ニコニコ動画紹介・自主制作アニメ『するめいか』(ルーツ)

紹介

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▲OPテーマ「王侯貴族のためのするめいか」付きの第一話「印鑑忘れる病」。亀戸に向かう総武線の電車内で会話する三木とサチ。サチは急に引っ越すことになったというのだが……。


するめいか』(制作・ルーツ)は、2009年7月からニコニコ動画で公開されている、自主制作アニメ(現在、第9話まで週間連載中)。原作は、Webサイト『Webマガジン幻冬舎』内の企画「THE B-TEAM 実況野郎文芸部」で連載している、同名のWebマンガ。なお、同タイトルの同人誌とDVDも、同人誌即売会で頒布された。

本作の内容は、ふたりの少女、渡辺三木(わたなべ・みき/CV・小岩井綾)と、鵜久森サチ(うぐもり・さち/CV・小春かんき)の軽妙な会話を中心に、実写動画の多彩な手法を織り交ぜたもの。軽いタッチのコミカルな作品で、一回が5分程度なので、肩の力を抜いて気楽に見られる。

解説

全体の印象を言うと、アニメ版の方が原作より数倍、数十倍面白い。なぜ面白いのか。

まず、『あずまんが大王』の大阪的なマイペース天然ボケ*1と、『らき☆すた』のかがみ的なツンデレ突っ込みという、ふたりのコンビが上手く噛み合っていることが挙げられる。これには、声優の演技が果たしている役割が大きい。特にツッコミ側が早口でテンポが加速することで、だれない。

世界観としては、日常萌え四コマは大体そうなりがちなのだが、やはり『あずまんが大王』『らき☆すた』のような、空気系のユル百合(恋愛にまでは発展しない同性愛的友情の関係性)がベースにある。じっさい、つかみ所のないサチが、ふいに好意を口にして、三木がデレる場面が出てくる*2

ゲームプレイ動画の実況をしていたという作者は、ニコニコ動画のコメントを誘うような小ネタをちりばめるのが上手い。だから、台詞の量が限られる四コマよりも、話を冗長に伸ばして脱線させられるアニメの方が向いている。それでいて長すぎず、飽きる前に終わる丁度良い長さで、よく編集されている。

キャラクターデザインでは、可動式のアホ毛が、サチの最大の特徴になっている。物語上の意味としては、「あほのこ」キャラ*3が少し入っていることを象徴する一方、デザイン上では全体に動きが乏しい画面にワンポイント添えて視線をひく。

アニメーションの技術面では、「Live2D」というソフトウェアを制作に使用している。これは、2Dベースでモデリングをして、それを3Dアニメーションで動かせるという、最近商品化された画期的なソフトだ*4。もっとも本作の絵柄なら、普通のFLASHアニメでも大差なさそう気もするが、(アイマスとか初音ミクのような)バーチャル性が生じる。

本作はコメントが付けられるという、ニコニコ動画の特性を活かした作品だ。コメントがつくことで、ユルくても間伸びしない。コメント・コミュニケーション、実写背景の使用、ツンデレの突っ込みとユル百合など、『らき☆すた』の要素をできる範囲で最大限に駆使しているので、ニコ動受けするのもむべなるかな、という感想だ。

*1:と、ともの強引さを少し足したような性格

*2:これも『らきすた』の「こなかが」構図。コメディとしてもサチが言うほうが、普段冗談ばかりなので本気かどうかわからず、ガチ百合のように重くならない

*3:あほのこキャラが成功している場合は、自由奔放に振る舞いつつ、かつ親愛を得られる。失敗している場合は、単なるアホに見えたり、羊の皮をかぶった欺瞞が感じられる

*4:未踏ソフトウェア創造事業に採択されている。また、IPA(情報処理推進機構)から「スーパークリエータ」の認定を受けた