『ラブプラス』コメントプラス
概要
作品
- 出版社/メーカー: コナミデジタルエンタテインメント
- 発売日: 2009/09/03
- メディア: Video Game
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報道
「ラブプラス」発売4日で5万本 “彼氏”の2ch書き込み、なぜ過熱 - ITmedia News
エンターブレイン社によると、推定販売本数は6日時点で4万7854本。「週刊ファミ通」の長田英樹編集長は「恋愛ゲームとしてはかなりの売れ行き」という。
概要
ニンテンドーDS用ソフトの『ラブプラス』(コナミデジタルエンタテインメント)が、発売4日で5万本弱の売上を記録し、「恋愛ゲームとしてはかなりの売れ行き」を見せている。ではなぜ、『ラブプラス』はそのように盛り上がっているのか。先行する考察をもとに、コメントを加えて(プラス)していこう。
コメントプラス
現実から人工現実へ
ラブプラス周辺の現象を通じていろいろ考えた。(……)まず前提としてえろげだろうがギャルゲーだろうがなんだろうが、とにかく二次のすべては現実逃避だということだ。(……)現実逃避が前提であるとして、なにから逃避しているのだろう。俺は大雑把にいって逃避には二種類があると思っている。世界からの逃避と、自分からの逃避。(……)ところで、最近はどうやら三種類目が存在するらしい。ラブプラスについて知ったときに俺が直感的に思ったのがそのことだ。(……)ラブプラスをやっている人たちは、自分のことを「彼氏」と称することがある。(……)「彼女ができました」という表現は、それがあらかじめ多くの人(この場合はラブプラスをやっている人)に共有されうることを前提としている。
上記の参照エントリを、私が要約すると、『ラブプラス』においては、従来の現実逃避と異なり、物語や主人公抜きで、虚構直接が消費されている、といったところだろうか。
「現実逃避」という部分について異論もなくはないが、ゲーム有害論の文脈で昔からよくある議論のパターンに陥るため、くどく説明せず、注に回す。 *1 *2 新味のある論点は、従来型の物語消費と異なるという点だ。
これは要するに、『初音ミク』や『アイドルマスター』といった、バーチャル系のキャラクター・作品と、同じ流れに属する、ということではないか。じっさい「俺の嫁」は、ニコニコ動画でよく用いられた言葉*3だろう。
とすると、元エントリが言うように「現実逃避」だとしたとき、それは現実から虚構への逃避ではなくて、現実から人工現実(バーチャル)への逃避に変わっている、というようなことだろうか。
ここで人工現実とされているものが、従来の虚構とどこが違うのかといえば、3Dグラフィック、時間の同期性、携帯性、といった技術面での違いがまずある。
さらに、ネットのコミュニティで話題を共有できる。これによって、少なくとも、コミュニケーション面で「逃避」とは感じられず、むしろ「参加」しているような感覚があるだろう*4。
あとは、人間側の認知の問題だろう。たとえば、ペットを飼うことについて、「虚構」だとは言いがたい。動物は生きているからだ。
そこから類推すると、インターフェイスが携帯用ゲーム機である、ロボットに対して接する感覚に近いのかもしれない。たとえば「AIBO」や「アシモ」が受容されているようなものだ。
長編シナリオから時間同期へ
「萌え属性」の次の時代を予感させる『ラブプラス』 - シロクマの屑籠(汎適所属)
「萌え属性」にほとんど依存することなく、『ラブプラス』は破壊力の強いギャルゲーに仕上がっている。偏執的なキャラクターの創りこみと複合的なインターフェースをもってすれば、「萌え属性」に頼らずともプレイヤーを虜にできるということを『ラブプラス』は証明しているようにみえる。『ときメモ』以後、「萌え属性」の流行に乗り遅れ続けたコナミ制作陣の、執念のようなものを感じずにはいられない。
元エントリでは「次の時代」とあるが、むしろ私には「前の時代」の流れが復活したように感じる。どういうことか。
『ROOMMATE〜井上涼子』(シリーズ)という美少女ゲームがある。プレイステーションの周辺機器「ポケットステーション」*5やセガサターンの内蔵電池を利用して、プレイヤーの現実世界と時間を同期したものだ。
また、現実世界との同期ではないが、虚構世界内にリアルタイム*6の時間が流れる、美少女ゲーム『ノエル』(シリーズ)も、似た発想を持つ。まあ、両者とも携帯用ではないが、これら作品のコンセプトが早すぎた、ということは言えるかもしれない。
