「AでもできるB」型題名の心理

たけくまメモ : タイトルに著作権はない

「AでもできるB」型題名

頭から尻尾まで「パクリの嵐」である『サルまん』にあって、唯一オリジナルと呼べるものがこのタイトルであるのです

「AでもできるB」型の題名は以前からあった。「初心者でもできる〜」「小学生でも分かる〜」「偏差値40からの〜」といった題には「通常AがBをするのは難しいが、この本を読めばできる。ゆえに買って」という含意があるだろう。Aに期待される能力が低く、Bをするのが難しいほど、書籍Cの価値があるというわけだ。つまり、「A+C=B」。だから、『サルまん』にオリジナル性があるとすれば、それまでは最低限人間だったAの底を抜いて、不穏当なまでに低めたところにあるだろう。

読者を馬鹿にした題名

このタイトルが素晴らしい証拠といってはなんですが、それこそ『サルまん』を発表した直後から、『サルでも…』というフレーズがあちこちでパクられまくったわけですよ。

竹熊が自画自賛しているが、本来はよくないタイトルだと思う。それは素朴に、読者を馬鹿にしているからだ。日記を見るとたまに「サルでも〜」「バカでも〜」式のタイトルに怒っている人がいる。もっとも『サルまん』自体は全体がパロディで自分自身も嘲笑の対象になっているからまだいい。つまり作者も自らを馬鹿にしてみせることで、傲慢さを解消して洒落にする。しかし、その影響を受けた書籍群が、何の相対化の意識もなく、表面上だけマネてベタに「サルでも」「バカでも」式のタイトルをつけているのはいただけない。まあ編集者が取って付けたかもしれず、そうすれば本文と関係が薄くなるだろうが、そもそも中身と解離している題名自体が問題だ。

読者の立場に立たない題名

「AでもできるB」は結局、(実用書に多い)「誰でも〜できる」タイプの題名の派生だろう。さらにその心理を分析してみると、読者の立場に立っていないことが多い。例えば単に「買ってくれれば誰でもいい」という心理がありそうだ。それに「みるみる(グングン)〜できる」「信じられないほど(ビックリするほど)〜」「○個の法則」「○週間で〜できる」「○○万円儲かる(稼いだ)」「奇跡の方法○○!」などと安売りの紋切り型はインチキ臭い。個々の読者の状況を考えずに、ただこれだけやれば上手くいく、という安直な思考だ。しかし、現実には個人差がある。『サルまん』自体は、マニュアル風を装いながら、マンガのマンネリズムを否定せずに、むしろ積極的に誤用し、解体し、笑う本だけれども。