岡田尊司『アスペルガー症候群』(幻冬舎新書)

概要

アスペルガー症候群 (幻冬舎新書 お 6-2)

アスペルガー症候群 (幻冬舎新書 お 6-2)

こだわりが強く、対人関係が不器用なアスペルガー症候群。他人の気持ちや常識が理解しにくいため、突然失礼なことを言って、相手を面食らわせることも多い。子どもだけでなく、働き盛りの大人にも見られるが、自覚がないまま、生きづらさを抱えているケースがほとんど。日本でも激増し、深刻な問題となっているが、シリコンバレーでは一割の人が該当するとも。家庭や学校、職場で、どう接したらいいのか? 改善し、特性を活かすには? すべてを網羅した一冊。

解説

発達障害の山脈

発達障害スペクトラムを、本書中のように山脈に喩えよう。従来からの自閉症は頂上にあり、アスペルガー症候群ADHDが裾野に広がり、さらに健常者の平野まで連続的に続いている。

本書は、医学的な「アスペルガー症候群」について書かれている。しかし専門家でない私は、医学的見地から述べられない。以下の文章は、健常者にも見られる「アスペルガー的気質」についてのコメントだと断っておこう。

鳥は飛ばせ

対人関係が苦手な一方で、得意分野は驚異的に詳しい、自分の世界を築き上げる人間。というと、ハッカー像(今ならギーク)がイメージできるだろう。じっさい本書中にも、ビル・ゲイツといった、ビッグネームが登場する。

アスペルガー的資質を持った人間は、能力をソツなく平均化するより、得意分野を伸ばした方が良い。また、マイペースで作業する方が、実力を発揮する。

そのことについて、鳥は走らせるより飛ばせる方が良い、という本書中の喩え話が分かりやすい。無理に鳥を走らせようとするのは、「労多くして功少なし」である。

だがそれ以外でも、偏っている人間は、社会生活を営む上で、様々な困難に直面するだろう。本書には、それを改善するアドバイスが載っている。特に、やるべきタスクやスケジュールを視覚化せよ、という助言は具体的で即効性がある。

「個性=障害」

これは私見だが、社会変化が「障害」の領域を広げた側面もあると私は思う。というのも、現代では第三次産業が増加し、サービス業など対人関係を本質とする労働が増えている。だから、対人障害が顕在化しやすいのではないか。

また、昔なら「職人気質」「変わり者」などと言って済ませていたものが、現代では精神医学の発達もあって、「障害」と再定義される側面があるのではないか。個性をなんでも賛美するわけではない。しかし、「個性=障害」とされてしまうのは、不幸な社会だろう。

もちろん、日本のような「出る杭は打たれる」横並び型社会では、対応が難しいことは容易に想像できる。日本の組織は一般的に、「KY」に象徴されるように、場の空気に同調するのが、最も重要視されるからだ。

しかし、シリコンバレーに代表されるように、アメリカの情報産業が発展したのには、そうした人材が活躍できたという側面はあるだろう。日本が今後、情報産業にシフトしていくのであれば、アスペルガー的気質という、人材資源の余剰リソースを活用することは、社会的にも有用だと考える。

生きるヒント

さて、本書は、アスペルガー症候群に関して、特徴・原因・対策を網羅している。しかも、予備知識のない一般人にも分かるよう、平易な文体で書かれている。もし「生き辛さ」を感じる人がいたら、読むとヒントが見つかるかもしれない。