感想・批評・レビューの違い
感想・批評・書評の条件
感想 :読書の体験を書く = 表現
批評 :作品を明らかにする = 説明
レビュー:作品を紹介する = 販促
批評に思想の表現・感想に感情の説明、という側面もあるでしょう。それにレビューって販促に過ぎないんですか。私はまた違った捉え方をしていますね。
ちなみに僕のやっているのはレビューである。僕自身の好みの作品が増えて欲しいので、面白いと思った作品と客寄せパンダ用に有名な作品を取り扱ったりする。たまに間違えて批評や感想もやったりすけど。
これはちょっとミもフタもない表現で、まあじっさいレビューで取り上げられるのは、好きな作品と有名な作品なのはそうなんでしょうが、感想・批評・書評は重なっている部分もあります。では一体何が違うのか。
- 感想 :私の感想
- 批評 :作品に批評
- レビュー:読者へレビュー
感想は私の感想、批評は作品に関する批評、レビューは(他の)読者に対してのレビューだと捉えています。それは感想・批評・書評が成立するために必要な条件でもあります。私不在の感想、作品不在の批評、読者不在のレビュー、というのは意味がない。
感想は私の感想
例えば、学校の読書感想文がイヤでイヤで仕方ない・なかった人がいて――というか私もその一人なんですが――、評価と結びついているために、心にも思っていないことを書かなければいけない空気があり、私がそう思っていることにしないといけないから、イヤなんですよ。作文が嫌いな人は多いけど、ブログを書く人は多いですよね。書くこと自体は好きなんですよ、みんな。
「みんなはこう思っているでしょうねえ」だとすごくつまらないので、「私」に立脚していることは最低限の条件なんだけど、でも一方、作品に全然関係なくても意味がないわけです。感想が一つの作品というのはある意味そうなのだけれど、別の作品になってしまうと意味がないわけです。では何かと言うと、私と作品が出会うことで、私が今まで思っていなかったような一面が見えることが面白いのです。
皆に私を合わせるのでも、単に私の考えと同じだけでも、予定調和でつまらない。実は私というのは(自分で思っているほど)一枚岩の考えではなくて、私の中の様々な私に光を当てることができる。「感動」は感情が動くことで、作品との対話で変化することです。だから良い感想というのは、私が作品に出会うことで、新たな私の可能性を開くような感想です。
批評は作品に批評
よく「感想と批評は違う」と言いますが、何が違うかと言えば、感想は私の感想だけど、批評は作品の批評なんです。だから、作品を無視すれば、「この批評は作品を読み取れていない」ということになります。また、ここでの作者は、作品に「書かれたものが全て」の存在です。作者が「こういうことが言いたかった」と唯一の読みを決める特権性はない。
批評は作品を読み取らなければいけないのに、作者の意図が関係なかったら、どこに立脚するんだと思うかもしれません。それはつまりこうです。言葉は他者の言葉であって、日本語なら日本で流通している意味がある。自分専用の意味は意味をなさない。そして、言葉は多義的なので、複数の解釈をオーバーロードすることができます。
だから、作者が考えもしなかったからといって、間違いになるわけではない。むしろ、作者の意図に還元しきれないような作品の過剰な意味を見出すのが、面白い批評です。過剰とは単なる比較ではありませんが、といって神秘的なことでもなく、図形に補助線を引くような、借景で見立てるようなことです。だから、良い批評というのは、作品が読者に出会うことで、新たな作品の可能性を開くような批評です。
レビューは読者へのレビュー
そして、レビューには読者が必要になります。感想は私と作品の出会いなので、他人に読まれない日記に感想を書くのは普通です。でも、誰にも紹介しない紹介は虚しいでしょう。だから、読者不在のレビューはつまらない。例えば、「これは大傑作だ。君も読みたまへ」みたいなのは、紹介する時点で先行している紹介者の優越が保証されているので、紹介される方は面白くないわけです。
自己完結したレビューはつまらなくて、説教的より説得的な方が良い。それは、結果より過程の重視でもあります。なぜなら、「買え」と命令しても仕様がないからです。また、出版社・メーカの販促のようになってもつまらない。選ぶのは読者が選ぶわけで、その判断材料を与えるのが役割です。販促は良い材料だけ与えますが、親切に情報を与えてしまうと、読者はそのときは買わないかもしれない。でも、信用できれば、別の機会に買うこともあるでしょう。
そして、私一人に立脚する感想とは異なり、レビューは読者の多様性を踏まえて、誰に向かって紹介するのかが重要です。これが顕著なのは、例えばPCソフトで、環境によっては動かないことがある。逆に、特定の読者層が見落としていた名品・名作を紹介する余地もあるわけです。だから、良いレビューというのは、読者が私に出会うことで、新たな読者の可能性を開くようなレビューです。
関連記事
- 批評とはなにか - 萌え理論Blog
- 二年前のを今読み返したら、全然言葉足らずですね。表にする意味も分からない。
関連書籍
- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/08
- メディア: 単行本
- クリック: 74回
- この商品を含むブログ (151件) を見る