『左巻キ式ラストリゾート―ぷにふごEX』


『嫌オタ流』をまだ読んでない身としては、
客に売る物に「( ゚Д゚)、ペッ」と唾を吐く
書店の態度の方がなにげに気になるのだけれど、
それはともかくとして、著者たちの一人の
海猫沢めろんラノベデビュー作である
『左巻キ式ラストリゾート―ぷにふごEX』
をレビューしよう。セカイ系ミステリーだ。
ややネタバレを含むので注意されたし。


海猫沢が某編集部に電凸で依頼した
鬼ノ仁が表紙イラストを描いていて、
普通のエロゲノベライズに見えるが、
中身は大方の予想を裏切るだろう。
普通の萌えを期待してはいけない。
原作のゲームともキャラ以外関係ない。
「現実なんて見たことない。」
という帯のアオリにあるように、
セカイ系の本なので覚悟する必要がある。
冒頭も「ひぎい」を連発してカマシ気味だ。


まず、最初の設定で結末が予想できるのはよくない。
ただし、タイトルや挿絵や冒頭で一句読むことが
伏線になっているのは良い。意外に構築してる。
途中で少しだけ触れている現象学とかは飾りに過ぎない。
それよりもDTPの遊びの方がまっとうに機能している。
著者は広告制作でDTPを経験していたらしい。
そういうのも含めて全体的にファウストっぽいテイスト。
新伝奇ではないけれど。ちなみに笠井潔も読んだらしい。


内容だが、実はよくまとまっている。書き殴ったと見せかけて、
意外と読み応えがある。少なくともエロゲノベライズの中では
異色の作品なので、一度読んでみる価値はある。
しかし不満としては、舞台設定が書割りでキャラが類型だし、
しかも「ミステリ調→物語崩壊→自己に直面→現実に帰る」
みたいな図式もいい加減飽きてきた。しかもエヴァと違い、
主人公がこの世界に思い入れがなく、最後に悲壮感がない。
内容=退屈な日常現実への回帰する辛さ、と
形式=偶然巻き込まれたが元々興味ない、ことが合っていない。
だからラストが、言わんとしてるほど痛切ではない。これがまずい。


無理やり12人出ていて、一人一人が薄い。
「データベース」から抽出するのはいいとして、
ただ並置するだけでなく、最適化する必要がある。
例えば、ひよことぎーことみここ、それみとるみなど、
遠縁の属性を持つ者同士の関係が何か欲しいところだ。
ほんの一筆書きでいいから、放射線状のハーレムではなく、
横の繋がりがあると、作品世界の厚みが増す。
そこら辺は読者が妄想で補完するしかないかもしれない。
それと、本文に鬼ノ仁のイラストはあるのだが、線画。
なのでもし読むなら、まず最初に公式のキャラ設定を見て
キャラを把握しておき、少しずつ読んだ方が楽しめるだろう。

量子論とキャラ

長門有希は眼鏡をかけているか(そしてキョンは量子化される)
可能世界論を看板に掲げている以上、後だしだがもちろん量子論は考えてはある。
だいたい量子論ゲーム理論も同じフォン・ノイマンが関わっている。そのうえ、
コンピュータがなければエロゲギャルゲもないわけだから、重要な人物である。


さて、「萌え」という現象は、コペンハーゲン解釈で喩えるのが向いている。
作品・作家・版元などの粒子としてのキャラクターの次元と、
それをすり抜ける波動としてのキャラの次元と二つある。


以前定義したように、萌えは可能好きで、
(ちなみに「可能好き」は「可能世界の恋愛感情」の短縮形でもある)
そのキャラクターの様々な可能性が重ね合わせられているが、
シュレーディンガー猫耳娘)
観測者である(例えば美少女ゲームの)プレイヤーが
ゲームをプレイするなどして観測すると、波動は収束する。


そしてここで分析するにあたっては、
それを多世界解釈で捉えなおしている。
ただし、多世界解釈そのものを使う機会はあまりないだろう。
可能世界論の起源はライプニッツあたりだが、
その理論装置である「モナド(単子)」を使う。
モナドはアトム(原子)と違い、宇宙全体を反映している。
これは、キャラがジャンル全体を反映しているのと同じだ。

廃人への下り坂とエンジンブレーキの必要性

萌え関係のコンテンツを遊んだりだとか、
ネットをしていると、至る所で供給過剰さを感じる。
複雑性を縮減する方向でのサービスはないだろうか。
もちろん企業は手を尽くして売ろうとするので、
わざわざ販売機会を減らすようなことはしない。
だがそれでは『スーパーサイズ・ミー』のような
ユーザーへのしわ寄せという側面もあるだろう。


ネトゲなどネットが廃人を生み出しやすいのは、
常時接続のADSLをはじめとして、
時間による制約がないからである。
テレビならば、幾らその番組が好きでも、
放送された時間以上は見れない。
(ビデオなどで繰り返し見ることはできるが)


豊富な機能より、洗練された機能が欲しい。
膨大なリンクより、厳選されたリンクが欲しい。
商品の一覧よりも、商品の一部だけを見たい。
なぜなら時間もお金も浪費してしまうからだ。
フィルタリングはそれはそれで問題があるだろうが、
それにしてももう少しなんとかならないか。


最近はてながプロフ画像を付けられるようになったが、
画像無しですぐ読み込まれる方がストレスがない。
またWindowsメディアプレイヤーが過去の軽いバージョンが
人気だったりするが、重いことのコストは大きい。
重いPDFファイルはネット上で嫌われているが、
なぜシンプルな方向に行ってくれないのか。


われわれは言わば下り坂を下っていて、
大量の情報などを前にし、
「〜が欲しい」というアクセルよりも、
「〜はいらない」というブレーキを踏まなければならない。
だがあまりにも坂が長く急なら焼けてしまう。
そこでエンジンブレーキが必要になる。


具体的な例を言おう。例えばこの間、アマゾンから
エロゲが届いただけで、もういいやという気分になった。
いざ遊ぶとなると、時間が掛かりそうで胃がもたれる。
スキップしまくりで攻略を見ながらとか、
更にはセーブデータでいきなり回想だけ見ても、
それはそれで味気ない。どうすればいいか。


そこで、キャラクターごとにバラ売りしてくれないだろうか。
自サイトからのダウンロード販売とかなら、
あのデカイパッケージの無駄がないし、中古やny対策になる。
実際には流通関係でダメなんだろうけど、単にユーザの視点から述べた。
でも「みずのかけら」とか、ないこともないし、
DLsiteが商業も扱うようになった。
(ゲーラボの記事によると、主力は出せないらしいが)


とにかく、複雑性を縮減するようなサービスが欲しい。