「Evernote」で挫折しない、普通の人のための使い方
概要
- すべてを記憶する | Evernote(日本公式サイト)
登録者が1200万人を超え、そのうち約3割が日本ユーザ*1だという人気沸騰の情報管理サービス「Evernote」(エバーノート)。しかし、とても多機能で便利な反面、挫折者が多いサービスだと言われています。そこで、普通の人が挫折しない利用法を考えましょう。
紹介
エバーノートを、さいきん私も使いはじめました。なぜ使っているかというと、「情報の箱庭を作れる」ところに魅力を感じるからです。自分好みにカスタマイズできる自由度の高さがあります。私は箱庭萌えですから、すぐハマりました。
アナログでたとえれば、「書斎」の魅力でしょうか。そこには「プライベートな空間にひたる享楽」があります。対象がなんであれ、理想の自己を映した縮図に見えるとき、人は享楽を感じます。多機能で便利なソフト(パッケージ)は他にもありますが、書斎感がありません。たとえば、マイクロソフトの「オフィス(One Note)」は、書斎というより「事務所」です。
それでは具体的に、エバーノートで何ができるのしょうか。基本はテキストベースです。「ノート」という単位でリッチテキストを作成し、スケジュールでもアイディアメモでも、自分に関する情報を書き込みます。そして、分類するためのタグを付け、「ノートブック」というフォルダに格納していきます。しかしもちろん、それだけではありません。
ローカルPCのクライアント、サービスのアカウント、メール、スマートフォンと入力手段が豊富で、外出時にも書き込めます。画像やPDFを閲覧できたり、エクスポートできたり、ウェブで公開できたりと、出力手段も多彩です。また、全文検索をはじめ、タグの絞り込みや期間指定など、検索手段が多いので取り出しやすい。そして、ローカルとサーバで同期して、自動バックアップが取れます。
そのように記録すると何が良いかというと、エバーノートが「第二の脳」と呼ばれるように、「記憶しなくてはいけないプレッシャー」から解放してくれます。忘れてもいいというのは、想像以上にストレスフリーなんです。
ほかにも、日本法人があるくらいなので、日本語で利用できるのはもちろんのこと、日本語のドキュメントも充実しています。また、解説書が何十冊も出ています。さらに、「ツイエバ」や「hatebte」など、他サービスと連携できる外部サービスが出そろっています。このように利用環境が整備されているため、海外のサービスでも始めるハードルは低くなっています。
挫折
Evernoteに「挫折」するのはなぜなのか - nanapi Web
Evernoteはなぜ「挫折者」を生むのだろうか。(……)記者が最も納得したのが、「理想と現実のギャップが大きい」という意見だった。
しかし、エバーノートで「挫折」する人も少なくないようです。そこで、エバーノートにおける「理想と現実のギャップ」、そして挫折の克服法について考えます。
私がエバーノートを使ってみたところ、「すべてを記憶する」だとか「情報を一元化する」といったスローガンに反して、じつはストックではなくフロー向きだと感じました。「第二の脳」というのも、わりとキャッシュ的に捉えています。
つまり、エバーノートの理想はストック指向でも、現実はフロー向きで、その解離が挫折者を生んでいると考えます。比較すれば、たとえば「ツイッター」には、こうした解離が相対的に少ないと思います。140万字の小説を書くことを、運営側も利用側も想定していないですから。
なぜ、エバーノートはストックよりフロー向きなのでしょうか。それは、スペシャリストではなくジェネラリストだからです。大量で専門的な仕事は、スペシャリストに任せたほうがはかどるのです。エバーノートだけでなんでもやろうとすると、「部下に任せられなくて、仕事を抱えすぎて忙しい中間管理職」みたいになります。管理するのが仕事なのに、自分が管理できなくなります。
より具体的に言います。エバーノートは多機能ではありますが、個々の機能は高性能ではありません。どの機能ひとつとっても、専用ソフトのほうが優れています。たとえば、テキストを書くという基本的な機能からして、テキストエディタのほうが書きやすい。リッチテキストより、プレーンテキストで書きたいから。ToDoリストにしても、GTDツールのほうが、リマインダーがあったりして本格的です。
ほかにも、PDFならPDFビューア、画像なら画像ビューア、音声なら再生プレイヤー、検索ならGREP検索ソフト、パスワード管理なら管理ソフト、同期や共有ならストレージサービス……と、あらゆる分野で専用ソフトのほうが性能的に勝ります。しかし、エバーノートは参謀的な役割なので、一騎打ちで勝つ必要はありません。
克服
(By Yuya Tamai)
分かりやすいよう、イメージで説明します。エバーノートがフロー向きだと言ったのは、たとえれば「コンビニエンスストア」的に使えるということです。コンビニは「万能」ではなくても「便利」なのです。便利さとは、すぐに必要なものがひと通りそろう手軽さです。品ぞろえで、書店や文房具店などの専門店に勝つ必要などないのです。
あるいは、マンガ喫茶にレストランなみの食事や、ホテルなみの宿泊施設は必要ないのです。それを目指すと、かえって中途半端に高くて使いづらいサービスになってしまいます。美味しいところだけつまんで、良いとこ取りで勝負すればいいのです。