あるいは、「伺か」のようなデスクトップマスコットも、普段使うPCに常駐してキャラクターと日常を共有する、という点でそうした流れを形成している勢力のひとつだろう。
とにかく、『ラブプラス』(のキャラクター)が「ひとつのジャンルの母として語られる」ことがあれば、『ラブプラス』もまた母を持つのだ、ということは指摘しておきたい。
それから、時間同期性を持つ美少女ゲームは、「萌え属性」(萌え要素)と両立すると考える。対立するのは、属性よりも物語だ。というのも、(「ときメモ」以降から「ラブプラス」までの)エロゲ界を支えたベースは、萌え属性よりも、むしろ「ノベルゲーム形式+大長編シナリオ*7」だと捉えている。
なぜそう言えるのか。たとえば、エロゲ界の『Fate stay/night』は、同人・ギャルゲ界の『ひぐらしのなく頃に』は、萌え属性によって大ヒットした作品だろうか? そうした要素も見られるが、それなら同ジャンルの他作品の方がありそうだ。ヒットした要因は、重厚長大なシナリオと、それへの没入がまずあると思う*8。
時間同期・携帯型のゲームと、大長編シナリオとは、大変相性が悪い。というのは、携帯で移動時にプレイしていたりすれば、シナリオ上の大事な部分がぶつ切りになってしまう。それに、時間同期でその時間にプレイしないと先に進めない、というのでは面倒だろう。フラグ立てが加わってくればなおさら複雑だ。
まとめると、『ラブプラス』は、萌え属性へのアンチテーゼというよりも、「ノベルゲーム形式+大長編シナリオ」*9に対するアンチテーゼだと、私は考えている。
物語から行為へ
なので,私も一つラブプラスについて何か考えようか…と思ったんだけど
何も思いつかない.すごい新しい多幸感があるのは分かるんだけど,何によって生まれてるのか,何が新しいのか,説明できない.
とりあえず「やればわかる」ってことぐらいしか言えない.
かつて、面白いが説明しにくいと私が思ったものに、『高機動幻想 ガンパレードマーチ』がある。この作品は、物語やキャラが単体で面白いというよりも、AIとコミュニケーションを重ねていくことで、バーチャルな世界内で独自の環境を形成していくところが面白い。
物語や設定やキャラクターや萌え要素の単体が面白ければ、(相手が分かるかどうかは置いておき)とりあえず説明できる。物語(を駆動する設定など)は文字ベースで展開するからだ。しかし、携帯性と同期性によって、少しずつ経験を蓄積していく、行為ベースのゲームは説明しにくい*10。
とすれば、行為ベースのゲームを説明する言葉の開発が求められる。あるいは、近年のリッチなWeb環境を利用して、言葉だけで説明しようとせず、プレイ動画で見せていくようになるのかもしれない。
関連商品
ラブプラス公式ガイド (KONAMI OFFICIAL BOOKS)
- 出版社/メーカー: コナミデジタルエンタテインメント
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*1:まず、エロゲやギャルゲに限らず、趣味一般が逃避たりえることを指摘しておく。しかしでは、仕事は逃避たりえないか。いや、「ワーカホリック」というのも逃避ではないだろうか? 「現実からの逃避」ではなく「現実への逃避」ということもありうると考える。
*2:「フィクションのキャラクターを価値のあるものとするならば、現実に存在するものはすべて価値がないものになる」のは「理屈としてはあたりまえの話」とは限らない。価値の重み付け、優先度設定は異なるだろうが、現実も虚構も価値を認めることもできる。要するに、オールオアナッシングの考えで、嗜好品を過剰に摂取すれば毒になる、というようなことだろう。
*3:もちろん、レトリックだから、真に受けないにしても、そういう願望はあるだろうということ
*4:その参加自体が社会的には逃避である、と言えなくもないが
*5:美少女ゲームではないが、これを利用した「どこでもいっしょ」や、さらには「たまごっち」も、バーチャルキャラクターという文脈では関連してくるだろう
*6:フィクションタイム?
*8:もちろん、二次創作が広がる際には、萌え属性が開花して駆動要因になるだろうが、それは二次的要素だ
*9:さらに言えば、「学園異能」のようなファンタジー的設定、「ループもの」のようなSF的設定
*10:台詞を引用したり、演出や操作性について言及することはできる