「日本語の作文技術」

日本語の作文技術 (朝日文庫)

日本語の作文技術 (朝日文庫)

文章技術本の古典的名著である。四半世紀前に書かれたこともあって、技法書なのに思想的にアジってる部分があるし、ややクドめの書き方だけれど、それを差し引いても断然素晴らしい。序盤・第四章までの部分にこの本の重要な価値がある。解説の多田道太郎もそう言うように、時間がなければそこだけ読めばいい。そこでは読点(「、」)の打ち方の原則を説明している。学校で教わらないから仕様がないが、何となく息継ぎのタイミングで、適当に点を打っていたりしないだろうか。そうではなく、画期的に単純な法則で、点を打てるようになるだろう。

大雑把に言うと、長くて複雑な修飾語から順に書くのがまず基本にあって、それが逆順になるか、ある程度の長さで同じになったときに読点で切るのである。要するに、修飾語を長さ順でソートして、a≦bという並びのときに、判定して点を打てばよい。そのように推敲を機械的にこなせるようになる。ただし、ではなぜ逆順が必要なのかという疑問が出てくるだろう。そういう詳細は本書を読めば分かる。

もちろん、本書は分かりやすい文章を書くための本で、美しい文章を書くための本ではないので、これ一冊で文学的・芸術的な文章が書けるようになるわけではない。だが、新聞記者であった著者の実践的・実用的な文章技術の集大成になっている。「テンはどう打てばいいんだろう」といった素朴な疑問に、文章作法本にありがちな曖昧な精神論を出さずに、正面から答えている。以前にも触れたが、私も大きな影響を受けた。