ヒロインの複数攻略の件について

エロゲにおける場とは肉体である −時間と空間の女神−

セックスしたいという想いのトキメキを描く作品がエロゲの純愛系には普通に多いかと。


プレイヤーと主人公とヒロインの欲望は別々で、プレイヤーはともかく、ヒロインが物語の最初からセックスしたいわけではないのは普通でしょう。物語の中でヒロインの悩みに相談に乗って解決するとか、そういう過程を経てじょじょに恋愛感情が芽生えます。例えばチンピラに絡まれているところを助けるとか何でもいいんですが、それはプレイヤーにはオマケにも見えるのですが、物語的には重要です。


もちろん結果的には(エロゲーですから)必ずHシーンになりますが、あくまで出発点からそこを目的地にしているわけではないという建前が恋愛には必要なんですね。それは「よし、これからあの娘に恋しよう」という風に直接目的の対象にできないことに由来しています。むしろ事後的に恋していることに気付くのです。


『同級生』とか『下級生』のヒロインもだいたいそうでしょう。『Piaキャロット』とかもそうかな。ただし、ヒロインが最初から主人公が好きな時点から物語が始まって、すぐHするパターンも確かに多いですね。はじるすとか…そういうのを「ラブラブ系」で、過程を経てラストの方でHシーンがあるのを「青春系」とでも分類しておきます。

エロゲヒロインという枠で同一化することはできない、それは我々人間と全く同じですよ。


いや、百人のヒロインが百人別なのはいいんですが、生身の人間とは違ってゲームは反復されますね。さらにマンガやアニメとゲームが根本的に違うところは、作品内で反復があるところです。一人のキャラを攻略したらまたゲームの最初に戻って反復します。ここが現実と絶対的に違うところですね。もちろん選択肢の変化やCGの差分や既読スキップはありますが。

(…)他にもみんなみんな、
かけがえのない私の恋人です!!それぞれの思い出は、私の宝物、大切な、大切な、思い。
みんな、それぞれかけがえのない大切な子なんだ!!一緒くたにしないでくれ!!


そしてその反復は単なる形式的な問題ではなくて、こちらの方にのしかかってきますね。「みんな恋人」というのを現実では「浮気」と言いますね。これは人によって感覚が違うかもしれないけれども、ヒロインを全員攻略してCGをコンプリートするために、わざと他のヒロインを「振る」、更には不幸にする必要があったりするところが、私的にはずっと引っ掛かっています。これはかけがえのなさと矛盾します。


これを解決するには、エロゲを配信制にして、他のヒロインを選べないようにする、とかでしょうか。一人のヒロインを選んだ時点で他の選択肢は消える。こうして反復と総当りの手を消せば、選択に重みが出ます。この話は前に議論になったんですが、そうすると全体の世界観みたいなものが伝えにくいから反対、みたいな意見が多かったですね。

ミステリの場合は連続する殺人がより大きな血と謎解きへの希求を求めさせ、
エロゲの場合は魅力的なヒロインを描くことでセックスしたい気持ちを盛り上げる。
場などは代替可能であり、基本的には副次的な背景に過ぎない。


エロゲの場合は代替可能なことが多いです。ラブホテルでも自宅でもシチュエーションが少し異なるだけで、重要なのは二人の気持ちの方ですから。しかし、ミステリではトリックが重要なので、部屋の家具の配置が少し違うだけでも犯人の可能性が変わってきたりします。古典的な密室殺人のタイプでは、場所が違えばほとんど別の話になります。だから場は重要ですね。


まあ前回の文章が穴が多いのも事実ですが、ヒロインの複数攻略が浮気ではないのかという感覚は他の人が感じているのかは少し気になります。みんな好きなのはいいんだけど、この人こそが運命の人である、というのが反復するとまずいような気がします。そこらへんどうでしょうか。