映画『らせん』 ――ホラーからSFへの転換
概要
- 出版社/メーカー: 角川映画
- 発売日: 2005/03/02
- メディア: DVD
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物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
解剖医・安藤満男は、幼い息子を亡くしてから、自殺願望に取り憑かれている。ある日、学生時代の友人・高山竜司の遺体を解剖した時に、胃の中から文字が書かれた紙片を発見。その暗号から「DNA PRESENT」というメッセージを解読した。
そのような折りに安藤は、高山と別れた妻・浅川玲子と息子の陽一が自動車事故で亡くなった、という連絡を刑事から受けた。陽一は事故の直前にすでに死亡していたらしい。玲子が取材していた呪いのビデオと手帳を、彼女の上司・吉野から渡される。
ビデオを見た安藤は、呪いの存在を確信。そして、高山の残したメッセージは、安藤の死と引き替えにビデオを消滅させて欲しい、という意味だと考える。そこで、吉野から受け取ったビデオのマザーテープを処分した。
ところが、ビデオを見ていないはずの吉野が急死。いっぽう、高山の恋人・高野舞と肉体関係を持った安藤は、ビデオを見てから1週間が過ぎても死なない。不審を抱いた安藤は、呪いと貞子の正体に迫っていく……。
解説
ホラーにSFで、謎に謎で答える
前作『リング』と同時上映された『らせん』は、解答編の位置付けに相当するだろう。ホラーにおける恐怖は、未知の存在への恐怖、という側面がある。それを明かすと、理に落ちて怖くない。だから、どうしても『リング』より恐怖が減じてしまうのは仕様がない。
だが、ホラーの問いに対して、SFで答えたことで、ホラー性がさらに薄れてしまった。しかも、未知の病気(ウイルス)を前提にしているため、謎解きとしても受容しにくい。というのは、その病気の成立に関して、新たな疑問*1がいくつも生じるからだ。つまり、謎に謎で答えてしまっている。それが本作における最大の問題点だ。
ホラーの問題にSFで解答するというのは、斬新な手法*2ではある。しかし、それは危うい綱渡りなので、解答の道具立ては、常識的に知られているものに留めておいたほうが無難でもある。
ホラーの恐怖感、サスペンスの緊張感
ただし、その点に関しては脚本というより、原作がすでに抱えている問題である。脚本を脚本として単体で評価すると悪くない。『リング』同様にサスペンスフルな展開で、観客の興味を惹き続ける牽引力を持つ。
しかしまた、ホラーの恐怖感、サスペンスの緊張感、スプラッターの嫌悪感、ショッカーの驚愕感、といった各要素は、似ているようで微妙に異なる。どういうことか、具体的に見てみよう。
たとえば、解剖された高山が起き上がって話しはじめる、という幻覚を安藤が見るシーンが作中にある。それを見た視聴者は、死んだ人間が生き返るという驚愕感、幻覚だと明かされるまでの緊張感、解剖された身体のスプラッター的な嫌悪感、といった緒感覚を受けるだろう。
それに対して、『リング』終盤で、おそらく高山であろう人物が頭に布をかぶり、黙って玲子のバッグを指さす、というシーンがある。布をかぶっているだけなので、少なくともスプラッター的な嫌悪感は全くないし、サスペンスやショッカーの感覚も相対的に薄い。
だが、そこには純粋なホラーの恐怖がある。布一枚かぶるだけで、何の説明もなしに、恐怖感を抱かせる。これこそホラーの真骨頂だ。『リング』の続編で説明すればするほど薄まっていく、根源的な未知への恐怖がそこにある。
『らせん』をはじめとする『リング』の続編は、ホラー色よりもサスペンス色が強い。だから、ホラーを期待すると肩すかしを喰う。サスペンスとして見て、物語の展開と人物の心理を追ったほうが楽しめるだろう。
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