Re:「プロは無償で商品を作ってはならない」

例外と他者

プロは無償で商品を作ってはならない - E.L.H. Electric Lover Hinagiku

  1. 描いた絵に発生する原稿料や印税で生活しているプロが、
  2. 商品のパッケージイラストを無償で描く

というのは商売仁義として原則アウトなのだ。

ニコニコ系嫌儲バイブル - ls@usada’s Backyard

「宣伝になるからOK。むしろ感謝されるべき」の根拠として利用するか、または「あの有名な〜がタダでやってるのにお前が金を取るのか」といった利用法が基本。

さしあたり、漫画家の三浦建太郎氏の行動自体(無償でイラストを提供する)が問題ではなくて、それを根拠にして嫌儲(儲けの発生を嫌う)の流儀を押し付けることが問題とされています。

ただもう少し言えば、有名絵師が無償で受けると無名絵師が巻き込まれる状態は、「上司が残業していると部下が帰れない」現象に似ています。ここで、部下が帰れない責任は上司にあるのか職場にあるのか、というのは複雑で微妙な問題です。

あるいは、日本人旅行者が気前良く払うと、後続がぼったくられるという話にも似てきます。こうなるともはや、もっぱら旅行者に非があると感じるでしょう。上司−部下との関係とはどう違うのでしょうか。それは、旅行者の相手が外国人だというところです。

つまり、他者の位置づけが問題なのです。一般化の対象に含めるべき「個別」と、含めない「例外」を区別できるのは、同じ共同体に属する成員です。先の例で、外国人にとっては、旅行者が例外的に気前が良いのかどうかは、区別がつか(け)ない。そして嫌儲は、無償を例外ではなく一般的な(一般化すべき)ものとして認識します。

個人的には一枚くらいで別に大騒ぎしなくても構わないような気がします。あの素晴らしい三浦建太郎氏とはいえ、たった一枚でそこまで影響力が大きいとも思えません。ただ、次回以降も毎回無償が前提になってしまうのなら、問題かもしれません。

主観と相場

フリーランスは仕事が選べるようになるまでは、実質的に対価の交渉はできません。他に代替になりうる仕事がなければ、自然と相手の言い値に落ち着くでしょう。とすると、頂点のプレイヤーが相場を引っ張り上げてくれないと、玉突き状態によって、底辺のプレイヤーがダンピングで苦しむハメになります。だから、最初の記事で無償性が批判されています。

これに対し、戦略的に無償で受けるのはアリだろうと反論するエントリがあります。これまた微妙なところです。手塚治虫が安く請けてしまったために、末端アニメーターが安い賃金で苦しむという話がありますが、そもそも手塚が請けなければ今日のアニメ業界はもっと細々としたものになっていかもしれません。

こういう曖昧性が生まれるのは、工業資源などとは少し違って、(労働)価格に人間の主観が入っているからです。クリエイターは志望者が多いために、安くても請ける代わりの者が幾らでもいます。「好きでやっている」というのは個人レベルの主観ですが、数が集まれば相場を形成する共同主観になります。

相場が最初から固定されているなら、例外は例外として処理されます。が、前述のように主観が入っていたり、歴史を作っていったり(裁判所の判例のように)する場合、個別の事例は相場を形成する材料、すなわち価格創造・価格破壊の一因になります。

ニコニコ動画をはじめIT業界の歴史が若いし、コンテンツをフリーにしようとする動向があるために、先例が出来ると右へ倣えの流れができそうだ、という不安も分からなくはありません。

結論

従って私の結論は、あくまで「例外」に留まるなら別に構わない、というものです。