『うみねこのなく頃に』の推理可能性と「EP7」の謎解きについて

概要

 07th Expansion 製作のPCノベルゲーム『うみねこのなく頃に散 Requiem of the golden witch』(以下「EP7」)についての感想です。魔王14歳さんが開催した「うみねこチャット」で書いた自分のログのうち、推理可能性に関する部分を整理して、ブログのエントリに起こしました。

警告:以下、『うみねこのなく頃に散 Requiem of the golden witch』(EP7)の内容に触れています。

うみねこのなく頃に』の推理可能性と「EP7」の謎解きについて

  • うみねこ』のミステリ的整合性と「EP7」の謎解き
    • ひぐらし』「皆殺し編」と違い、「EP7」は謎解きの緊張を維持している。『うみねこ』はミステリ的にアリだと思う。整合性に関して、『うみねこ』は『ひぐらし』より格段に進歩した。
    • ただ、まだ謎解きとしては完全ではなく、「EP8」まで最終的な評価は保留せざるをえない。どこまで謎解きすれば満足するかは、個々人によって異なるだろうが、私の基準ではまだ物足りない。
    • うみねこ』には「赤字」の記述があるため、本格とは異なるタイプのミステリとして成立していると思う。本格ミステリは解の一意性を求められるのに対して、『うみねこ』は複数解を許容しているという違いはあるが、私としては認める。
    • ただ、複数解があるミステリなりの、推理可能性なりフェアネスなりも、またあるはず。それが、赤字の整合性に掛かっている。したがって、今回の謎解きに関する、最大の不満は、赤字による謎解きがほとんど行われなかったこと。
    • 赤字の整合性の保証は、それ自体がゲームの目的の一部をなしており、それを確定させないと、恣意性が残ると考える。
    • ウィルの「幻は幻に」を信用すれば、ほとんどの犯行が、人物の嘘、幻想描写の改変、紗音−嘉音・同一人物説で乗り切れる。「幻は幻に」が多かった以上、「幻=嘘」が主なトリックと見なせるだろう。
    • しかし、ウィルの「幻は幻に」は白字なので、まだ確定していない。やろうと思えばまだひっくり返せる。
  • 代数的なレベルの解
    • ハウダニットというか、個別の犯行手順については、代数的に解ければいい、ということなのだろう。
    • たとえば、 y=1 ではなく y=x みたいに、関係式が成立すれば、特定の数でなくてよい、というようなこと。
    • こうした抽象的なレベルの謎解きで私は一応納得するが、「EP7」は赤字がないので、方程式のレベルでも解が確定していない。そこに不満が残る。
    • 赤字さえ破綻しなければ、「赤き真実、有効です」といった感じで、ミステリとして認めよう。その先を想像に任せるというオープンエンディングでも結構。ただ最低限、赤字だけは解決して欲しい。
    • たとえば、「EP6」の「17人」と「18人目」の数え方とか、多重人格の死もカウントするのかとか、少なくとも赤字の整合性については、「EP8」で完全に決着をつけて欲しい。
  • 赤字のゲームシステム的な位置づけ
    • 赤字の記述は、Webのハイパーリンクとか、コンピュータゲームのプログラムのようなもので、機械的に機能して欲しい。明確なロジックエラーがあると成立しない。逆にエラーがなくても、ストーリーの演出意図とズレて機能することはありえる。
    • 赤字は深層のゲームシステムに属するが、表層の物語にも影響する。WebでトラックバックSBMなどでリンクを張れば、コミュニケーションに影響するような感じに捉えている。
    • 赤字の抜け道はかなりあるが、枠組としては強力に機能している。最初から何でもありなのと、赤字があってそこを抜けようとするのは、ゲームとして全く別物。 赤字のない『うみねこ』を想定すると、かなりグダグダになっていそう。
    • ストーリーが破綻するほどのロジックエラーと、ちょっと怪しい挙動をするバグとは、レベルが違う。「17人と18人目では、変数の型(カウント法)が違う」というように「仕様」だと言っても通りそう。
    • うみねこ』の赤字には、時制がないなどの抜け道がある。が、穴があっても枠として成立する。というよりも、穴があるのが枠。赤字に抜け穴があるから機能しないというのではなく、むしろ抜け穴を探すゲームの枠組として機能している。
    • たとえば、「EP6」に関するネットの考察では、「犬小屋説」が盛り上がった。こういう考察も赤字の制約がないと、何でもアリで盛り上がらなかっただろう。
    • もし赤字がなかったら、「全部トラップXで説明可能。以上」みたいに、特定の局所解に留まれる。そこからある程度は追い出して、ネットのCGM的解釈合戦を盛り上げる装置として、赤字は機能している。
  • 赤字のドラマ性・ゲーム性
    • 「EP7」より「EP6」が盛り上がったのは、他の要素もたくさんあるが、赤字でガキンガキンやったから、というのもひとつある。
    • 「EP5」でベルンが夏妃に赤字(金蔵は一度も信頼してなかったという旨)をつきつけた場面などは、赤字のドラマティックな用法。ベルンの真実とバトラの善が対立している。
    • 魔女のゲームを純粋にTRPGとして見ると、魔女必敗のゲーム。魔女側の最善手は、赤字を全く出さずに引き分けにすること。
    • しかしたとえば、「ウミガメのスープ」はGMとの戦いではなく、他のPLより先に解を見つけるゲーム。同様に、ベアトのゲームも、戦人に動機(6年前の約束)を気付いてもらうためのゲーム。