『ライトノベルを書きたい人の本』

紹介

ライトノベルを書きたい人の本

ライトノベルを書きたい人の本

ライトノベルに関する書籍を出し講座も開く、文芸評論家・榎本秋による、ライトノベル作家志望者向けの文章作法本。

ラノベ自体の定義や歴史の話に始まり、「発想力」「観察力」「構成力」「描写力」をつけるための練習法や、「キャラクター設定」「世界観」「プロット」「書き出し」「視点」「タイトル」に関する技法、さらには新人賞応募の際にチェックするポイントまで教えてくれる。

もう少し詳しく言うと、たとえば「……」と「――」は偶数単位で使うというようなことが書かれていて、ブログなどWebだと適当に書いてしまうだろうが、新人賞に応募するならこうした約束事は知っておかなければいけない。

また、メモを取れ、音読せよ、物語の語り手はなるべく一人に絞れ、結末が弱くなる物語全体の回想形式は避けよ、など、ラノベに限らず物語一般を作る際に役立つノウハウがたくさん書かれている。

こうしたアドバイスは類書の作家志望者向けの本にも共通してあるが、逆に言えば基本を外さず押さえているということであり、初心者にとって親切丁寧な本になっている。

表紙もそうだが、本文にイラストが多用されているのは正解だろう。ラノベにイラストは欠かせないのだから、本書自体もそうするというのは自然だ。

また、著者は「ニュートラルな視点で」「多くの人が自分のやり方を身につけるための叩き台にできる本にしよう」という立場を取っているが、これを補完する実作者からの創作講座があるので、注目してみよう。

注目

あの有名な「女神転生」シリーズの原作者による「西谷史先生直伝! ライトノベル創作講座」。

(……)『当世書生気質』は学生たちに圧倒的に支持された。まさに明治10年代のライトノベルなのだ。

独特のラノベ観。私見では、「言文一致体」という明治の大変化があって、ライトノベルにしろケータイ小説にしろ、その変化の延長線上に位置していると思う。

「(……)オンラインで悪魔でも送りつけてやろうか……」と、冗談で口走ったことがある。
それがきっかけになって、『女神転生』という作品のアイディアが湧いたのだから、世のなかは面白い。

それで「シリーズ9作で80万部を超えた」というのだから凄い。また、「『神々の血脈』というシリーズの1巻目を書いた時、締め切り直前の2日間でストーリーの3分の1を書き換えた」など、印象的な逸話がある。

(……)余談ながら、ぼくは2ページや3ページなら、ほとんどの作家の文章を本人そっくりに書く自信がある。
ただ、赤川さん(注・赤川次郎)の文章は真似ができない。読者にしてみれば、とても読みやすくて平易な文章に見えるだろうが、その裏にはすさまじいテクニックが隠されている。

新鮮な作家評。ほかにも、20年前に書いた文章を自ら添削するなど、長年の作家経験に基づいた文章は、作家志望者にとって貴重だろう。

関連書籍

はやわかり!!ライトノベル・ファンタジー

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ライトノベル作家志望者のうち、特にファンタジーのジャンルが書きたいのであれば、同じ著者のこちらの本も参考になるだろう。裏表紙に「『30日で書ける小説の書き方』をルルル文庫編集部から伝授。」とあり、実際のライトノベル・レーベルが関わっているので参考になりそうだ。

ライトノベル・データブック 「作家&シリーズ/少年系」

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ライトノベル・データブック』

ライトノベルを「レーベル」「作家」「作品」に分けて紹介するガイドブック。六十人の作家と百以上の作品を扱い、ラノベ自体の資料として有用な本。書くことと読むことは裏表の関係にあるわけだから、書く前に読んでみるのも作家志望者にとって一つの手だろう。

また関連して、「ライトノベルの歴史をまとめた」『ライトノベル文学論』(NTT出版)も出版予定。

おわりに

新文学 - 萌え理論word

榎本秋様には、現在制作中の同人誌『新文学』に参加して頂く予定になっておりますので、ご期待ください。