二次創作の優位性

ファーストフードの美味さ、マッシュアップの上手さ

前回は、創作におけるリアルとバーチャルを巡る問題系を考察したが、今回は、オリジナルと二次創作の微妙な関係を考えたい。

この手の話は、一次創作(オリジナル)より二次創作のほうが質が低い、という固定観念で語られがちだ。しかし実態は逆で、二次創作を作るほうが、成果の質が高いのではないだろうか。

なお、ここで「優位」というのは、原作に対して二次創作が上回るという話ではなく、同一人物が同じ時間で一次創作と二次創作を作ったとき、二次創作の生産性のほうが高い、だから二次創作に人が流れる、という話である。

コミケもそうだが、最近できた「Pixiv」(動画だが「ニコニコ動画」も)のランキングを見ても、どうみても「ボーカロイド」や「東方」の二次創作絵が多い。「Pixivランキング爆発しろ」と思う参加者もいそうだ。それはコミュニティが未熟だからではなくて、単に、アウトプットのクオリティが高まるからそうなると考える。

もちろん、二次創作は原作のキャラへの人気で、評価が甘くなる面はあるだろう。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の逆で、「キャラが好きなら絵(絵師)まで好き」と、評価が多少は連動しているはずだ。それに、二次創作の絵が下手に見える場合もやはりある。それは突出して原作が上手い場合や、原作に思い入れがあって美化している場合などだ。

二次創作の優位性

だがそれらを考慮してもなお、二次創作の質は高い。それは、たとえれば、下手なオリジナル料理より、ファーストフードのほうが美味しいようなものだ。ブログだって、トラバで流行の話題に乗ったエントリのほうが、読者にはウケるだろう。さらにいうと、フルスクラッチ(一から作る)より、マッシュアップ(ありあわせで作る)のほうが、同人物・同時間での生産性が高い、ということに似ている。

ブログなのでたとえだけで適当に流してもよさそうだが、もう少しきちんと生産性の話を突っ込んで説明しておこう。一次創作の場合、キャラクターデザインも自分でやる必要があるから、同じ人間が同じ時間で絵を描けば、最初からデザインパターンが出来上がっている、二次創作のほうが有利になる。ある意味当然の結果だ。

しかも、商業はともかく、同人での一次創作は、たいてい自分一人〜サークルの数人だけで作るので、キャラクターに合う作風を確立するまで、試行錯誤する時間が必要だ。それに対して、二次創作は同人間に流通しており、百枚、千枚単位で、既に完成した絵を見ていて、絶対的な基準ではなくても、ある程度「これは失敗作」「これは成功」といった検証作業が済んでいる。

絵の話だけでなく、実際のマンガ同人誌では、二次創作だと物語の設定に対する基本的説明を省ける。同人誌は諸般の事情で薄くなりがちだが、二次創作は読者の仮想記憶の分、ページが余分に取れていると実質的に見なせるのだ。ただし、この仮想記憶は読者の記憶なので、原作を知らないと解読不能になる。

一次創作と二次創作が共存できる環境を

ここまで述べたように、一次創作に対して二次創作はある種の優位性を持つ。それは、仮想的な形ではあれ、作業とその成果を、読者まで含めた集団で、共有できるところにある。この共有化には、ネットの発達がかなり影響しているに違いない。

オリジナル性をないがしろにしているわけではない。独創性が重要だというのは、近代的な作家観に由来しており、もちろん大きな意義がある。だが、二次創作の優位性を考慮しないで、オリジナルは素晴らしい、「一次より優れた二次など存在しない」、という建前だけでは、実態と乖離して、かえって一次創作が寂れていくように思える。商業でも原作を他から持ってくる(あるいはリメイクする)手法が目に見えて増えているので、これは同人だけの話でもない。

ただ、優れているといっても、二次創作は定義上、一次創作から派生するので、一次創作が不要だという結論にはならない。私としては、一次創作と二次創作のどちらかが良くてどちらかがダメだとは考えず、共存できる環境が良いと考える。そして、権利問題など難しい問題を抱えるので、その共存の方法は、一筋縄ではいかないだろう。