エロゲの時間論

エロゲの時間論

ロリコンファル - エロゲをエロくするために! −エロゲライターさんとエロス論−

オセローは、デズデモーナを愛しているがゆえに、彼女が生きている(ダイナミックである)ことに耐えられないのです。愛する彼女を永遠の不動(死)のなかに封じることでようやく彼は安心できる。

(純愛エロゲは、愛の不動の形に到達して、動きがなくなり、そこで時間が停止して終わるわけです)

さすが的確な指摘ですし、愛と永遠と時間というテーマは、面白そうです。純愛系エロゲ特に泣きゲは、死の永遠性を愛の永遠性へと、変換することで感動を呼び起こします。もちろんヒロインが必ず死ぬとは限りませんが、その場合は記憶による無時間を用います。典型的なのは過去の約束でしょう。幼い頃に約束したことが、未来に渡っても二人の絆になるであろう、というのは最もよく用いられる定型です。ここで約束というのは、可能性を縮減することですが、それはつまり部分的な死に他なりません。

純愛系に限らず、エロゲは時間の減速を用いることが多いです。例えば、閉鎖空間もの*1やループ時空もの*2は、時間の流れを感じさせないことが多いです。特に、『慟哭 そして…』や続編の『REVIVE 〜蘇生〜』は、完全に外界との連絡が絶たれるという設定によって、タナトスとエロスが同居する非日常空間を演出しています。つまり、時間の減速によって、外部の公的空間から隠蔽された私的空間を創出し、性的関係は私的関係なので、おあつらえ向きということなのです。

逆に加速させる場面は、エンディングに多いでしょう。しかし、個人的な感想ではありますが、「X年後…」などと結末で何年も時間を飛ばす手法は、何度見ても違和感を覚えます。これが小説だとそんなに違和感がありません。これは、エロゲが時間の共有をさせるメディアだからだと考えます。まず、プレイする時間が長いのに対して、(特に学園物とか)物語は遅々として展開せず、普通の会話をしていたりします。そして、Hシーンは執拗に描写するため、相対的に他のシーンよりも減速状態に置かれます。そうすると、結末の加速に、プレイヤの想像力が着いていかないわけです。

しかし、この時間の共有という感覚には、曖昧で微妙な面があります。「井上涼子」シリーズなど、内部時計による時間同期型のシステムを採用したギャルゲが、あまり大流行しないように、時間の共有というのはリアルタイムのことではなくて、意味的共有です。どういうことか。例えば、『EVE』シリーズのような推理型のADVだと、謎が解ける、またはフラグが立つと、時間が一気に流れ出します。特に夕暮れ時に日が落ちるのが早い。もちろん、物理的時間の流れは一定のはずですが、心理的時間不定なのは、「退屈な時間は長い」というように、普段よく経験するでしょう。つまり、時間(感覚)が動的なのです。

*1:典型的なのは館もので、『河原崎家の一族』などがある

*2:『この世の果てで恋を歌う少女YU-NO』など