分けがつかないという必要はない。戦人と理御のように、外見が全く別でも構わない。上位世界の赤字をくぐり抜けるための二人一役なので、直感的に理解しにくいかもしれない。

 この「戦人複数人物説」自体は、もちろん既出である。多くのプレイヤーが、「EP4」で意識したはずだ。だが、「EP6」「EP7」と紗音・嘉音同一人物説に有利な展開が続いたことで、なんとなく紗音=ベアトリーチェという印象もすり込まれてもいるだろう。

展開:クレル=ヤス=ベアトリーチェ=戦人説

 ここにきて戦人複数人物説を再検討し、さらにクレル=ヤス=ベアトリーチェ=戦人説というラインを導くことには、大きな意味がある。新たに色々と説明できるようになるのだ。

 たとえば、ゼパルとフルフルは、紗音と嘉音の関係だけでなく、真戦人と偽戦人の関係も暗示している。おそらく、ヤス=偽戦人は女性、あるいは性同一性障害性分化疾患ではないだろうか。

 このヤス=偽戦人というラインは、理御=偽戦人へとつながるので、理御も性別が隠されていると解釈できるだろう。ただし、ヤスや理御や偽戦人が男性だったら、成立しないというわけでもない。その場合、同性愛者や異性装者ということになる。

 偽戦人が、若い頃の金蔵に最も似ているのは、最も金蔵の血が濃いからだ。同時に、ベアトリーチェの面影があっても矛盾しない。ふたりの子供なのだから、ふたりに似るのは当然である。

 そのほか、「EP7」で省略されていた事件までの2年間と、戦人が家出した6年間の間で、色々と工作できる余地がありそうだ。たとえば、偽戦人と真戦人の入れ替わりだとか。しかし、可能性を子細に検討するのは、またの機会に譲ろう。

補足

 戦人説では不自然な点が色々出てくるので、少し補足説明しておこう。

 まず、違和感を覚えるかもしれないのは、ヤス=偽戦人が真戦人に対して、恋愛感情を持っていたことだろう。しかし、偽戦人と真戦人は全く別人だから、おかしくない。

 それに関連してもう一つ、違和感を覚えるかもしれないのは、上位戦人=偽戦人と下位戦人=真戦人で立ち絵が同じことだろう。しかも、偽戦人とベアトリーチェは同一人物なのに、両者の立ち絵は似ていない。

 しかし、熊沢をワルギリアで、使用人達を煉獄の七杭で表現することが可能なくらいだから、戦人とベアトリーチェの立ち絵に関しては、幻想描写によっていくらでも改変できると考えられる。

 つまり、前作『ひぐらしのなく頃に』で登場人物の目が光るのと同じで、立ち絵に語り手の主観が反映されているのだ。

 説明すべき課題もまだ残っている。なぜ、「右代宮戦人」という同姓同名の人物がふたり存在するのか、という謎が丸々残っている。単に赤字バトルのためにそうなった、というのでは納得できない。ただ、「EP7」で説明されなかった事件までの2年間に何かありそうだ。

 またたとえば、「EP6」で恋人達が戦う場面は、嘉音=紗音=ベアトリーチェが同一人物である方が、説得力がある。

 これを説明するだけなら、偽戦人=嘉音=紗音=ベアトリーチェという四つ子の塔を建てれば解決する。だが、それはさすがに同一人物に寄せ集め過ぎで、何かと不都合も出てきそうだ。

 ただ、「EP6」の恋人達の戦闘が、単なるブラフに過ぎない、ということもありうる。

 最後に、明日夢=ベアト説を、戦人=ヤスと同じくらい違和感があるだろうが、出生に関連してくるので一応提出しておく。先に問題点に触れておくと、明日夢=ベアト説を取ると、明日夢もしくはベアトに関する、多くの話が嘘になってしまう。

 もし、右代宮明日夢と(九羽鳥庵の2代目)ベアトリーチェが同一人物なら、真戦人の母親はベアトリーチェで、偽戦人の母親は霧江などベアトリーチェ以外の人物だということになる。そして、明日夢から生まれた真戦人=ヤスとなる。

 明日夢の立ち絵がないのは、ベアトリーチェだからと解釈できる。そして、留弗夫が下位世界の戦人にしようとしていた話は、上位・下位世界で戦人と呼ばれている人物の母親が、明日夢ではないというものなのだろう。

 まあ、紗音説が最も無難なところだろうが、「EP8」で最後のどんでん返しが起きる方が面白いので、あえて戦人説を提示した。