萌魔導士アキバトロン(4)

下校時

「夢の中でレモン?」
「発音はよく聞き取れなかったから…本当は『れも』とか『れみ』かもしれない」
自転車を押しながら萌と一緒に帰宅する。
「……レモンっていったらやっぱりキスの味?」
「さあな」
帰りまで別々なのは冷たいと思ったからだ。
「どっちかというとキスはメロン味だと思う」
「そう?」
突然、彼女は地団駄を踏むようにおおげさに立ち止まる。スカートが揺れる。
「志朗、おなかがすきました」
「語尾を強調するなよ」
「ボクはおなかがすきました!」
顔が近い。新しい制服にまだ馴れず、普通の女の子のような印象に戸惑う。
「わ、わかった」
「メロンパンたべるたべる」
彼女が指差した先には、ガラス一枚隔ててパンが並んでいた。ただのパン屋ではなくカフェを兼ねてケーキも売っているような女の子好みのおしゃれパン屋である。もちろんPCのジャンクを売っているような店は今もあるが、ふつうの食べ物屋も秋葉原には多い。
「すっご〜いこれ見て、パンが割れて中にクリームが載ってるよ。」
「ふつうだろ?」
「アーティスティックだよ。ファンタスティックだよ。エキゾチックだよ」
エクソダス?」
「あま〜い。興奮しちゃうよ。ハァハァ……」
なんだこいつ。まあよく知らないが、彼女にとってはメロンパンの常識を覆してるのかもしれない。
「あなたが志朗君かしら」
そのとき、同じ萌理学園の制服を着た少女が、志朗の前に立ちはだかった。


   (続)