映画『リング2』 ――ホラーからSFに至るもうひとつの道
概要
- 出版社/メーカー: パイオニアLDC
- 発売日: 2000/08/11
- メディア: DVD
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紹介
観る者に単なる恐怖映画以上の衝撃を与えた『女優霊』以来、得体の知れぬ怪奇を描かせたら天下無敵の、中田秀夫監督と高橋洋の脚本。このコンビによる大ヒットホラーの続編である。
今回は、前作の最後で命を絶たれた高山竜司の恋人、高野舞(中谷美紀)を中心に据え、出口の見えない新たな悪夢のストーリーがつづられていく。
映像の仕掛けや見せ場が一気に増えたが、その分物語的には焦点が拡散してしまったきらいもある。しかし、生理レベルでのいや〜な気持ちをあおり立てる描写や、ナマの神経にじかに触れてくるような音響など、恐怖心を増幅するセンスはやはり圧巻の一言だ。光学処理を施されたモノクロのシーンに、どこか懐かしく甘美な空気が漂っているのも、「これ以上見たくない、けれど見ていたい」と矛盾する視覚の欲望を強烈に刺激している。(武内 誠)
物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
山村貞子の死体が、失踪より30年を経て、井戸の中から発見された。貞子の母・志津子の従弟にあたる山村敬が、遺体の身元確認に来る。解剖の結果によると、貞子の遺体は死後1年程度で、なんとそれまでは井戸の中で生きていたのだ。
遺体の発見者のひとりである高山竜司は死亡、もうひとりである高山の元妻・浅川玲子は、息子の陽一とともに行方不明になっていた。玲子が取材していた呪いのビデオの担当を引き継いだ後輩のテレビ局員・岡崎は、高山の助手で恋人の高野舞とともに、玲子を探す。
岡崎と舞は、精神病院にいる女子高生・倉橋雅美に会いに行く。彼女は、玲子の姪でビデオを見て死んだ智子の友人だった。雅美が病院のテレビに近付くと、画面に井戸が映し出され、近くの患者達がみな苦しみだした。
病院の医師・川尻は、舞と岡崎、刑事の前で、実験を行う。雅美の超能力によって、映像をビデオに念写するというものだ。実験を開始すると、モニタには鏡を見る女の姿が映し出された……。
解説
ホラーからSFに至るもうひとつの道
『らせん』の項で述べたような、ホラーからSFへの転換が、『リング2』でも行われている。呪いの実体を未知の病気とした『らせん』と違い、『リング2』では超能力だと再定義している。これによって、ホラー色よりSF色が強くなる。
「呪い」と「超能力」は違う。超能力においては、まず、主体となる超能力者が明確だ。また、物理現象として確定的に発生する。たとえば、『リング』で呪いの対象者が映った写真が歪むシーンでは、呪いの主体もまだ分からないし、カメラや写真自体に原因があるという余地も残されている。対して、『リング2』で人が吹っ飛ぶシーンでは、行為の主体が陽一だと明かされるし、超能力以外の原因が想定できない。
ホラーで恐怖を生じさせるためのリソースは未知の謎なので、情報が多いと怖さは減る。また、呪いに比べて超能力は観客の身近な存在ではないので、感じるリアリティも減る。たとえば、前に入居した者がすぐに死んだ家というのは、それが呪いによるものだという解釈はさておき、事実として確率的に発生するものだ。この点が、人を宙に飛ばすようなタイプの超能力とは全く違う。
超能力を出すだけなら、それはそれで、サイキック・スリラーになるのだが、本作はそれだけに留まらない。なんと、超能力のエネルギーが水に溶けるという、きわめて大胆な新解釈を超能力に対して行なっている。このため、『らせん』の新型ウイルスと同様に、にわかに受容しがたくなっている。
映画におけるマルチシナリオの実現
『らせん』がそうだったように、本作はホラー色が減っているものの、サスペンスやスリラーとして見れば悪くない。室内プールのあたりはさすがについていけないが、集団で苦しみ出す病院の患者たち、ビデオ映像から迫る沢口香苗(役者:深田恭子)など、怖い見どころもある。『らせん』同様、中谷美紀の神秘的な雰囲気はホラーにマッチしている。
ラストで井戸を登る貞子は印象的だ。白骨死体から生前の容貌を再現するために、粘土で顔の部分を再現するシーンがある。それを踏まえて、顔が粘土細工の貞子が登ってくる。ここでもし、貞子の顔を腐敗した死体にすれば、嫌悪感は増すだろう。しかしそれは、『らせん』における高山の解剖された死体のように、スプラッター系の怖さになる。だからここでは、仮面というモチーフを使って、死者への直接的な嫌悪感をやわらげつつ、間接的な不気味さを増しているのだ。
『らせん』と『リング2』の内容は完全に別物で、同時に成立しない。おそらく、ノベルゲームの別エンディングのように、世界が分岐した別ルートになっているのだろう。映画というメディアにおいて、マルチシナリオを採用するのはわりと珍しい*1と思うが、リメイクやディレクターズカットという形ならよく見かける。『リング2』を『らせん』と見比べる、という楽しみ方もできるだろう。
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