『うみねこのなく頃に』EP8・戦人犯人説の成立条件と問題点

概要

注意:以下、『うみねこのなく頃に散 Twilight of the golden witch』(EP8)の内容に触れています。


 『うみねこのなく頃に散 Twilight of the golden witch』(EP8)については、戦人犯人説を採用するとその見方が全く変わる。それは、レナの「嘘だっ」で一変した『ひぐらし鬼隠し編をどこか彷彿とさせる。

 前の記事では箇条書きだったが、戦人犯人説が成立する条件を詳しく見ていく。そして、戦人犯人説が成立する条件と、成立したとして発生する問題点を見ていきたい。

(EP8版)戦人犯人説の絶対条件

戦人くんは犯人ではありませんよ。戦人くんは誰も殺してはいません。これは全てのゲームにおいて言えることです。
(『うみねこ』EP5でのワルギリアの赤字)


 そもそも、『うみねこ』本編でも軽く触れられているように、ネットの考察では以前から戦人犯人説が挙がっていた。しかし、初期のものとEP8での戦人犯人説とでは、犯人の定義が異なる*1

 まず、ここでいう(EP8版)戦人犯人説における犯人とは、各EPのゲーム盤の犯人ではなく、ゲーム外の現実(実在した1986年の六軒島)での犯人と定義する

 また、現実に対しては赤字(と赤字を通じて適用されるノックス十戒とダイン二十則)が適用できないことと仮定する。その条件がなければ、戦人犯人説は成立しない。

 なぜなら、上にあるように赤字で“(現実ではなく)ゲームにおいて”犯人でないと宣言されているからだ。

 赤字が有効ならば、戦人はゲーム盤内の犯人ではありえない。もし犯人だとすれば、ゲーム盤外の犯人でなければならない。

情報の確定性条件

 戦人が現実の犯人であり赤字の適用を免れているというのは、戦人が犯人であるための最低限の条件になっている。そのような必須条件ではないが、確証性が高まる条件が他にもある。そこで、情報の確定性、という条件をひとつ挙げよう。

 たとえば、EP3以降の偽書は八城十八(幾子+戦人)によって執筆されているらしい。EP3の偽書は、絵羽が犯人で、戦人が犯人でない、という印象を与えている。また、EP8では縁寿を真実から遠ざけるように誘導している。犯人の戦人に有利な記述だ。

 だがもし、今後EP9が出て、それらは別人が書いた偽書だと、上書きしたとしよう。すると、戦人犯人説を煽った戦人以外の記述者が犯人、という可能性が高くなってしまう。

 まあ、情報を後出しすれば崩れる、というのは誰が犯人でも言えることではある。ただ、戦人犯人説には赤字などの制約がないため、情報の後出し、特に現実と虚構の境界が重要な条件になってくる、ということも言えるだろう。

 そこで、偽書周りの設定がEP8時点で固定されている、という情報の確定性が必要になるのだ。ちなみに、この辺りはいわゆる「後期クイーン問題」の領域になるだろうが、本題からそれて煩瑣な議論をすることは避けたいので、深く立ち入らないことにしたい。

戦人犯人説の問題点

 戦人犯人説は面白そうだが、採用したときの問題点もある。戦人は主人公(探偵、記述者)だから犯人であるべきではない、というフェアネスの問題はあるだろう。また、戦人が悪者であって欲しくないというファン心理的な問題もあるだろう。

 しかし、ここではそれらとはまた異なる角度から指摘したい。どういうものかというと、物語の有効な情報量が激減する、という問題があるのだ。

 かりに、戦人犯人説が真相だとしよう。すると、戦人犯人説に対しては全ての赤字が無効化するし、物語のほとんどの記述が無意味になる。情報の大半が戦人犯人説を隠すためのブラフになってしまう。

 『うみねこ』は『ひぐらし』と異なり、赤字によって推理可能性が確保されたと思われた。が、戦人犯人説ではその赤字が全て無効になり、一巡して最初の地点に戻ってしまう。これによって、推理可能性の問題がまた再燃する。

 戦人犯人説には、どこか虚無的なところがある。本編の幻想描写で、六軒島と黄金郷が虚空の奈落へ消えていくシーンがあるが、そのようなイメージに近い。

*1:両者を区別するために、EP8版を「戦人黒幕説」と表記してもいいかもしれない