萌魔導士アキバトロン(11)

萌と二人で朝飯を食べながら空模様を眺めると、梅雨を予感させる曇天が窓一面に広がっている。
「降るかな」
「ふるふるもぐもぐ」
答えているのか味わっているのかバカにされているのか曖昧だが、傘を持っていった方が良さそうか。折りたたみを一本カバンに入れて靴を履く。萌はといえば、オレンジジャムをたっぷり塗ったトーストにまだかじりついている。トロイ。玄関を開けると絵理がいた。
「な、なにか用?」
「お迎えに参りました」
彼女は木刀を持参している。また襲われたりするのだろうか。
「いえちょっと……お守りするために」
涼しい顔でさらりと言う。誰かに狙われているとでもいうのか。
「もし志朗殿に万が一のことがあっては、わたくし……」
昨日の今日でいきなりそんなこと言われてもなあ。しかし、彼女に逆らうメリットがない。
「同じ萌理学園に通うことになりますから。わたくしも後期一年生です」
そして新しい自転車は寝かせて置いたまま三人で登校する。御嬢様の方がよっぽど狙われそうなものだが、まあ彼女なら一人で戦えるだろうし、近くに黒服が待機しているのかもしれない。絵理は無言だし萌はまだパンをくわえている。このトライアングルの緊張を解こうと、思い切って言葉を投げかけてみた。
「その木刀なんだけど……」
「ご安心ください! ちゃんと中に真剣が仕込んであります」
絵理は梅雨を吹き飛ばしそうな爽やかな笑顔で答える。この娘はいったいどういう環境で育ったんだろう?
「そういえば昨日は変な夢を見ちゃって」
話題を戦闘モードから切り替えようと、萌に話した内容を繰り返す。絵理は興味深そうに聞くと、「レモン」は「霊門」「霊夢」といった単語かもしれないと返した。同じ二十一世紀生まれとは思えない神秘的な発想である。古い家に育ったからか。今朝の夢を話したらどうなるか気になった。でももう学園が近いから後にしよう。そして校門をくぐると、小型ミサイルが飛んできて歓迎してくれた。


   (続)