同人市場の一般・成年向け比較

概要

前エントリでは、DL同人市場について、一般/成人向けの比較調査を行なった。今回は、一般(店頭・通販売り)の同人流通市場で比較したい。今回はすでに調査されたWeb上のデータを参照する。

議論の前提の再設定

その前に、前提を整理して明確にしておく。

まず、一連のエントリが何に対する反論なのかといえば、コミケのサークル数だけで判断することへの反論、成年向けが3割にも満たないであろうとしていることへの反論だ。

同人分類表 一次創作 二次創作
一般向け A:健全創作 B:パロディ
成年向け C:アダルト D:エロパロ

それから、最初の「内外タイムス」の「同人誌=キャラをパクったエロ漫画」が、明らかに表のDのみ(エロかつパロ)を指しているので、これは支持しない。「傾向として間違っていない」と書いてしまった。しかし、Cには前回取りあげたDL同人の大半が入ってくるので、撤回してより正確に訂正する。

「キャラをパクってたりエロかったりする」という言い方で、表のB〜D(エロまたはパロ)を指す場合、「傾向として間違っていない」。

ただそれでも、Aには累計で億単位の売上を上げているだろう『ひぐらし』と、『うみねこ』、『東方』の一次創作作品がある。サンホラなどの音楽同人もある*1

さらに、有力絵師がフルカラー本で薄くて高くてエロもパロもなしの本をたくさん刷っている、なんていうことはいくらでもありそうだ。

しかも、女性向け(やおい)の健全創作がある。これが一番多いかもしれない。地方イベントは女性の方が多いだろうし、健全創作の割合も多いだろう。これは、サークル数ベースだけではなく、部数でも売上ベースでも多いかもしれない。

それらが押し上げているので、意外と多いかもしれない。色々要素を考慮しているうちに、正直言ってかなり弱気になってきた。しかし依然として、やはり健全創作が主流ではありえないと思う。

前置きが長くなったが、データを見よう。

とらのあな取り扱い同人誌調査を見る

今回は「とらのあな取り扱い同人誌 作品別18禁率調査2008/12/27」のデータを用いた。なお、加工して視覚化したのみで、データが正しいかどうかの検証はしていない。また、去年の古いデータである。そのかわり、私が調べることによるバイアスの混入がない。

同人誌の一般/成人比率比較


単純に表の総タイトル数を合計して、一般向けと成年向けの総タイトル数と、その割合を円グラフにしたもの。一般向けの方が多くなっている。なお、元サイトにもある、各タイトルごとの割合を平均したものでは、成年向けの方が多くなる。

まず、とらのあなは一社でも大きい(同人市場の一割程度)ので、コミケ=同人全体ではないという相対化の意味だけでも、この比較の意義はあるだろう。

もっともこれはタイトル数なので、やはり部数ベース、売上ベースでは、比率が異なってきそうだ。おそらく、前エントリのDL同人と同様に、成年向けの方が伸びるのではないかと思う。

そのかわり同人ショップは売れないもの*4を置かないので、コミケの成年向けが濃縮還元されて濃度が上がっているだろう。

しかし、コミケで売った在庫を同人ショップに流すのは自然なので、前回のDL同人よりも、コミケと同じ本を売っている確率が高いと推測できる。

一般/成人比率比較の内訳

▲各タイトルの全体数(一般・成人合わせた数)の大きい順に整列して、波線グラフ化したもの。X軸がタイトル数で、Y軸が部数、上の波線が各タイトルの全体の部数になる。

波の2ヶ所に大きな谷が見られる。ひとつ目は、全体数トップの『東方Project』の同人誌、ふたつ目は、『マリア様がみてる』だ。この2タイトルは、一般向けの比率が高く、比率に大きな影響を与えている。

女性向け作品について

元データを見ると、女性向けが多い作品*5の成年向け比率は、比率が半分以下で、逆に比率が半分より多いタイトルは、男性向けだった。典型的なのが『ToLOVEる-とらぶる-』で、100%が成年向けだ。

データから、相対的に、女性向けの方が成年向けが少ないと言える。しかし、発端の「コミケにありがちな誤解」では、成年向け(エロ)に含めてすらいなかった。たとえ女性・成年向けの描写が、男性・成年向けに比べてライトでも、含めていないことについては、やはり妥当な分類ではないだろう。

*1:この分類ではイオシス初音ミク界隈はBに入る

*2:via http://gamenokasabuta.blog86.fc2.com/blog-entry-1201.html

*3:http://b.hatena.ne.jp/myrmecoleon/20090831#bookmark-11508671

*4:それ以前に、あまりに少部数だったり、ホチキス止めのコピー本だったりするもの

*5:ちなみに、どのタイトルが女性向けかは、「作品別腐女子率」を参考にした