萌魔導士アキバトロン(3)

自己紹介


新しい教室で担任の事務的な説明やクラスメイトの社交辞令的な自己紹介が行われている間、今朝図書室で眺めていた五冊の本を志朗は読み返す。脳内で。合計1039ページの画像は完璧に複写できている。あくまで機械的なコピーに過ぎず、知らない字は読めないのだが、漢和字典も一冊暗記しているのでだいたいは大丈夫だ。そして彼の番が来る。
「……趣味は読書です。よろしく」
歩くデータベースと呼ばれていた志朗は、他の生徒がそうするようにあくまで平凡を装って挨拶する。どうせ他の生徒も後期一年生だから一癖も二癖もある連中に決まっている、志朗はそう考えていた。後期一年生というのは六月一日から入学する生徒たちのことだ。少子化のために幅広い進路のあり方を見直すべき――などというもっともらしい名目で始まった制度である。
やがて自己紹介が終わる前に本の方を読み終えてしまった。このペースなら在学中に図書室の本を完読するのはたやすいだろう。暇をもてあました彼は、寝ていた間の入学式の記憶を巻き戻す。さすがに睡眠中の映像はないが音声イメージはある。キュルキュルという不快な再生印象に耐えながら想起した。特に有意義な情報は見当たらない。もうすぐこの短い授業も終わって帰れる。萌はどうしているだろう。


   (続)