私が目指すのは、データの量は少なくてもよく整理され、重要なものがすぐ使える「小さな書斎」なのです。本棚に収まらない本は床に積まずに、部屋から追い出しましょう。書斎=エバーノートと、書庫=はてなブックマークや応接間=ツイッターは、別でもおかしくありません。書斎の快適さを守るには、整理と使い分けが必要です。
というと面倒そうですが、逆に言えば書斎だけキレイにしておけば、家=PC全体は多少散らかっていても大丈夫です。よく使うものが集められているからです。「集中と選択」です。
書斎として使うには、とりあえずでなんでも放り込んではいけません。玄関から来た荷物をそのまま入れていくと、「大きな物置」になってしまいます。物置を書斎として使おうとすると、数多くの目印(ノートブック、タグ)が必要になります。そこには、ささやかな箱庭づくりで遊ぶ余裕はもはやなく、棚おろしやピッキングのような「作業」になってしまいます。だから、挫折しやすいのです。
だから私は、ToDoリストなどのGTDツールや、アイディアメモ、ショートカットキー一覧、資料にするWebリンク集、PDF形式のマニュアル、壁紙的な観賞用の画像(この辺が書斎的な遊び)など、よく見るものに絞り込んで置いています。複数のソフトやサービスでも、似たようなことはできるでしょうが、エバーノートで済ませたほうが手軽です。
挫折しないために必要なのは、ノウハウではありません。ビジョンなのです。エバーノートはコンビニだと思って使えばたいへん便利です。逆に、「大規模ショッピングセンター」をひとりで構築しようとするのは、無理とは言いませんが大変そうです。足りないものは、専門店=専用ソフトでそろえればいいでしょう。
大きな管理 VS 小さな管理
- 大きな管理
- 最大幸福を指向(すべてを入れる)
- 連携サービスで入力を自動化する
- データを削除せず、増えるに任せる
- 小さな管理
- 最小不幸を指向(必ず取り出せる)
- 手動で厳選して入力する
- 不要なデータはつねに消す
たとえだけでなく理論化しますと、「大きな管理」に対する「小さな管理」という概念を提唱しているわけです。大きな管理が一元的な環境に包摂する「コロニー」を指向するのに対して、小さな管理は多元的な環境を横断する「コモン」を指向します。
大きな管理から見ていきます。はてブのホットエントリに入ったエバーノートの先行記事は、どれもライフログ的用法を勧めるので、削除することを想定していません。
すると、データが際限なく増えるため、ノートブックやタグの分類が細分化していくか、未分類で溜まって取り出しにくくなっていきます。最初は「ストレスフリー」の環境づくりや時間短縮が目的だったはずなのに、動作が重くなることもあって利用に時間が掛かります。
多様な連携サービスが使えるのはいいことですが、必須ではありません。自動化で省けるのは入力の手間だけです。あとでデータを分類したり検索するコストはむしろ増えます。じつは、「自動化すると手間が増える」という逆説的な罠が潜んでいたのです。
対する、小さな管理を実現するのに、難しいことはありません。使いこなせるデータ数に制限すれば、肥大化しないから細分化もしません。入力の時点で厳選して入れます。そして、ノート数が一定の数を超えたら、不要なものから消していくだけです。入力時にデータをコピーで入れると、元が他に残っているので、心理的に消しやすいです。
より具体的には、使用しなくなったノートは、「Inbox」に対する「Outbox」というノートブックに入れて、作成日か更新日が古い順に、確認して消していきます。Inboxに入れたぶんだけOutboxで消して、ノート数を一定に保ちます。コンビニの棚に賞味期限切れの食品を置かないようなものです。
小さな管理では、データの量より質(S/N比)を重視します。大量のデータを扱うのは、専門のソフトに任せます。エバーノートは「赤魔道士」なので、育てすぎないほうが、かえって使いやすいです。そして、一元化しなくても、集約化で管理できます。たとえばエバーノートに、Webサイトのサイトマップのように、フォルダの一覧(ショートカット)を書いておけば困りません。
ノートは増やすより減らすほうが難しい。なぜなら、削除は自動化できないからです。かりに自動化すると、重要な情報も消してしまいます。だから、人間が消すしかありませんが、せっかく溜まったデータを削除するのには抵抗があります。もったいないと感じるから、心理的に難しいのです。有料で使っているなら、容量を使い切りたいだろうし。
この増加と減少の非対称性があるため、データが増えていくと、使う側の人間がついていけずに挫折するのです。そもそも、無限に増やすことは、どだい不可能なんです。「10万件」という仕様の上限が待ちかまえているからです*2。
データは後からでも増やせるので、まだデータが増えていない後発の利用者は有利です。物置を整理して書斎に使うのは大変ですが、書斎を物置化するのは容易です。だから、これからエバーノートを使うなら、小さい管理から入ることをオススメします。
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