映画『らせん』 ――ホラーからSFへの転換

概要

らせん [DVD]

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情報
紹介

鈴木光司のベストセラー小説を映画化。『リング』と同時上映が相乗効果となり、話題を呼んだ。監督の飯田譲治は、心理的な恐怖を描いた『リング』の中田秀夫とは異なり、具体的な映像を積み重ねたサスペンスホラー映画を作り上げた。

本作の主人公は、前作で死を遂げた高山の死体解剖をした友人の解剖医安藤。死体に残された秘密のメッセージを、高山の恋人だった舞と共に追う。この作品は、貞子の呪いの謎解きをしなければならない分だけ説明的で、ホラーの要素が減ってしまったが、息子を失った解剖医の苦悩を演じる佐藤浩市のヒューマンな演技と、ラストで本作のテーマが家族であることを強く印象づけている。(堤 昌司)

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

 解剖医・安藤満男は、幼い息子を亡くしてから、自殺願望に取り憑かれている。ある日、学生時代の友人・高山竜司の遺体を解剖した時に、胃の中から文字が書かれた紙片を発見。その暗号から「DNA PRESENT」というメッセージを解読した。

 そのような折りに安藤は、高山と別れた妻・浅川玲子と息子の陽一が自動車事故で亡くなった、という連絡を刑事から受けた。陽一は事故の直前にすでに死亡していたらしい。玲子が取材していた呪いのビデオと手帳を、彼女の上司・吉野から渡される。

 ビデオを見た安藤は、呪いの存在を確信。そして、高山の残したメッセージは、安藤の死と引き替えにビデオを消滅させて欲しい、という意味だと考える。そこで、吉野から受け取ったビデオのマザーテープを処分した。

 ところが、ビデオを見ていないはずの吉野が急死。いっぽう、高山の恋人・高野舞と肉体関係を持った安藤は、ビデオを見てから1週間が過ぎても死なない。不審を抱いた安藤は、呪いと貞子の正体に迫っていく……。

解説

ホラーにSFで、謎に謎で答える

 前作『リング』と同時上映された『らせん』は、解答編の位置付けに相当するだろう。ホラーにおける恐怖は、未知の存在への恐怖、という側面がある。それを明かすと、理に落ちて怖くない。だから、どうしても『リング』より恐怖が減じてしまうのは仕様がない。

 だが、ホラーの問いに対して、SFで答えたことで、ホラー性がさらに薄れてしまった。しかも、未知の病気(ウイルス)を前提にしているため、謎解きとしても受容しにくい。というのは、その病気の成立に関して、新たな疑問*1がいくつも生じるからだ。つまり、謎に謎で答えてしまっている。それが本作における最大の問題点だ。

 ホラーの問題にSFで解答するというのは、斬新な手法*2ではある。しかし、それは危うい綱渡りなので、解答の道具立ては、常識的に知られているものに留めておいたほうが無難でもある。

ホラーの恐怖感、サスペンスの緊張感

 ただし、その点に関しては脚本というより、原作がすでに抱えている問題である。脚本を脚本として単体で評価すると悪くない。『リング』同様にサスペンスフルな展開で、観客の興味を惹き続ける牽引力を持つ。

 しかしまた、ホラーの恐怖感、サスペンスの緊張感、スプラッターの嫌悪感、ショッカーの驚愕感、といった各要素は、似ているようで微妙に異なる。どういうことか、具体的に見てみよう。

 たとえば、解剖された高山が起き上がって話しはじめる、という幻覚を安藤が見るシーンが作中にある。それを見た視聴者は、死んだ人間が生き返るという驚愕感、幻覚だと明かされるまでの緊張感、解剖された身体のスプラッター的な嫌悪感、といった緒感覚を受けるだろう。

 それに対して、『リング』終盤で、おそらく高山であろう人物が頭に布をかぶり、黙って玲子のバッグを指さす、というシーンがある。布をかぶっているだけなので、少なくともスプラッター的な嫌悪感は全くないし、サスペンスやショッカーの感覚も相対的に薄い。

 だが、そこには純粋なホラーの恐怖がある。布一枚かぶるだけで、何の説明もなしに、恐怖感を抱かせる。これこそホラーの真骨頂だ。『リング』の続編で説明すればするほど薄まっていく、根源的な未知への恐怖がそこにある。

 『らせん』をはじめとする『リング』の続編は、ホラー色よりもサスペンス色が強い。だから、ホラーを期待すると肩すかしを喰う。サスペンスとして見て、物語の展開と人物の心理を追ったほうが楽しめるだろう。

関連作品

らせん - (角川ホラー文庫)

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らせん (Horror comics)

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*1:拡散を手伝うと呪いから助かる仕組みは何だとか

*2:ジェイソンX』のように、同様の例は他にも見られるが