なぜ(純愛系)エロゲ・ギャルゲの主人公はパッとしないのか

なぜギャルゲの主人公は成績がよくないのか、の三者三様の考察

何故ギャルゲー(学園物)に出てくる男主人公は成績が中若しくは下なのか


鋭い問題提起ですが、「恋愛と勉学の両立は困難」に対しては、「頭が良いから勉強しなくても成績が良い」と設定すれば終わりでしょう。エロゲは、たいてい両親が海外主張してるような御都合主義ですから。また努力型の秀才の場合も、勉強より恋愛を取るのがギャルゲです。アニメ版シスプリ主人公が典型的ですが、優等生時代は灰色の時代とされます。恋愛ゲームに、立身出世のリアリズムはさほど関係ないでしょう。


何故ギャルゲー(学園物)に出てくる男主人公は成績が中若しくは下なのかを再考察する


妥当なところです。「主人公は白紙」が望ましいという理由は確かにあるでしょう。ただ、マンガでもアニメでも、昔からの平凡型主人公の一般的な話になりますね。そこで「主人公にモテの要素がデフォルトで存在していてはならない」というより限定的な理由が出てきます。その理由を後でもっと深く掘り下げます。


何故エロゲー(鬼畜物)に出てくる男主人公は成績が上若しくは賢い成人の設定なのか


さすがにkagami氏だけあって、純愛物と鬼畜物を鮮やかに対比しています。純愛青春系では、優等生キャラは嫌味で気障で悪役だったりしますが、鬼畜陵辱系ではお人好しはダシにされるので、両者はちょうど反転した関係になっています。陵辱系主人公も興味深いのですが、以下では純愛系をベースに考察していきます。

なぜ(純愛系)エロゲ・ギャルゲの主人公はパッとしないのか

エロゲギャルゲの主人公は、成績だけでなく全体的にパッとしないと思います。それはしばしばライバルとなるイケメン・金持ち・優等生と対比されます。そのライバルにはいつも女生徒が群がっていますが、主人公はなぜそんな強敵にヒロインを取られないのでしょう。*1うだつの上がらない主人公(=プレイヤー)がモテモテになるのがお約束だ、と言ってしまえば簡単ですが、凡庸な発想なので採用しません。逃げ道を封じた上で、核心に迫ります。


「他の女の子が群がるイケメン金持ち優等生に一流レストランに招待されても、平然と断り、主人公と一緒に屋上で弁当を食べる。それが純愛系エロゲのジャスティス。」というSNEG展開がまずあって、これはもう成績がどうこうというレベルではなく、端的に浮世離れしています。もっと言うと、作品内の現実にとっては、むしろ世間の常識はエロゲの非常識なのです。では常識の方は何か。それはヒロインの欲望がピュアだということです。純粋な恋愛だから純愛なのです。これは先のモテモテお約束とは微妙に異なるのです。どういうことか。


格闘漫画というジャンルがあります。そこで主人公が勝つのがお約束だということと、柔よく剛を制す(デカキャラに勝つ)という構造は異なることです。同様に、主人公がモテモテであるというお約束と、柔よく剛を制す(モテメンに勝つ)という構造は異なるのです。そして後者の構造を次でモデル化しますが、結論だけ簡単に言っておきます。もし主人公がイケメン・金持ち・優等生なキャラだったら、ヒロインの想いが純粋なのか打算なのか見分けがつかなくなってしまいます。しかもそれはピュアでありたい願望を持つヒロイン自身にとっても困るのです。


つまり萌え絵がデザインされた絵であり、鼻などが省略されているのと同じことなのです。ちなみにこのエロゲの非常識=SNEG的要素が嫌だということなら、ヒロインにとっての「効用」を考えましょう。例えば先の少女が宇宙人で、後で星に帰るのであれば、日本の貨幣など紙くず同然です。でもSF的で、ちょっとありえなさそうですね。では彼女が自分が宇宙人だと思い込んでいたらどうでしょうか。あるいは彼女が不治の病で長くは持たないならどうでしょう。さらには不治の病だと思ってたらどうか。そういう風にアダプターで辻褄を合わせればよいのです。

貨幣・金銀モデル

詳細は端折りますが、純愛系エロゲ・ギャルゲの恋愛観は、基本的には近代的恋愛観に基づいています。それは個と個の恋愛です。パッとしない主人公とイケメン金持ち優等生ライバルは、ちょうど貨幣と金銀の関係に相当します。


ピカピカ光る金銀(金持ち)や、それとの交換が約束された兌換紙幣(成績が良い等)と違い、冴えない主人公はただの紙っきれに過ぎません。しかし、いったん交換=(恋愛的)コミュニケーション)が立ち上がってしまえば、その紙切れに価値があるという幻想からは、容易に抜け出せません。恋は盲目、恋は病です。逆に言うと資本主義は貨幣に恋をするシステムです。


使用価値と交換価値を区別すれば、パッとしないキャラでも恋の魔法を掛けられることが理解できます。しかし、ではなぜ貨幣が当事者たちにとって単一でありうるのか(他のキャラに取られないのか)と言えば、信用があるからです。例えば幼馴染との過去の約束が、その機能を果たします。約束手形です。*2


貨幣の比喩は混乱を招きがちなので補足します。「金のために体を売る女」が、純愛系のメインヒロインになったりすることはまずありません。*3彼女は恋愛・純愛市場では価値がありません。例えば大阪出身で金にがめつい、という設定のキャラがいても、恋愛に関しては違うでしょう。


もし金と交換できるなら、現実の貨幣市場に組み込まれ、そもそも恋愛市場が独立で立ち上がらない。*4だから恋愛ゲームの攻略キャラは、金持ちキャラにどんなに札束で頬を打たれても、ぜんぜん振り向きません。彼女にとって恋は金に「代え難いもの」なのです。そしてまさにそれこそが、美少女恋愛ゲームのヒロインの資格なのです。*5

*1:寝取られものはあります

*2:ジャンルの「お約束」もプレイヤーにとってのメタな信用ではあります

*3:序盤にCGを置く餌としてのキャラはよくあります

*4:まあ現実では独立ではなく組み込まれていますが

*5:ここまでエロゲ・ギャルゲ・美少女ゲーム恋愛シミュレーションの使い分けがあまりなされてませんでしたが、別の機会に考えます