物語にとって「場所」とは何か

身辺雑感/脳をとろ火で煮詰める日記: 物語の中の「場」
via REVの日記

α 主体 主語 主題
β 場所 述語 動機

物語の場所

確かに物語における「場所」は軽視されている。鑑賞者はまず人物を見るので、背景である場所はミッシングリンクなのだ。では場所とは何か。差し当たっては文字通りの物理的位置のことだが、組織における規則や人間関係のような抽象的なものも指す。以下、考察してみよう。


構造としては、場所は主体と対になる。例えば「学園異能」は、「学園」という場所で「異能」を持った主体が活躍する物語だろう。むろんそれだけなら誰でも分かる。ここでさらに、文法的な構造との関係を考えてみる。どういうことか。


「AはB(である)」「Aが(Bする)」というとき、Aの方が「主語」、Bの方が「述語」である。物語の場所は(可能な)述語の集合であると考えれば、定義が明確になる。大雑把に言うと、設定とか世界観というものを統一的に扱える概念だろうか。


例えばコメディという場所(ジャンル)においては、人物が「死ぬ」という述語は、ふつう禁止されている。『こち亀』の両津はダンプに跳ねられた位では死ぬどころか骨折のような怪我も負わない。一方で『デスノート』ではノートに名前があるだけで死んでしまう。これが場所の違いである。ちなみに両者とも人物ではなく場所(道具)が題名になっているのも面白い。

推理の場所

場所がきわめて重要なジャンルに、ミステリが挙げられる。そこでの登場人物の性格は、殺人事件が解決するまで不確定である(善良そうだが実は〜)。場所は述語であると述べたが、ミステリではアリバイ(存在証明)が焦点になる。しかも、叙述トリックなどは文字通り述語を巡る物語装置である。


そして、ミステリ系統で文字通りの場所が前景化されるのが、閉鎖空間ものである。エロゲギャルゲなら『慟哭』や『蘇生』がある。もう少し広く取って場所を前景化をする『河原崎家の人々』などを含めてもいいだろう。実はそこでの物語は、場所が主役だというのも興味深い。


主体と場所の結合の強度で、密結合と疎結合というように分けるならば、一般的にミステリの系統は密である。逆に疎なのは平凡な学園ものだろうか。名探偵も事件がなければただの人である。密室殺人の「密室」とは場所に謎を持たせている例であり、更に言えば部屋の一つ一つがキャラ立ちならぬ「場所立ち」している。


「グランドホテル形式」のように昔からあるが、最近の作品で場所立ちしているのは、『ひぐらしのなく頃に』である。「頃」を分解すると「ヒナ見」になるように、場所の設定に凝っている。ファンサイトや二次創作でその名前を多用していることからも伺えるが、この作品では白川郷をモチーフにした「雛見沢」という場所が非常に重要になっている。

動機の場所

物語の目的が主題なら、その手段が動機である。物語の目的に沿って行動するのは「主人公」だが、物語の手段になるような場所を指す言葉が思いつかない。とりあえず「主モチーフ」とでも呼んでおこう。ロボットアニメはこの主モチーフであるロボットが非常に重要になるジャンルだ。


ロボットアニメのロボット自体は物語の目的ではない。ほとんどは敵を撃退するのが目的なので、ロボットがどのような形状をしていようが、本質的な問題ではないはずだ。だが、例えば玩具やフィギュアまで視野に入れた商品としてみれば、このロボットの出来によって作品の価値が決まってしまうこともある。例えば初代ガンダムは実は打ち切りなのだが、視聴率よりも玩具の売上げが影響しているらしい。


エロゲにおけるHシーンも主モチーフである。例えばファンタジーもので敵を倒すという目的があったとして、それが作品内の現実での生死が掛かっていたとしても、プレイヤーから見て重要なのはヒロインの攻略にある。当たり前の話に見えるが、Hシーン自体は物語の目的ではない。このことを最後に確認してみよう。


もちろんプレイヤー(制作者側も)は、Hシーンを目的にしている。しかし、特に純愛系の作品では直接それを目的に描くわけにはいかない。それが見え見えになると萎える。約束事を約束事でない「出来事」のように描かないといけない。あるいは何度も反復されている処女喪失のようなモチーフを、一回性のものとして描かなければならない。これがエロゲのアポリア(難題)である。