『快盗天使ツインエンジェル』に至る萌えスロの系譜

概要

 今夏に放送しているテレビアニメ『快盗天使ツインエンジェル 〜キュンキュン☆ときめきパラダイス!!〜』(以下、『ツインエンジェル』)は、パチスロを原作としている。そこで、萌えスロの系譜を追ってみたい。

快盗天使ツインエンジェル』に至る萌えスロの系譜

 まず、パチンコ・パチスロは専門外で詳しくないと断ったうえで、「萌えスロット」の分野についておおまかに述べていく。なお、パチンコよりパチスロに注目するのは、『ツインエンジェル』がスロットであるためだ。

 萌えスロットは、2005年の「5号機」登場以降から、本格的に流行*1しはじめるようになった。「萌え」が導入された経緯には、警察の規制強化を受け、出玉のアピールが弱くなるので、そのぶん液晶画面の演出を強化する、といった意図があるらしい。

 そのため、初の5号機『新世紀エヴァンゲリオン*2を筆頭に、アニメ・ゲームの版権物が多く登場するようになる。とくに「萌え」ということで言えば、『ときめきメモリアル』『サクラ大戦』『春麗にまかせチャイナ』『サムライスピリッツ外伝 チャムチャム』『スーパーリアル麻雀』『ひぐらしのなく頃に祭』などが挙げられる。

 いっぽう、版権でないオリジナルの萌えスロットもある。『スーパーブラックジャック』をはじめとして、『Sister Quest(シスタークエスト)』『七色未来』『マジカルハロウィン』などがそうだ。『スーパーブラックジャック』は、後述するアニメ『Rio RainbowGate!』まで含めた、「Rio」シリーズの元祖にあたる。

 このうち『七色未来』は「アドベンチャーパチスロ」、『シスタークエスト』は「ヒロイックファンタジーRPGパチスロ)」と、どちらも業界初のジャンルをうたっている。物語を取り入れようという発想から、コンシューマゲームの一部を取り込んだシステムにしたのだ。

 しかし、パチスロ全体の環境は、たいへん厳しいものだった。2007年に5号未満の機種が、規制により全て撤去対象になったからだ。古い機種のほうが当たりが大きく、客に人気があったが、射幸心を煽るものとして、規制の対象となったのである。

 そうした規制の影響を受け、パチスロ機の販売市場は、2007年から2008年にかけて、台数が約175万台から90万台へ、売上が約5千億円から2千5百億円へと半減する*3。ただ、2008年のパチスロ規制緩和を受け、近年は下げ止まった。

 以上をまとめると、萌えスロは、2005年の5号機世代から流行しはじめた。そこには、出玉規制を受けて、液晶画面の演出を強化する背景がある。『ツインエンジェル』も、その大きな流れの中にあるのだ。

パチンコ・パチスロとアニメ・ゲームの関係

 パチンコ・パチスロ側だけでなく、『ツインエンジェル』を軸に、アニメ・ゲームとの関係も見てみよう。

 アニメ版の原作となったパチスロ台の『快盗天使ツインエンジェル』は、トリビーが2006年に発売した5号機・第1弾だ。これは、サミーの開発支援を受けており、続編の『快盗天使ツインエンジェル2』は、今度はサミーから発売されている。このサミーが『ツインエンジェル』の版権を持っており、アニメの原作にもクレジットされている。

 サミーはパチスロ機の年間販売台数で、市場シェアの多くを占めていた上位企業だった。が、前述の2007年が転換点となる。2006年にはパチスロ台・約52万台/パチンコ台・約13万台という販売数だったのが、2008年にはパチスロ台・約12万台/パチンコ台・約39万台と逆転した*4

 このサミーの親会社は、セガサミーホールディングス。同グループの傘下企業には、トムス・エンタテインメントが名を連ねている。同社は、後述するアニメ『戦国乙女 〜桃色パラドックス〜』を制作している。

 ちなみに、前述の『サムライスピリッツ外伝 チャムチャム』『七色未来』『シスタークエスト』は、SNKプレイモアから発売されている。このSNKプレイモアは、倒産したゲーム企業・SNKから事業を引き継いだ。このSNK破産の入札時、同社を子会社化していたパチスロメーカーのアルゼ*5も参加した。

 パチンコ・パチスロのアニメ化という流れも追ってみよう。『ツインエンジェル』以前には、『吉宗』『うみものがたり 〜あなたがいてくれたコト〜』『Rio RainbowGate!』『戦国乙女 〜桃色パラドックス〜』*6がある。

 パチンコ・パチスロ新台の多くを版権物が占める中、オリジナルでしかもアニメへの逆輸入となるタイトルは、希有な存在だ。高騰する版権料のこともあり、オリジナルコンテンツを育てたい、という思惑があるのかもしれない。

 とくに『ツインエンジェル』には、熱が入っている。というのも、パチスロ初のOVAを出しているし、工画堂スタジオが制作を担当したノベルゲームを無料配布しているからだ。この「無料配布」というところに、パチンコマネーの大きさがうかがえよう。

 最後に、このように、アニメ・ゲーム業界が他の業界に依存しているというのは、昔からのことだ。というのも、かつてのロボットアニメは、玩具会社とのタイアップのもとに成立していた。

 それが時代を経るにつれて、DVD販売やメディアミックスに移行していく。それがさらに、パチンコ・パチスロ企業が新たなスポンサーとなろうとしているだけだ。新たな時代が来れば、また新たな形態になっていることだろう。

*1:それ以前にも、『麻雀物語』『スーパーブラックジャック』などがあった。が、萌えスロというひとつのジャンルを形成していたほど、認知されていたわけでもないようだ

*2:新世紀エヴァンゲリオン』がパチスロに登場するのはこれが初だが、パチンコでは『CR 新世紀エヴァンゲリオン』がすでに登場していた

*3:なお、この時期のパチンコ機市場のほうはむしろ微増している。が、パチンコ・パチスロ両遊技機をあわせたトータルの市場規模で見れば、2005年から2008年まで、やはり減少している

*4:セガサミーホールディングスの2011年度決算資料を参照した

*5:現・ユニバーサルエンターテインメント

*6:ほかに候補としては、Gyaoで放送されたアニメ『いくぜっ! 源さん』がある。しかし、元々の原作はアーケードゲームで、「CR大工の源さん」はその後に出ている。だから正確には、「パチンコ・パチスロ原作のアニメ」ではなく、「パチンコ・パチスロ化もされているアニメ」になる。よって、列挙しなかった