(純愛系)エロゲ・ギャルゲの主人公に求められる力とは
今北産業
パッとしないエロゲの主人公ですが、では求められる力は何でしょうか。
イケメン・金持ち・優等生にも振り向かないヒロインがなぜ惚れるのか。
「それがエロゲのお約束だから」という逃げ道を封じて考えていきます。
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共感力
結論から言ってしまえば、ヒロインたちに対する共感力のようなものでしょうか。主人公はパッとしないがシンクロ率は高い。そしてこれは、特に泣きゲに見られる傾向ですが、ヒロインのトラウマに主人公がいかに共感するかが、物語を語る上での主な興味になっています。具体的にどういうことか見ていきましょう。
難攻不落なヒロインがなぜ落ちるのか
ただでさえ、他の女の子が群がるイケメン・金持ち・優等生に少しも屈しないのに、その上完全に嫌われている状態でスタートする、という難攻不落タイプの話があります。このタイプは搦め手を描くパターンで簡単にほぐれます。
ヒロインは独自の信念や理想を持っていて、それは一人の人物に体現されていて、その人物とは今は亡き父・兄、離別した恋人、その他先生的な人物なのですが、主人公に段々その影を重ねて見るようになっていき、心を許します。その後、主人公は主人公だと別人格を認めるのに苦悩する展開もオプションで追加できます。
振り返ってみると、最初の主人公に対する低い評価というのは、無意識の内に理想的人物と同じ座標軸に重ねてしまったので、属性の違いがヒロインの目に付いたというわけです。理想的人物よりがさつであるとか能力が低いとか。でもそれは実は最悪の評価のように見えて、関心の対象になるだけましなのです。
最初から好意を持っているヒロインの場合
では逆に、わりと最初から好意を持っているタイプのヒロインはどうでしょう。この場合、妹とか幼馴染とか既に親しい関係を持っていることも多いです。最初から好きなら話はすぐ終わりそうですが、そこをどう波乱を作っていくのか。
よくあるのは、主人公の誤解パターンです。例えば主人公の友人もヒロインが好きだったことが判明し(たと思い込み)、自らは身を引くつもりでわざと冷たく接するとか。誤解は雪だるまのように大きくなり二人はすれ違うようになる。クライマックス近くではヒロインが行方不明になったりします。
そういうときはたいてい、学校とか商店街を回ってみるけど居なくて、最後に想い出の場所に行くというパターンになります。もちろん終盤までにその場所のCGが一枚位はあった方が効果的でしょう。とにかく主人公は傷つけたことを謝ります。
他者の場所から欲望する
主人公はヒロインの場所から欲望します。*2ヒロインの苦しみで我がことのように傷つく。自分のことよりも彼女のことを心配する。つまり、ヒロインが何か問題を抱えているのだけれど、それを代わりに主人公が葛藤するのが、シナリオの基本的な構造になります。今は亡き大切な人の代役になろうとしたり、今までの報われない想いを引き受けます。
「相手の立場になって考える」「思いやりがある」「仲間思い」と言えば聞こえはいいのですが、この負の側面も見てみますと、主人公はいわばヒロインのスケープゴートになろうとしているとも見れます。ヒロインが負った精神的外傷を、主人公は進んで自らに投影させます。この現象は例えばミステリ系の作品でも顕著に見られます。
シャーロックホームズのような天才推理型の探偵は、中立で外的な立場で犯人を探し、その思考の過程は決して一人称で描かれません。対してハードボイルド型の探偵は、私的な立場*3で犯人を探し、時には自分が犯人の濡れ衣を着せられたり、大事な人間が傷ついたりして、単なる推理のパズルではなく精神的にも巻き込まれます。
*1:エロゲ関連の話題は連続していますが、独立して読めるようにし、最近の過去記事のリンクはなるべく貼らないようにします。前置きが長いと自分でも思うので。代わりに今北産業を設けます
*2:こういう独特の言い回しはジジェクに影響されていますが、気にする必要はありません
*3:例えば依頼料が無くても請け負います。いや、最初は別の簡単な依頼から始まりますが、しだいに個人的な問題に結びつく
*4:更には雛見沢という場所が転移してきます
*5:他の人物は事情を知っていることが多いから、主人公に怒らせるパターンは仕方ないんですが
*6:色々な意味で鬼です
*7:選択肢がないにも関わらず、ゲームの進行につれて、選択肢(分岐)の場所を選択(推理)するようになる、というのもメビウスの輪