映画『リング 0 バースデイ』 ――ホラーはついにロマンスへ
概要
- 出版社/メーカー: 角川映画
- 発売日: 2000/10/27
- メディア: DVD
- クリック: 24回
- この商品を含むブログ (30件) を見る
物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
昭和43年、18歳の山村貞子は、母・志津子の死後に上京し、東京の劇団・飛翔に研究生として入団した。
そんなある日、次回の公演「仮面」の主演女優・愛子が、稽古中に亡くなる。そして、演出家・重森の独断で、彼女の代役として、貞子が主役に抜擢される。
だが、愛子の死をきっかけに、劇団内に不穏な空気が流れ始め、劇団員たちは貞子を遠ざけるようになる。そんな中、音響効果の担当・遠山博は、貞子に優しく接する。貞子も遠山に淡い恋心を抱く。
いっぽうその頃、新聞記者・宮地は、30年前に志津子が関わった公開実験を調査していた。というのも、その実験に立ち会った記者たちが不審死していたのだ。彼女は、貞子の居る劇団を突きとめ、公開実験が録音されたテープを団員の悦子に渡した。
いよいよ、「仮面」の公演が幕を開ける。観客が見守るなか、貞子が舞台に現れると、公開実験の音声が会場に流れた。忌わしい過去の記憶が蘇って錯乱する貞子。しかも、その場に居合わせた伊熊博士の弟子・久野が死亡してしまう。
そして、一連の不可解な事件の元凶が貞子にあると確信した団員たちは、リンチで殺そうと彼女に凶器で襲いかかる。貞子の運命やいかに……!?
解説
「テレビの貞子さん」
『リング 0 (ゼロ)』とナンバリングされているように、シリーズ第一弾『リング』の過去を物語る。映画のジャンルとしては、建前上ホラーだが、実際にはロマンス色や青春色が強い。すでに予備知識を持った観客には、山村貞子という人物を描いた悲劇調の伝記、あるいはアイドル映画のように見えるかもしれない。
貞子を演じる仲間由紀恵がとても可愛らしいために、彼女自身はあまり怖くない。そもそも、怖がらせようとする意図の演出がなされていない。貞子に感じるのは、「悲しさ」とか「切なさ」といった感情だ。むしろ、リンチ殺人をしようとする劇団員をはじめ、貞子を迫害する人々のほうが恐ろしかった。
出生の秘密というのも、貞子を悪者にしないための設定に思えた。本作の貞子は、恐ろしい殺人鬼ではなく、薄幸の悲劇のヒロインなのである。『らせん』『リング2』と同様に、ホラーだけを期待すると肩すかしを喰う。それより、貞子というキャラクターを愛でるほうが楽しめる。要するに、貞子萌えのための映画なのだ。
「トイレの花子さん」のように、親しまれているホラーキャラクターはいる。作品によっては、ただ怖いだけでなく、主人公の味方になったりする。それと同じような感じで、本作を見ると「テレビの貞子さん」というイメージが形成されるのだ。
ジャンルミックスの可能性
『ゼロ』で原点まで戻ったので、『リング』シリーズの展開を振り返ってみよう。ホラーとして始まった『リング』、SF色の強い『らせん』と『リング 2』、ロマンス色の強い『リング 0』。そのように、ホラー発、SF経由、ロマンス行きの経路をたどっている。
だがそもそも、原作物やノンフィクションの作品においては、原作(史実)を改変したり、タッチを変えて描くことは普通に行われている。ひとつの原作(史実)に対して、複数の見方がとれるわけだ。
ひとつの作品シリーズを複数のメディアで展開する「メディアミックス」という流通形態は、様々なメディアで常態化した。とくに地上派アニメでは、オリジナルのほうが圧倒的な少数派になったくらいだ。
とすれば同様に、ひとつの作品シリーズを複数のジャンルで展開する「ジャンルミックス」が普及する可能性もあるかもしれない。そのときは、ジャンルミックスを採り入れた本シリーズの評価も、また変わってくるだろう。
関連記事
関連作品
- 作者: 鈴木光司,高橋洋
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2000/01
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (1件) を見る
- 作者: Meimu,鈴木光司,高橋洋
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2000/02
- メディア: コミック
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 作者: 戸崎美和
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1999/12
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 2回
- この商品を含むブログ (3件) を見る