映画『リング 0 バースデイ』 ――ホラーはついにロマンスへ

概要

リング0?バースデイ? [DVD]

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情報
紹介

「リング」シリーズ完結篇。ついに明かされる‘貞子’出生の秘密

◆貞子は2人いた!?
大ブームを巻き起こした「リング」シリーズ最終章。
貞子の青春時代の想像を絶するできごと、そして、出生の秘密がいま明かされる!
恐怖と呪いの物語は、ここから始まった。

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

 昭和43年、18歳の山村貞子は、母・志津子の死後に上京し、東京の劇団・飛翔に研究生として入団した。

 そんなある日、次回の公演「仮面」の主演女優・愛子が、稽古中に亡くなる。そして、演出家・重森の独断で、彼女の代役として、貞子が主役に抜擢される。

 だが、愛子の死をきっかけに、劇団内に不穏な空気が流れ始め、劇団員たちは貞子を遠ざけるようになる。そんな中、音響効果の担当・遠山博は、貞子に優しく接する。貞子も遠山に淡い恋心を抱く。

 いっぽうその頃、新聞記者・宮地は、30年前に志津子が関わった公開実験を調査していた。というのも、その実験に立ち会った記者たちが不審死していたのだ。彼女は、貞子の居る劇団を突きとめ、公開実験が録音されたテープを団員の悦子に渡した。

 いよいよ、「仮面」の公演が幕を開ける。観客が見守るなか、貞子が舞台に現れると、公開実験の音声が会場に流れた。忌わしい過去の記憶が蘇って錯乱する貞子。しかも、その場に居合わせた伊熊博士の弟子・久野が死亡してしまう。

 そして、一連の不可解な事件の元凶が貞子にあると確信した団員たちは、リンチで殺そうと彼女に凶器で襲いかかる。貞子の運命やいかに……!?

解説

「テレビの貞子さん」

 『リング 0 (ゼロ)』とナンバリングされているように、シリーズ第一弾『リング』の過去を物語る。映画のジャンルとしては、建前上ホラーだが、実際にはロマンス色や青春色が強い。すでに予備知識を持った観客には、山村貞子という人物を描いた悲劇調の伝記、あるいはアイドル映画のように見えるかもしれない。

 貞子を演じる仲間由紀恵がとても可愛らしいために、彼女自身はあまり怖くない。そもそも、怖がらせようとする意図の演出がなされていない。貞子に感じるのは、「悲しさ」とか「切なさ」といった感情だ。むしろ、リンチ殺人をしようとする劇団員をはじめ、貞子を迫害する人々のほうが恐ろしかった。

 出生の秘密というのも、貞子を悪者にしないための設定に思えた。本作の貞子は、恐ろしい殺人鬼ではなく、薄幸の悲劇のヒロインなのである。『らせん』『リング2』と同様に、ホラーだけを期待すると肩すかしを喰う。それより、貞子というキャラクターを愛でるほうが楽しめる。要するに、貞子萌えのための映画なのだ。

 「トイレの花子さん」のように、親しまれているホラーキャラクターはいる。作品によっては、ただ怖いだけでなく、主人公の味方になったりする。それと同じような感じで、本作を見ると「テレビの貞子さん」というイメージが形成されるのだ。

ジャンルミックスの可能性

 『ゼロ』で原点まで戻ったので、『リング』シリーズの展開を振り返ってみよう。ホラーとして始まった『リング』、SF色の強い『らせん』と『リング 2』、ロマンス色の強い『リング 0』。そのように、ホラー発、SF経由、ロマンス行きの経路をたどっている。

 だがそもそも、原作物やノンフィクションの作品においては、原作(史実)を改変したり、タッチを変えて描くことは普通に行われている。ひとつの原作(史実)に対して、複数の見方がとれるわけだ。

 ひとつの作品シリーズを複数のメディアで展開する「メディアミックス」という流通形態は、様々なメディアで常態化した。とくに地上派アニメでは、オリジナルのほうが圧倒的な少数派になったくらいだ。

 とすれば同様に、ひとつの作品シリーズを複数のジャンルで展開する「ジャンルミックス」が普及する可能性もあるかもしれない。そのときは、ジャンルミックスを採り入れた本シリーズの評価も、また変わってくるだろう。

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