Re:「『いい学校・いい会社・いい人生』という物語」

学歴神話

『いい学校・いい会社・いい人生』という物語 - アンカテ

30代くらいのお母さんたちは、ここで言う『いい学校・いい会社・いい人生』という価値観を固く信じている。(……)彼女たちにとって、『いい学校・いい会社・いい人生』は客観的事実になってしまっているのだ。そして、これに反する事例は全て「物語」なのである。

学歴が神話化しているというお話。まだまだ根強い学歴神話も、あっけなく崩壊してしまった土地神話安全神話と同じように、原理的には「物語」に過ぎないとは思います。ただ、だからといって決して事実無根ではなく、事実に基づいているはずです。学歴と年収との相関関係はあるでしょう。

学歴と実力の因果関係となると、もう少し不透明です。学歴は、頭が良いというよりも、育ちが良い人材を選別する効用があります。つまり、試験そのものが形骸化していようとも問題なく、受験ゲームに投資できる家庭に育ったという情報に意味があります。豊かな家庭に育つと豊かな文化・豊かな社交に触れている確率も高いので、文化資本も吸収できます。

整理すると、学歴には依然として人材選別のシグナルの効用があり、「彼女たち」が学歴を重視するのは合理的だと言えるでしょう。要するに、学歴が関係なくなるといった話は、どこか現実離れしていてうそ臭いのです。

価値創造

「分配と搾取の物語」の効用と限界 - アンカテ

「分配の物語」が「搾取の物語」に変わりつつある。これが日本において説得力のある「物語」なんだろう。「分配の物語」の中で価値があるのは、肩書きと権威である。(……)これまで日本において、価値の創造はこの「分配の物語」の中で行なわれてきた。

しかし、essa氏のこちらの主張は支持します。ここには、利己的プレーヤーが学歴・肩書きを求めるのは合理的だが社会全体では非効率になる、という「囚人のジレンマ」が基本にあります。つまり、イス取りゲームのイスを増やすことが必要です。そのイスは、人材を適材適所に配置することで増えます。「イスが先かヒトが先か」は「ニワトリが先かタマゴが先か」と同じ構造です。ここは分かりにくいと思うので、丁寧に説明します。

適材適所

工業が主軸の時代には、大量生産・大量消費するために、同質的な人材を量産するシステムが有効でしたが、現代はむしろ他との差異、独自性を持たせないと、中国などもっと安い労働力がある場所に下請けに出せばいい、ということになります。

でも、日本の教育モデルには、高学歴・大企業または公務員を目指すという一本道のルートしかいまだにありません。そして、その一本道を外れると、とたんに転落して、海外の安い労働力と競い合う苦しい道に落ち込む可能性が高い。

もちろん、公務員の仕事は重要ですが、社会を安定させる役割であって、価値を創出する役割ではないでしょう。だから、安定志向の人材を集めればいいものを、実際は過剰に税金を投入し民間より高い給与水準にして、有能な人材をみんな吸い上げてしまいます。

全体最適

現在の日本は一度イス(正社員の座)に座ったら他に移れない(新卒主義)ようになっています。だから、限られたイスに座れる一部の人間だけが勝ち組という社会になってしまう。私が提唱するのは、ある程度イスを移れるようにして、人材の最適化によって社会全体を豊かにするという道です。

ところが、バブル崩壊後の日本企業は、人を減らす方向の発想しかなく、イスの数を減らして地べたにザブトンで間に合わせようとします。今の日本は「実力主義」「自己責任」の名の下に、雑巾を絞るように人件費を削る手法が幅を利かせてしまい、人の行動は限りなく保守化します。

すると、人材が効果を発揮する機会が失われていく。人を育てないだけならまだしも、それどころか人材を使い捨て、しばしば産業廃棄物にしてしまいます。環境を大事にするのに人間は大事にしない。これも囚人のジレンマで、一社だけなら人材を使い捨てて産廃にした方が有利かもしれませんが、それを業界全体でやり出すと、さすがに人材資源が欠乏してきます。

結論

極端で乱暴な例になりますが、もっと分かりやすく言うとこうです。もしかりに、ゲイツジョブズといった天才がコンピュータに触れていなかったら、GoogleAmazonといった大企業が立ち上げられていなかったら、アメリカにとって国家規模の損失といっても過言ではないでしょう。ところが、日本はそのIFの歴史を実行しています。

特にOSのようなデファクトスタンダードの世界は、一社でシェアをほとんど持っていってしまう一人勝ちの世界なので、「出る杭を打つ」式の日本の流儀がマイナスに作用します。日本には杭を出せる場所がない。たとえば、ホリエモンは袋叩きだし、ネットは規制して、子供にデジタルを触れさせないようにします。そんなこんなで、アメリカとはすでに大差がついているでしょう。*1

*1:ただし、基本は適材適所であって、IT業界をスター化せよという意味の主張ではない。その辺りの文脈は関連記事から辿れる